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【DEEP×BLACK COMBAT】UFCで八百長絡みの違法賭博で引退したハン・スーファンが電撃復帰、西川大和をKOした“脱北ファイター”の日本への思い=大原樹里と対戦するのは?

2023/01/26 23:01
 2023年2月上旬に韓国で「BLACK COMBAT」と「DEEP」の5対5の対抗戦が開催される。  BLACK COMBATは、ドラマチックな映像を駆使し、選手のバックボーンとキャラクターを際立たせ、YouTubeでそのストーリーを拡散させることで新たなファンの獲得に成功している韓国の新興MMAプロモーションだ。  対抗戦では、先にDEEPの強豪5選手が発表されているが、BLACK COMBAT側も負けず劣らずの4選手がYouTubにて続々、発表されている。  ライト級では、対抗戦の選抜戦に“まさか”の選手が出場した。 DEEP初の韓国人王者となったハン・スーファンことバン・テヒョンがUFC追放以来、6年3カ月ぶりにケージに  アイマスクをつけられた4選手がマスクを外した場所は、だだっ広く廃材が置かれた倉庫。その中央にケージが置かれている。  最初に「私は“鉄拳”です」と自己紹介したのはバン・テヒョン──日本では「ハン・スーファン」のリング名で、DEEP初の韓国人王者となったテヒョンは、2008年8月の「戦極~第四陣~」で五味隆典とも対戦している。  テヒョンの前戦は2016年9月のUFC。以降、ここまでブランクが空いているのは、その10カ月前のUFCでのレオ・クーンツ戦でテヒョンが八百長絡みの違法賭博に関与したからだった。  テヒョンは、2015年11月のUFC韓国大会で、八百長ブローカーから勝敗操作の話を持ち掛けられ、一度は受諾したものの、オッズの異常な動きを察知した米国本社から代理人を通じて事前警告を受け、八百長を翻して戦い、スプリット判定勝ちしたとされる。  前金として1億ウォン(約900万円)を受け取っていたテヒョンは、5000万ウォンをすぐに返し、残りの5000万ウォンを試合後に返却したというが、対戦相手に5000万ウォンを賭けていたとの報道もある。  当初は3R中、2つのラウンドでわざと劣勢となり、判定負けする計画だったというが、1Rにテヒョンはカウンターの左でダウンを奪うとそのまま僅差の判定で逃げ切り。クンツは「相手がわざと試合に負けるために戦っているようには感じなかった」と語っている。  現UFCライト級王者のマカチェフに2R 一本負けまでMMA14連勝(1分挟む)だったクンツを相手に、ダウンを奪い、試合をコントロールできる実力がありながら、いったんは許されざる八百長を受けたテヒョンは試合後、ブローカーから身辺の脅威を受けて自ら出頭。背任収賄罪で懲役10カ月、執行猶予2年の判決を受けていた。  事実上の追放の形で、オクタゴンでの最後の試合から約6年3カ月。その間、2020年2月のM-1、2021年5月のMONSTER WARで試合が発表されていたが、M-1は大会中止。MONSTER WARは試合がキャンセルされている。 [nextpage] 格闘技を不本意ながら引退、未練が残っていた  そんなバン・テヒョンがまさかの「BLACK COMBAT」参戦。MMA18勝10敗の39歳は、80.8kgの緩めの身体で計量し、DEEPとの対抗戦の選抜戦にライト級で出場するという。 「この機会を与えてくれたことにありがたく思っていて、一生懸命やってみようと思う」と語ったテヒョンは、主催者から「どれだけ強いのかも説明を」とうながされ、「私はそういうのは苦手で……」と答えると、「キャリアを話してくれればいい」と言われ、参戦の経緯を語った。 「私はもともとここに日本と戦うと聞いて来た。その日本の団体の元チャンピオンで、UFCの選手だったし、DEEPで元ウェルター級チャンピオン(中尾受太郎)、ライト級チャンピオン(横田一則)、元フェザー級チャンピオン(三島☆ド根性ノ助)の3人にKOで勝っている」 「今でもDEEPを相手にそれは可能ですか?」と問われると、「準備期間さえあれば、昔の実力を、それ以上にもう一度引き上げる自信があるけど、いまの自分の状態が体力が耐えられるか、私にも分かりません。格闘技から離れて6年経ったので、それでも経験というものがあるので一生懸命やってみようと思います」と、静かな口調で意気込みを語った。  そのテヒョンの1回戦の相手は“メンテス(カマキリ)”ユン・ダウォン(5勝4敗1分)。キャリア3戦目でDEEPでキャリア35戦目の横田一則に2R 一本負けを喫したものの、以降は4勝2敗1分。