MMA
インタビュー

【RIZIN】“格闘技に命を救われた男”が回り道してたどり着いたRIZIN参戦、石司晃一「日本一にならずして、世界に挑戦っていうのは違う」

2023/03/31 13:03
 2023年4月1日(土)丸善インテックアリーナ大阪(大阪市中央体育館)にて『RIZIN.41』が開催される。第5試合のバンタム級(5分3R)で金太郎(パンクラス大阪稲垣組)と対戦する石司晃一(フリー)が3月30日、大阪府内にて個別インタビューを行った。  生まれたときから父親による虐待、病気で死にかけ、ゲキ痩せによるいじめ、14歳で「気が付いたら絶望しかない人生」で自殺しようと思っていた、という石司の半生が、今回のインタビューにあわせて、RIZIN公式YouTubeおよび『RIZIN100CLUB』にて公開されている。 「どうせ死ぬなら最後に格闘技をやってみよう」  まだ中学生だった石司が、絶望を断ち切ろうとしたとき、浮かんだのは「最後に格闘技をやってみよう」という思いだったという。 「どうせ死ぬなら格闘技をやってみようかなって──リングで戦うファイターは自分にとって憧れで、テレビで見るそういう人たちは戦う才能に恵まれた、もともと自分とは違う人間がやっていることだと思ってたから、それまでやりたいとは思ってなかった。むしろそんな怖いことを自分なら絶対出来ないしやりたくないって思ってたけど、これでもう死のうと思ったときに、当時の自分としては突拍子もないこと──格闘技、どうせ死ぬならやってみようかなって思い浮かんで、それが格闘技を始めるきっかけでした」  中3から極真空手に入門。「自分からやりたいって言ったことなんてなかった」石司の願いに、母親は月謝を工面してくれた。  道場での稽古は痛みを伴ったが、虐待と異なり「嫌な痛さではなかった」という。「頑張れば自分もこういう人たちみたいになれるかな」と思い、空手を続けるなかで、嫌がらせやいじめもなくなり、「格闘技が自分のことを助けてくれた。人生が変わりました」と振り返る。  苦しみながらすこしずつ体力をつけて、4年間をかけてようやく初めての試合。怖かった試合に向かうことが自信になった。  顔面打撃ありに向かうきっかけはPRIDEだった。大晦日の格闘技で顔面パンチのKOを見て、まずはキックボクシングを始めた。  アマチュアで12戦全勝も、もともとの虚弱体質で、平日練習すると土日はまったく動けず。腰の怪我から騙し騙し練習するまでに1年。完治まで4、5年かけて中国で敗れ、キックから離れた。 [nextpage] 「MMAでチャンピオンになるか、死ぬか」  そんなときに実家近くに総合格闘技のジムが出来た。寝技師・門馬秀貴によるブライトネスだった。 「最後にもともと好きだったMMAをやってみよう」  そう思い、入会したジムは「今まで自分がやってきた格闘技と違って、みんな楽しそうにやっていて、寝技をやってみたいと思った。もともとPRIDEに憧れて、自分には総合は無理だと思っていたけど、寝技がすごく面白くて、嫌なだけだった練習が楽しくて、失われた情熱が戻って来た」  アマチュアDEEPで8戦全勝も「格闘技のセンスはあるけど身体が弱い」状況は変わらず、MMAでも2年かけてプロに。強くなるために、ストイックになることを自らに課し、「友達を作らない、彼女を作らない、遊ばない」のルールを決めて取り組んだ。 「MMAでチャンピオンになるか、死ぬか」──の思いのなか、デビュー5年で10試合しかこなせなかったが30歳、無敗でタイトルマッチにこぎつけた。 「当時、RIZINでバンタム級トーナメントが決まっていて、堀口恭司選手、所英男選手のほかに、DEEP・修斗・PANCRASEの王者一人ずつ選出されると聞きました。タイトルマッチに勝てば、DEEP代表になれる」  そんな中、臨んだ2017年5月の試合で、石司は、当時のDEEPバンタム級王者・大塚隆史の持つベルトに挑むも、僅差で敗れ王座戴冠ならず。7月にはいち階級上げて、眼窩底骨折を隠して上迫博仁とのフェザー級王座決定戦に臨んだが、2RにサッカーキックによるTKO負けを喫し、2連敗となった。  復帰2戦も、内臓の病気で身体が思うように動けず。10カ月で3連敗し、長期欠場を決断した。「リハビリのような練習」から再開し、MMAスパーに戻るまで1年かかった。  そして、1年8カ月のブランクを経て、試合に復帰すると5連勝。2022年11月に、バンタム級暫定王者のCOROとベルトを賭けた再戦が実現し、1Rに右ストレートでダウンを奪うと2R・3Rも優勢に試合を運びフルマークの判定勝利で、悲願の王座戴冠を果たした。 [nextpage] 「DEEPでベルトを巻くまでは、上の舞台のことは絶対に言わないって決めていました」 「連敗もして、周囲は“弱くなって辞めていくだろう”という声も聞こえてきたけど、自分は全然、折れてなかった。体調が良くなってくれば練習も出来て、全然、勝てると思っていた。やっとずっと目標にしていたDEEPのチャンピオンになることができて、MMAで日本一の選手になって、その先の世界へ──と目指してやってきたんで、日本一になるためにRIZINに勝負に行くんだ。そこまでやっと来ることが出来た」  実は、5年前のタイトルマッチで敗れた後も、RIZINのオファーはあった。欠場者が出た際に、連勝中の石司に白羽の矢が立てられたが、石司はそのオファーを断ってきたことを本誌の取材で明かしている。 