MMA
インタビュー

鬼越トマホーク『格闘スクランブル』シーズン1クライマックスへ(後篇)「平本選手が挑発することによって朝倉未来選手を格闘技から降ろさせないというのもある」

2023/02/23 21:02
“ケンカ芸”で人気のお笑いコンビ「鬼越トマホーク」が、格闘技を愛するゲストから本音と金言を聞き出すトークバラエティ『鬼越トマホークの格闘スクランブル』(AmazonPrimevideo「VパラTVプラス」、U-NEXT配信)が好調だ。  元柔道家でグラップリングの試合にも出場経験がある坂井良多と、ボクシングジムに通っていた金ちゃんのコンビが、歯に衣着せぬ質問でファイターたちのキャラクターを引き出している。  これまで青木真也、皇治、平本蓮、YA-MAN、朝倉海、ケンドーコバヤシ&福島善成(ガリットチュウ)、平良達郎、野杁正明の第8話まで公開されており、今後は吉成名高、伊澤星花、玖村兄弟、矢地祐介が登場するという。  シーズン1の収録を終えたばかりの2人に、格闘技の魅力、制作の裏話などを聞いた。 この人たちがやっていることはすごいんだぞ、というのを広められなかったら、解説に芸人なんていらない ──(前篇から続き)芸人としてのお二人の話も伺いたいのですが、鬼越トマホークの看板の”ケンカ芸”、あれはライブ前に実際に喧嘩をしてしまったことがキッカケとありますが、その時って喧嘩はガチでも、芸人である以上、いつ何時でもすこしでも笑わせようというような意識が働いていたのですか? 坂井 あの時は、それはなかったです。吉本の本社で本当に大喧嘩しちゃって。番組の企画でもなんでもない。本当に腹が立って殴り合いの喧嘩をしちゃったので、先輩たちが本気で止めに来てくれて。縦社会だから先輩には普段言えないことというのがあるわけですけど、その時は喧嘩っていう異常にテンションが上がった状態だったので、金ちゃんと向き合っているときに止めに入った先輩を突き飛ばして、普段思っていることを言ってしまった。  当然そこではウケないんですけど、冷静にその後、先輩たちが『え? 鬼越が喧嘩して、(5年くらい上の)先輩に止められて、で、鬼越はなんて言ったの?』『こんなこと言ってました』ってやりとりになって。『それ面白いんじゃねえか?』って。超・失礼で、反省しなきゃいけないんですけど、それを聞いた千原ジュニアさんが、じゃあもうガチでやっちゃった喧嘩だけど、番組の企画にしてやろうという提案をしてくれたんですよね。 金ちゃん だから、面白ではなかったですよ、その場もキーン!てなりましたし。 坂井 実際のトラブルを、ジュニアさんがプロモーターとして、喧嘩の場をくれた。榊原(信行RIZIN CEO)さんですよ、やっていることは。試合の場をくれたような。 金ちゃん ラッキーでしたよ。それまで普通にネタやってましたけど、やっぱ喧嘩の方がウケちゃうんで。もうネタやらなくなりました。 ──なるほど。というのも、ケンカ芸には限らないことですが、試合もお客さんの前でやるわけで、その部分での勝負が常にある。ネタをやるご自身たちとの間に共通点を感じる部分もあるのかと。 坂井 田舎で普通に育つと、普通に格闘技好きな人はいるんですけど、そんなに深くはない。でも芸人の世界は格闘技が好きな人が多いんです。ボクシングもそうで。それはちょっと共通している部分というか、もちろん芸人がリスペクトを持って、“格闘技のようなことはできない”とは言いますが、やはり相手とのやりとりがあること。相手の良さを引き出すことも必要で、トラッシュトークで言えばエンタメの部分もある。そういう意味でも芸人は格闘技が好きだし、格闘家でもお笑いが好きな方は多くて。そういう、人前で見せるエンターテインメントのメンタルとしては似ている部分はあります。賞レースの時の緊張と格闘技の試合の緊張って、後者の場合は命の危険がありますけど、こっちも、お笑いもスベると死にたくなることがあるんで、その極限状態はちょっと似ているかもしれないですね。スベったら嫌だ、と負けたら嫌だ。そういうなかでお互いがリスペクトし合っている部分はあるかもしれない。  これだけ、旧くは芸人×プロレスから始まり、『アメトーク!』