近年の黒星はDouble G FCフェザー級でパク・チャンスとパン・ジェヒョク(※2022年12月のPANCRASEで透暉鷹にスプリット判定負け)に敗れている。  ダウォンは77.45kgで計量。テヒョンの登場に「意外な人物が出て来てびっくりした」と驚きを隠さず。「バン・テヒョン選手は有名だけど、ちょっと休み過ぎかな。私はいま盛んに戦っているから、私が韓国代表になりそう」と笑顔で語った。  フェザー級を主戦場としながらもライト級にエントリーしたことについては、「今回の契約体重に達しなかったけど、一つ上の階級くらいは制することができそうだから」と説明。  対DEEPに関しては、「昔、DEEPで戦ったけど、そのときはまだ全然MMAが出来ていない時期で横田選手に敗れた。バン・テヒョン選手はその選手とやってKOしている(※2008年5月のDEEPライト級タイトルマッチで横田を右フックで1R KO勝ち)。でも私は今、成長している。元DEEP王者に勝てるという自信がすごくあるから志願した。もう一度DEEPと戦いたい。私の最終目標はDEEPに復讐すること」と、5年ぶりのリベンジを果たしたいとした。  同級トーナメントで、脱北ファイターのチャン・ジョンヒョクの交渉により、キム・グンヒ戦が先に決まったため、24歳のダウォンと戦うことになったテヒョンは、「若すぎる方々と戦わなければならないというのが完全に慣れない感じだけど」と苦笑しながら試合に向かう。  テヒョンを「事実上、過去の栄光のなかで生きている。その栄光は全部終わった。世代交代するとき」というダウォン。 「挑戦を……ほんとうに勇気を出して来ました。私は格闘技を不本意ながら引退することになったじゃないですか。“余韻”が残っている状態で機会があればまた格闘技の試合に出てみたいと思っていたんですが、今回、DEEPとの対抗戦と聞いて、自分は元DEEPのチャンピオンでもあったので出ることにしました。でも準備がうまく出来ていないです。幸いなのはラウンドが短いこと。3分2Rだからフルスパーリングで」と覚悟するテヒョン。  大き目のオープンフィンガーグローブとシンガードを着用する両者。顔面ヒザなどが禁止された3分2Rの非公式戦は、ともにオーソドックス構えから始まった。 [nextpage] 「世代交代」を成し遂げたダウォン、UFC以来の敗北テヒョンは「格闘技は簡単じゃない」  1R、左インローから入るダウォン。テヒョンは前足を上げてチェック。さらにダウォンは素早いインロー。右ローも放ち、足から崩そうとする。  じりじりと詰めるテヒョンも右ロー。そこに右ストレートを合わせようとするダウォンをかわすと右ロー。しかしその蹴り足を掴んでテイクダウンはダウォン! 切り切れず、さらに背中を着いてガードに入れてしまうテヒョン。  両足を伸ばしてスペースを作るテヒョンは、中腰から飛び込んできたダウォンに右で差すが、それを潰して再び背中を着かせるダウォン。しかしテヒョンも半身から右を差して立ち上がり。この攻防で大きく口を開けて呼吸し、スタミナに不安を残す。  ダウォンの右ローを受けながら右で差して押し込むテヒョンだが、体を入れ変えるダウォンは離れて左ロー。テヒョンの右は遠いが、左も伸ばすとダウォンが金網に詰まり、1R終了のホイッスル。  2Rも先に左インローはダウォン。そこから前足にシングルレッグに入るが、これをがぶったテヒョンは首を抱え、金網に押し付けてアームインギロチンチョークで引き込み! ガードの中に入れるも、あんこの大きなグローブでどこまで絞めれるか。ダウォンは両足を立てて凌ぎ、腹を叩くと、諦めたダウォンが腕を解いて、金網を使っての立ち上がりに移行。  その立ち際にバックを狙うダウォンが右足をかけて引き出し、スタンドバックから持ち上げて着地際でバックテイク。両足をかけてリアネイキドチョークを狙うが、後ろ手を剥がすテヒョン。ダウォンは4の字ロックを組んで背後から3発パウンドしたところでホイッスルが鳴らされた。  跪いてテヒョンに頭を下げ「ありがとうございました。光栄です。たくさん学びました」と語るダウォンが、判定は3-0で勝利。  決勝進出で「世代交代」と口にしたダウォンだが、「1Rのワンツーで殴られて眩暈がしました。力がすごく強くて、まだ学ぶことが多いです」と先輩に敬意を示す。  約6年3カ月ぶりの“試合”で敗れたテヒョンは、「確かに試合とスパーリングは違う。必死になって戦う人に勝つのは簡単じゃない。一緒に必死になってやらないといけなかったのに……こうしてみると少し残念な気持ちも残るのですが、とにかく結果的に今これが、現時点での実力だと思います。