「DEEPでベルトを巻くまでは、上の舞台のことは絶対に言わないって決めていました。佐伯(繁・DEEP代表)さんを通して、負傷欠場の代役としてRIZINからオファーを貰ったこともあります。その時も同じ気持ちだったので、『話を聞くつもりもないです』って断固拒否しました。自分が戦っている団体でチャンピオンになっていないのに、上のステージに行くなんてありえない。同じようにUFCやBellatorで戦うなら、日本一にならずして、世界に挑戦っていうのは違う」  それほどまでに頑固で、世渡り下手ともいえる石司の格闘技に対する真摯な思いが、今回のRIZN参戦に込められている。 「30半ばで日本一になって世界へなんて、みんな馬鹿にするのは分かってるけど、子供の頃から馬鹿にされるのは慣れているから自分にとっては何でもない。今までの人生を思えば、20年かけて苦しみながら、回り道をしながらやっとここまで来たんで、これからもっと強くなって、これから絶対勝ち上がって行くんだって信じてやっている。それをRIZINのリングで果たしていきたい」  対戦相手の金太郎も、石司とは別のストーリーを胸に戦いの舞台に上がる。リング上では、そのどちらにも等しく、勝敗が待っている。  石司は、「格闘技でもうまくいかなくて苦しいことばかりだったけど、格闘技を始める前と違って、頑張れば何とかなるんじゃないかという“希望のある苦しさ”だった。だから格闘技に命も救われたと思っています」と、一度は見放した人生を生きる思いを語る。  虐待していた父から家族は離れた。身寄りもなく一人暮らしでがんになった父を、近年、石司は訪ねている。「殺してやる」と思い続けていた父との再会と、リング上で果たしたことは、『RIZIN100CLUB』で見ることが出来る。  試合直前の、石司との一問一答は以下の通りだ。 [nextpage] 石司「1個1個を見たら、全部自分の方が上だと思っています」 ──大会まであと2日に迫った心境は? 「まだあんまり“さあ、試合だ”とはなっていないですね。明日の計量のことをいまは考えていて、計量が終わってから試合だってなると思います」 ──RIZIN初参戦の反響は? 「うーん、多少はありましたけど、友達とか少ないからあんまり(笑)。特にそんな言われることはないですね」 ──練習環境は? 「トイカツ道場でのプロ練習、柔術の道場やフィジカル練習ですね。柔術はちょっと前まではカルペディエムに行っていました」 ──対戦相手の金太郎選手の印象は? 「打撃で倒す1発を持っていて、思い切りのいいというか、ストライカー系の選手だなと思います」 ──今回の金太郎戦の勝敗によってRIZINのバンタム級戦線でどこにいるかが分かる試合になる? 「そうですね……今回勝ったらもうちよっと上の相手と戦えるので……まあ、今回だけで自分の立ち位置が分かるというよりは、一個ずつ上の相手順番に倒していって、一番上まで勝ち上がりたいなと思いました」 ──どんなところを見てもらいたいですか。 「トータルで戦うところもあるんですけど、自分も打撃とか勝負しに行くんで、思い切りよく戦うところと、気持ちで戦うので、そういうところを見てほしいです。展開は……やってみないと分からないですけど、どういうところで戦っても勝てるので、しっかり完封して勝ちたいと思います」 ──金太郎選手用のサウスポー対策は? 「サウスポーの選手とは多めに練習してきました。ローキックは構えが異なるのでそんなに有効だとは考えてないですけど、ただほかの技が、右の蹴りだったり入りやすくなるので、そういうところでやりやすいところもあるので、オーソの相手とは違う使い方になると思います」 ──金太郎選手を上回っている部分は? 「基本的に1個1個を見たら、全部自分の方が上だと思っています」 ──おおっ、すごい自信ですね。 「ただ、試合なんで実力差があっても1発でひっくり返るので、そういうところは気を付けなきゃいけないなと思っています」 ──これまで「DEEPで王者になるまでRIZINに出ない」と決めてやってきた石塚選手ですが、PANCRASEで王座戦までやった金太郎選手と戦うことはどんな意味を持ちますか。 「特にバンタム級は、RIZINにトップ選手が集まっていると思うので、そのなかで強い選手たちと戦って勝ち上がっていけるのは、やっとこの中で戦えるな、と。自分にとって嬉しいことです」 ──5年前にタイトルを獲ってRIZINに参戦していたら、あるいは欠場者が出たときにRIZIN出場のオファーもあったかと思います。それでもDEEP王者になるまでは出ないと固辞してやってきた今と、以前のチャンスがあったときと比べて、どんな違いがありますか。 「途中、悪い期間もあって、調子を取り戻してきて、実力的にもメンタル的にもいまの方が上だと思っているので、そういうものを見せていきたいなと思っています」 佐伯代表 自炊の話は? 減量の前も後も自炊してるでしょ? 「はい、自炊して……普通じゃないですか?(苦笑)」 佐伯代表 減量後はみんな食べに行くよ。 「自分は自炊で……道具も持ってきました。ホテルに米と炊飯器を持ち込んで、ご飯と油少な目の肉と野菜と果物と納豆とヨーグルト、梅干しとか、いつも食べている健康的なものを食べます」
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