2023年3月18日(日本時間3月19日)英国・ロンドンのO2アリーナにて『UFC 286: Edwards vs.Usman 3』が行われる。
メインイベントは、ウェルター級新王者レオン・エドワーズ(英国)が地元ロンドンで、前王者カマル・ウスマン(ナイジェリア)を迎えうつ因縁のダイレクトリマッチ。19連勝中だった“絶対王者”ウスマンを、最終5Rに左ハイキックでKOに下し、新王者となったエドワーズ。この両者による再戦の見どころをWOWOW「UFC-究極格闘技-」解説者としても知られる“世界のTK”髙阪剛に語ってもらった。
1Rの攻防で「エドワーズの四つ組みはちょっと面倒だぞ」と分かって、その後、ウスマンの戦い方が少し変わった
――『UFC286』のメインはエドワーズvs.ウスマンのウェルター級王座を賭けたダイレクトリマッチ。前回は2022年8月、絶対王者だったウスマンが最終5ラウンド残り時間1分を切ったところで、エドワーズの左ハイキックを食らって、キャリア初のKO負けという大番狂わせでしたね。
「そうでしたね。なので今回、自分も“なぜ、ああいう結果になったのか”という要因を見つけるために、前回の試合をあらためてじっくり見直してみたんですよ。そうしたら、いろいろと自分の中で見つかったことがあって、これを頭に入れてもう一度前回の試合を見直すと、相当面白いと思います」
――どんなことが見つかったんですか?
「ウスマンっていうのは、大学時代にNCAAディヴィジョン2のオールアメリカンに3度選ばれて全米優勝もしているので、レスリングの攻防にめっぽう強いことはみんな分かってると思うんです。けれど、こと四つ組みに関しては、エドワーズがウスマンの上を行ってたなと思ったんです」
――そうなんですか!?
「1ラウンド目にウスマンがテイクダウンされたじゃないですか。自分はあれがすごく気になってたんですよ。“なんであんなに簡単に倒されたのかな?”って。ウスマンがテイクダウンされたのは、あれが初めてだったんですよね」
――それまでウスマンは、UFCで負けたことがないだけじゃなく、寝かされたこともない。テイクダウンディフェンス率100%だったんですよね。
「しかも粘って粘って寝かされたわけじゃなくて、小外刈りでスコーンと倒されて一気にマウントまで奪われたので。“これはタイミングが良かったのか、ウスマンが気を抜いてたのかな?”って思ってたんです。でもあらためて見返したら、あれはエドワーズの四つ組みが相当強いからこそ起こったことだったんです。自分もWOWOWの生放送中に気づけばよかったんですけど、テイクダウンの印象が強烈すぎて、その前の攻防が頭から飛んじゃってたんですよね」
――テイクダウンがうまくいったのは、単に小外掛けが決まっただけじゃなくて、その前に伏線があったと。
「初っ端の1ラウンド1分20秒すぎに、ウスマンがジャブからタックルにつないでケージに押し込むことに成功したんですけど、その後、エドワーズは差し合いで四つに戻して、オクタゴンの中央まで逆にウスマンを押し戻してるんですよ。そこでウスマンが“あれっ!? やべえな”って感じになったところで、外掛けで倒してたんです」
──本来、ケージレスリングや組んでからの攻防はウスマンが得意としているだけに、差し返されたことで逆に倒される要因になったしまった、と。
「ケージにしっかり押し込んでからはウスマンのほうが圧倒的に上なんですけど、四つに戻す動きや四つ組みの展開はエドワーズが上回っていた。おそらくウスマンサイドも、1ラウンドの攻防で“エドワーズの四つ組みはちょっと面倒だぞ”ということがたぶん分かって、その後、少し戦い方が変わったんですよ。
例えばスタンドの打撃の攻防で距離が近くなって、エドワーズが組みにいこうとすると、ウスマンはそれをすごく嫌がって離れたりするシーンが何回かあったんです。エドワーズは組み際、離れ際のヒジ打ちが得意なので、ウスマンはそれを嫌がってるのかなと思ったんですけど、映像を見返すと“おそらく四つ組みになると倒される危険性があって嫌なんだろうな”ということに気づいたんです。結局、1ラウンド以降、エドワーズはテイクダウンを奪えてないので、ちょっと見た目では分かりづらいんですけど。それはウスマンが組まれることを相当警戒していたからだと思うんですよね」
──観てる方には“組んでの攻防になればウスマンが圧倒的に有利”という先入観があったから、なかなかそこに気づきにくかったわけですね。
「今までの強い状態のウスマンっていうのは、ジャブで距離を制して、近づいたらケージレスリングで削っていって、相手が“こいつ相手にどうすりゃいいんだ?”っていう感じでなす術なしという状態にして、完勝するパターンが多かったと思うんです。けれどエドワーズに対しては、ウスマンのほうが四つ組みの展開を嫌がっていたから、そこまで盤石の展開にできなかったんじゃないかと思いますね」
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最終Rの左ストレートからの左ハイ──ベーシックなフェイントは、途中で出していても防がれていた
――最終5ラウンドで、ウスマンが左ハイキックをもらってしまったのもそれが影響していたと思いますか?