のような番組で芸人が好きなものを語り合って、その文化が発展していって。格闘技もPRIDEの頃からありましたよね、芸人が、格闘技の寝技の大会やって前座盛り上げたり。あとは解説に芸人が座ることもそうです。格闘技と芸人は切っても切り離せない部分がある。格闘技の本流も好きだし、『リングの魂』とか『SRS』のような格闘バラエティが好きだった。だから、そのレベルには達していないかもしれないけれど、この『格闘スクランブル』をやらせてもらうことは光栄な仕事ではあります。 ──メディアとしては、『格闘スクランブル』でお二人がファイターたちの人となりを引き出していることや、聞いたことのない話を知れることが興味深いのですが、中でもアルバイトの苦労話は色々と入ってきますね。 金ちゃん そこが一個乗っかると、応援しやすくなりますよね。その人の幹の部分というのか。 坂井 たとえば自分と同じバイトとかやっていたら親近感沸くんだよね。 金ちゃん セクシー居酒屋?(笑)。 坂井 矢地選手ね。本当にお金ない時期があるわけですよ。それこそ、今をトキめく朝倉未来選手でも、本当にお金なくて格闘技やっていた時期がありますよね。そういう時の話を聞くと、ああ、そんな状態から成り上がったんだとか思うと感情移入はそっちのほうがある。その部分の助けになればいいと思います。金ちゃんが野球好きなので野球に例えるの好きなんですけど──。 金ちゃん はい(笑)。 坂井 大谷翔平が今やっていることって、『もっとすごいことなんだぞ』って、ちょっとでも野球好きな人にもっと知らせたいような感じ。メジャーリーグと言っても対峙している相手をよく知らないからすごいことをやっているというのもよく知られない。UFCで平良達郎選手とかがやろうとしているのはすごいことで、さらにその上にすごい猛者がたくさんいるわけじゃないですか。やっぱり芸人がくだらないこと言いつつ、この人たちがやっていることはすごいんだぞ、というのを広めるのって割と効果があることだとは思っていますね。  だって、そうじゃなかったら解説に芸人なんていらないですよね。俺は要らないと思ってましたからね。昔、格闘技を見ていたときは。邪魔だなとか思ってました。『うるせえな』って。一茂も紀香も。一番マトモだったの田代まさしだったからね。ちゃんと格闘技好きだった。メインMCだったから。でもそこで、リスペクトを持てる方もいた。 ──この番組では最後にゲストに「格闘技って何ですか?」と質問していますよね。すごいことだなと。逆に「お笑いって何ですか?」と聞かれたらと思うと……。 坂井 それを言っちゃおしまいよ、となりますよね。 金ちゃん 芸人は言いづらいですね、特にアレは。 坂井 本当は聞きたくないんですけど、『格闘スクランブル』のスタッフが一応そういう体で、下世話な質問するけれど最後にいい話で終わったら流しやすいということで決まり事を作られた(笑)。別に俺が聞きたいわけじゃないです。一番答えづらい質問をしているとは思っています。 ──ではMCのお二人にとって、格闘技とは何ですか? 坂井 えー、最高に楽しいエンターテインメントです。 金ちゃん アハハハ!やっぱこうなるよなあ(笑)。 坂井 一番好きなスポーツ。でも最近はもう、一番好きなスポーツを超えて、生きる支えになっている感じが……。もう嬉しくて。毎週観られるんですよ? UFCとか。ゴン格とかも大好きだったんですけど。 ──けど?(笑) 坂井 いやー、ずっと思ってたのは、最初ゴン格からみんな読み始めるんですけど、徐々に汚れていって、紙のプロレスに堕ちていくんです。でも、ゴン格がちゃんとしているから、ウソを……(笑)、いや、下世話なことを書くところが、際立ってくるというか。正統派がしっかりしているからこそ下世話が目立つんですよ。平本蓮君がやろうとしていることも、昔の紙のプロレスというか、正統派に噛みついていく、こんな取材の仕方、面白くねえと否定から入る感じが、俺は全部ひっくるめて楽しくてしょうがないんです。それはブレイキングダウンのようなものも含めてです。