「おそらく影響していたと思います。スタンドの打撃に関しては、ウスマンのジャブがすごく有効で、エドワーズはなかなか自分のパンチの距離にさせてもらえなかった。ただ、左の蹴りはボディや狙った腕にヒットしてるんですよね。だからエドワーズは“近づいてパンチを入れるのは難しいけど、蹴りは当たるな”っていうイメージを持ちながら試合が進んでいったと思うんですよ。一方でウスマンの方は、“ケージ際で倒してしっかり上を取れればいいけど、四つ組みになるのは面倒だな”という感じで、お互い少しうまくいかない部分がありながら、最終の第5ラウンドを迎えたと思うんですね」
――ウスマン側に立って考えれば、4ラウンドまでおそらくポイントでリードしていたので、最後の5ラウンドは“スタンドで自分の距離を保てば判定で勝てる”という思いがあったのかもしれないですね。
「それもあってか最後までスタンドではウスマンの距離だったんですよ。だから、エドワーズは左ストレートから左ハイキックのコンビネーションで倒しましたけど、あれは“パンチが当たらない距離だな”と理解した上で、左ストレートはあくまで目くらましで出して、ウスマンの頭を動かして左ハイキックを入れた。あれはエドワーズが“この攻撃なら当たる”という感覚をつかんだからこそ、出せた一撃だと思いますね」
――5ラウンドまでの攻防の積み重ねでその感覚をつかんだ、と。
「おそらくあのコンビネーションを途中で出していても防がれていたと思うんです。でも5ラウンド目だからこそ、ウスマンのほうにも“この距離ならパンチは当たらない”“あとは下手に組まれずに、蹴りに関しても致命傷になるようなものをもらわなければ勝てる”という気持ちが生まれたことで、言ってしまえばベーシックなフェイントに引っ掛かってしまったんだろうな、と」
――エドワーズの四つ組みを警戒したことで、最終ラウンドのウスマンは選択肢が“自分のパンチの距離で戦う”というひとつになってしまい、そこを狙われたわけですね。
「だから目に見える攻防だけじゃなく、頭の駆け引きもいろいろと行われていたんでしょう。それを想像すると、かなり深い5ラウンドだったんだと思いましたね」
――では今回、それを踏まえてのダイレクトリマッチは、どのあたりがポイントになりそうですか?
「再戦っていうのは、必ず前の試合で起きたことがまずポイントになるんですよ。前回はハイキックで決まったので、ウスマンは蹴りをより警戒するというか、ちょっとしたトラウマになってると思うんですよね。だからエドワーズは逆に、蹴りのフェイントを多用する可能性が高いと思います」
――警戒しているからこそ蹴りのフェイントがより効果を発揮する、と。
「ウスマン側からすると、そうならないためにどうするかと言えば、その距離にならないことが手っ取り早いので、ケージに押し込んでのテイクダウン。それは前回の試合でもかなり有効だったので、そっちを柱にしてくるんじゃないかと予想します。エドワーズが四つ組みに強いこともしっかり想定して準備をしてくるでしょうからね」
――そうなるとお互いが前回突かれた“穴”を塞いでこの試合に臨んでくるわけで、いわば穴のない者同士の戦いになりますよね。
「そうなんですよ。だから、お互い想像もできないような秘策を用意するか、別の穴を見つけるしかなくなってくるので、これはお互い大変な試合ですよ」
――お互いに難題が突きつけられているわけですね。
「エドワーズ側からすると、前回はウスマンが四つ組みを嫌ったことで得意とする“際(きわ)”で放つエルボーがあまり出せませんでしたけど、今回、ウスマンが組んでくるとしたら、それが突破口になるかもしれない。あとはテンカオ(カウンターのヒザ蹴り)も得意なので、ウスマンが組み付いてくるところに入れるテンカオというのも、1個起点になるかもしれません。ただ、ヒザをキャッチされたらテイクダウンされる危険性が高まるので、双刃の剣ですけどね。エドワーズからしたら、そこで脚を刈られそうになったところで、ヒジを入れるというのもありかな、と思いますけど」
──前回あまり出せなかった自分が得意とする攻撃というのが、意外と効果的なのかもしれないですね。
「あとは間違いなく裏のかき合いになるので、そうなるとベーシックな攻撃が有効だったりするんですよ」
――裏の裏をかきすぎて、まさかこんなベタなコンビネーションでくるとは思わない、という。
「そういうことが起こるかもしれない。いずれにしても、両者ともに前回の試合を踏まえて準備してくるので、観る側も録画した映像なりアーカイブ配信なりを、もう一度しっかり見直して復習してから今度の試合を観た方が、このハイレベルな戦いを絶対により楽しめると思いますね」(取材・文/堀江ガンツ)
◆WOWOW『UFC -究極格闘技-』放送・配信スケジュール『生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC286 in ロンドン エドワーズVSウスマン、ダイレクトリマッチ!』
3月19日(日)午前6:00[WOWOWライブ]※生中継(WOWOWオンデマンドで同時配信)
3月21日(火・祝)午前0:30[WOWOWライブ]※リピート(WOWOWオンデマンドで同時配信)
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英国の平良達郎も登場!『UFC 286: Edwards vs.Usman 3』全カード
【メインカード】(※WOWOW)
▼UFC世界ウェルター級選手権試合 5分5Rレオン・エドワーズ(英国)20勝3敗(UFC12勝2敗)カマル・ウスマン(ナイジェリア)20勝2敗(UFC15勝1敗)
▼ライト級 5分3Rジャスティン・ゲイジー(米国)23勝4敗(UFC6勝4敗)ラファエル・フィジエフ(アゼルバイジャン)12勝1敗(UFC6勝1敗)※UFC6連勝中
▼ウェルター級 5分3Rグンナー・ネルソン(アイスランド)18勝5敗(UFC9勝5敗)ライアン・バーバリーナ(米国)18勝9敗(UFC9勝7敗)
▼女子フライ級 5分3Rジェニファー・マイア(ブラジル)20勝9敗(UFC5勝5敗)ケイシー・オニール(豪州)9勝0敗(UFC4勝0敗)※UFC4連勝中
▼ミドル級 5分3Rマービン・ヴェットーリ(イタリア)18勝6敗(UFC8勝4敗)ロマン・ドリーゼ(ジョージア)12勝1敗(UFC6勝1敗)※UFC4連勝中
【プレリミナリー】(※UFC Fight Pass)
▼フェザー級 5分3Rジャック・ショア(ウェールズ)16勝1敗(UFC5勝1敗)マクワン・アミルカーニ(フィンランド)17勝8敗(UFC7勝6敗)
▼ライト級 5分3Rクリス・ダンカン(スコットランド)9勝1敗(UFC0勝0敗)オマール・モラレス・フェレール(ベネズエラ)11勝3敗(UFC3勝3敗)
▼ライト級 5分3Rサム・パターソン(英国)10勝1敗(UFC0勝0敗)ヤナル・アシュモズ(イスラエル)6勝0敗(UFC0勝0敗)
▼フライ級 5分3Rムハンマド・モカエフ(英国)9勝0敗(UFC3勝0敗)※UFC3連勝中ジャフェル・フィリオ(ブラジル)14勝2敗(UFC0勝0敗)
▼フェザー級 5分3Rリローン・マーフィー(英国)11勝0敗(UFC3勝0敗)※UFC3連勝中ガブリエル・サントス(ブラジル)10勝0敗(UFC0勝0敗)
▼ミドル級 5分3Rクリスチャン・リロイ・ダンカン(英国)7勝0敗(UFC0勝0敗)ドゥスコ・トドロビッチ(セルビア)12勝3敗(UFC3勝3敗)
▼フライ級 5分3Rジェイク・ハドリー(英国)9勝1敗(UFC1勝1敗)マルコム・ゴードン(カナダ)14勝6敗(UFC2勝3敗)
▼女子フライ級 5分3Rジョアン・ウッド(スコットランド)15勝8敗(UFC7勝8敗)ルアナ・カロリーナ(ブラジル)8勝3敗(UFC3勝2敗)
▼ライト級 5分3Rジャイ・ハーバート(英国)12勝4敗(UFC2勝3敗)ルドビト・クライン(スロバキア)19勝4敗(UFC3勝2敗)
▼女子フライ級 5分3Rジュリアナ・ミラー(米国)3勝1敗(UFC1勝0敗)ヴェロニカ・マセド(ベネズエラ)6勝4敗(UFC1勝4敗)