暗黒時代があって、何を観ていいかわからなくて、UFCしかなかったんですけど、そのUFCで信じられないくらい面白い試合があっても、誰も観ていなかったんですよ。 [nextpage] こんなに選択肢がある中で格闘技っていうスポーツを選んでいる時点で、リスペクトできる変態ですから 金ちゃん どういう時が楽しいの? 格闘技観てて。どういう時にテンション上がるの? 坂井 やっぱりね、下世話な金ちゃんが好きなブレイキングダウンとかさ、ボブ・サップとかボビー・オロゴンで積み上げる大会もいいんだよ、お金のために。でもそういうものの上にある本当の試合、たとえばこの間のBELLATORとRIZINの対抗戦とか、堀口恭司vs.那須川天心、堀口恭司vs.朝倉海……、負けたらおしまいの試合があるわけですよね。下世話なエンターテインメントの上に、男同士の戦いが一個あってそういうのが絶対にメインだから。  サトシvs.AJ・マッキーとか、昔ならミルコvs.ヒョードル、負けたらそこで人生おしまいというような戦いを見せてくれる。吉田秀彦vs.小川直也もそうですけど。それを3カ月に1回くらい、PRIDEが連発していた。あの時の感動なんかもうないんだろうなっていう喪失感の中にある時にRIZINができて、これだけ軽量級がメインになって盛り上がるなんて、誰も思っていなかったですからね。偉大だと思います、レジェンドは。桜庭選手も五味隆典選手も。どうにかね、RIZINにはパっと終わってしまって欲しくないですね、何かの不祥事とかで……。 金ちゃん その可能性もあるよね(苦笑)。 坂井 いろんなところの力を借りて、ずっとやってほしい。UFCって競技化して資本もしっかりしている。日本は不安定ですよね。でも不安定だから面白い部分もある。不安定だしどこがスポンサーとかも分からないし、どこか助けてくれたりもする危なっかしさ。ずっと、プロ野球やJリーグみたいになれないのが格闘技のコンプレックスでもありみんなを惹きつける魅力であるという。 金ちゃん なるほどね。 坂井 昔、アントニオ猪木さんが作り上げたもの、仕掛けたものもあるけど、日本独自の文化としても、競技として最高峰のアメリカに殴り込んで王者を獲ろうとする、アスリートとしての選手も、全部楽しみたいですね。ボクシングでも、井上尚弥選手や村田諒太選手って、『はじめの一歩』でもありえないことをしてるもんね。 金ちゃん そうだね、強い人が出てきてくれるとね、やっぱり素人も入りやすいよね。 坂井 そういう人たちもいるから、ブレイキングダウンも面白いのよ。ちゃんとしている人がいるから。 ──金ちゃんはブレイキングダウンのどういうところが面白いと思っていますか? 金ちゃん ブレイキングダウンは、オーディションが好きですね、戦いはあんまり観ていないです、正直(笑)。あのオーディションは多分みんな好きですよね、格闘技興味ない人も。あれを、プロの方だったりすると格闘技と言ってほしくないと思いますけど、ただ入り口としてはいいと思います。盛り上がるのが分かるし。1分ですけど、素人ってやっぱり長く見るのが結構しんどいじゃないですか。グラップリングの膠着状態も。そういう意味で、すぐ試合も決まるし、いいですよ。受け皿が広いということがいいと思います。 坂井 実際アウトサイダーもそうでしたよね? 批判殺到の時期もあったけれど、実際プロを相手に試合ができる選手も現れ、朝倉兄弟を輩出しているので。 ──そういう選手たちも強さを求めていました。一方でブレイキングダウンの場合は、選手によっては強さよりも人気を求めているようにも……。 金ちゃん そうですね、そこらへんは難しいかもしれない。 坂井 そういう点で、平本選手が挑発することによって朝倉未来選手を格闘技から降ろさせないというのもあるじゃないですか。平本選手みたいな人がいなかったらパッとやめちゃうかもしれない。賛否両論もあるし、SNSの時代に変わってきているけど、『UFC 283』のグローバー・テイシェイラの試合、結果的に彼の引退試合になりましたけど、素晴らしいじゃないですか。『ロッキー』みたいで。その素晴らしさを伝えるためにも、ブレイキングダウンも含めて、全ての格闘コンテンツによって底上げをしてほしいと思います。俺、今でこそ軽蔑していますけど、格闘技に興味持ったのは蝶野vs.大仁田からですからね。大仁田って面白い! って思って。今は軽蔑していますけど……。 金ちゃん その感じがわからんのよ(苦笑)。何で軽蔑してるのか分からないし。 ──今後はどんな格闘コンテンツをやっていきたいですか? 坂井 自分達のお笑いの技術はないけど、ありえない選手をゲストに迎えていきたいですね。誰も観てないコンテンツなんで。 金ちゃん めっちゃ言うじゃんお前。 坂井 ありえない……、そうですね、ROAD to ガヌー。か、コナー・マクレガー……。うーん、ツテを辿れば、マックス・ホロウェイくらいは出てくれるかもしれない。日本のジムとも交流していたし。フアン・アーチュレッタとかもね。 金ちゃん シーズン1が終わって、シーズン2があるのか、そこだけ。ないと始まらないよ。 坂井 シーズン11以上やるよ。『ウォーキング・デッド』と同じだけやるよ! 金ちゃん もう観てないんだよ、あれ。シーズン6以降見てないよ、日本人は。それで、とりあえずこの番組は1年間やらせてもらったので、次シーズンがあるかないかで、方向性は決まっていきますね。 坂井 これだけは言っておきたいんですけど。 金ちゃん まだあるか。 坂井 放っておいても注目度が上がる選手っていると思うんです。それってめちゃくちゃすごいことですよね、朝倉兄弟も、天心、武尊も。だから、そうじゃない選手の魅力を引き出せたらなと思いますね。格闘家、面白い人が多いですから。こんなに選択肢がある中で格闘技っていうスポーツを選んでいる時点で変態ですから。リスペクトできる変態アスリートですからね。 ──なるほど。では最後に、2023年に期待しているファイターは誰ですか? 坂井 これからどうなっていくのかということで、生い立ちから含めて久しぶりにおもしろいのが西川大和。注目していますね。UFCデビューも楽しみにしていたんですけど……考え方も変えない頑固なところも彼を強くしたのかもしれない。本当にフィジカルモンスターがいる海外で通用するかっていうのも気になります。  あとはもう、格闘技界ということで、ボクシングと格闘技は別だと言う方もいらっしゃいますが、やはり2度と生まれないかもしれない井上尚弥の偉大さというか。武井由樹も、那須川天心もボクシングに行って、強さを追い求めてボクシング転向する選手がそれだけいる中で、井上尚弥の全盛期をリアルタイムで観られるということを喜ばないと。もう、漫画でもありえないですから。いきなり23年に上の階級のフルトンとやると言われているので、全日本人が見守るべき。……どうする? 具志堅さんでしょ? 時代を遡ったら。50年後くらいにあんな感じに井上尚弥がなったらどうするよ、アフロで『逃走中』とか出てたら。 金ちゃん ああ、うん(苦笑)。俺が期待しているのは、出てもらったゲストで、玖村兄弟ですね。俺らってやっぱりイケメンのファイター好きじゃないんですよ、実は。だけど玖村兄弟はファンになりましたね。K-1は卒業する選手がいても、そこでニュースターも生まれて新陳代謝するっていう、もしかしたら23年は朝倉兄弟を玖村兄弟が超えたりするんじゃないかなって。 坂井 俺よりマニアックじゃん。でもお前、ゆうちゃみのことしか聞いてねえだろ。 金ちゃん ゆうちゃみと、どれくらいモテてきたかって話だね(笑)。 坂井 あとはもう、団体代表者たちの漢気を見たいですよ、堀口恭司vs.デメトリアス・ジョンソン2を実現させてほしい。格闘技ファンってずっと焦らされてるんだよ、Mだから。チャトリ、デイナ・ホワイト、サカキバラ、スコット・コーカーたちには仲良くしてもらいたいです!(text by YUKO) ◆「鬼越トマホークの格闘スクランブル」AmazonPrimevideo「VパラTVプラス」、U-NEXTにて絶賛配信中。最新話は初月のみAmazonPrimevideoにて無料配信されており、現在は第8話(ゲスト:野杁正明)が無料視聴可能。今後は吉成名高、伊澤星花、玖村兄弟、矢地祐介が登場する。
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