正直、相手が階級下なので、少し見下した部分もあったのですが、現役選手はやっぱり強い。私も頑張ってやらないとダメ。格闘技では意思が一番大事」と気持ちも体力も足りなかったと語った。  そして、あらためて選手生命を棒に振った八百長事件について、語り始めた。 「あれはまず、私が悪かったです。そういう提案を受けれて、そんなことを起こしたことについてはほんとうに私が……過ちを犯しました。それについて処罰も受けましたし、しかし、一応、八百長はしなかったということと、またそれをしなかったのも私の意思だったということは信じてほしい」  そう語ったテヒョンは、少し晴れた表情で、「それ以来、ある意味、久しぶりに格闘技に……大会までじゃないけど、運よく出場することになって勝ったらもっと良かったのに……今日はすごく足りなかったし、格闘技に対してちょっと未練が残っていて、こうして出たんですが、今日ひとつ真剣に感じたことがあるとしたら、またこのステージに入って勝つためにはほんとうにどれだけ頑張らないといけないのか。それをまた……終わってから感じます。格闘技は簡単じゃないですね。久しぶりまた試合が出来て良かったです。面白くて、負けて残念ですが、現役選手のその意思が、すごいと思います」と、強さを増したダウォンを讃えた。 [nextpage] 北朝鮮で乞食のように暮らして韓国でプロデビュー、西川大和をKOした後に思わぬ出来事が──  もうひとつのライト級準決勝にも物語があった。  ダウォンとテヒョンの試合をケージサイドで見届けたチャン・ジョンヒョク(3勝1敗2分)は、元UFCのテヒョンについて、「体力が残念です。昔、好きな先輩だったので応援しました。“メティス”は面白くありません」と、グラップラーのダウォンを酷評する。  柔術茶帯で22歳のキム・グンヒ(1勝)と対戦する“脱北ファイター”のジョンヒョクは、13歳で母と2人で死線を乗り越えて北朝鮮を脱出。中国で3、4年、肉体労働をして、韓国に17歳で来たという。 「北朝鮮で乞食のように暮らしていて、資本主義でお金を稼いでぽっちゃりと太ったから周囲から甘く見られるのかもしれないけど、平凡じゃなかった。死に際もたくさん乗り越えてきた。脱北する途中で人身売買されそうになった人もいたし、中国の人たちにいっぱい叩かれたり……格闘技は厳しい競技だけど、私には特に険しくは感じません。人が与える影響もあるけど、環境が与える影響は絶対に無視できない」と、ハングリー精神が大きな武器だと語る。 「BLACK COMBATに出れば、実質的な親孝行が出来る」と参戦を決めた理由を語るジョンヒョクは、「1Rでボッコボコにする。最近カーフキックを習って、前回の試合でも相手を壊した。韓国のカーフキックより、やはり南北の両方を生きたカーフキックの方が確かに痛いということを見せたい」と意気込んだ。  試合は、ともにオーソドックス構えから、パワフルな左右で前に出るグンヒに対し、ジョンヒョクはガードを固めて左を狙う。いったん下がったグンヒは鋭い右ローを2度当てるが、ジョンヒョクはオーソから左ミドルをヒット。  互いに右ローの蹴り合いのなか、圧力をかけたジョンヒョクは右を強振して相手をのけぞらせて金網に詰まらせると、すぐさま左フックをヒット! ダウンしたグンヒにパウンドラッシュし、1R TKOでレフェリーを呼び込んでいる。  決勝進出を決めたジョンヒョク、実は日本との関わりも持っている。  スポンサーのエクストリームのドリンクを飲んで「スゴイ」と日本語で語ったジョンヒョクは、スタッフから“スゴイ”ですか? と問われ「『スゴイ』って言ったらダメですか。悪口を言われますか?」と笑顔を見せた。  ときにトラッシュトーカーのように、相手の発言に口を挟み、試合を盛り上げるジョンヒョクだが、かつて別のインタビューでは、韓国でMMAでプロデビューしたことで、大きな気付きがあったことを明かしている。それは、2018年3月にチョンジュで行われた「TFC DREAM 5」での西川大和との試合だった。 「北朝鮮での映画の中では日本はいつも悪者です。それは米国や韓国の見せ方もそうなのですが、私は日本と特別な経験があります。韓国でMMAでプロデビューしたときの対戦相手が西川大和選手でした。当時、彼は4勝4分で無敗。私は試合のネタのような存在でした」と、ルーキー時代を振り返る。  試合は、1Rにジョンヒョクがバックフィストでダウンを奪うと、立ち上がってきた西川にラッシュをかけ、2度のダウンを奪ってのパウンドでTKO勝ち。西川にプロ初の黒星をつけたジョンヒョクは、試合後、忘れられない体験をしたという。 「私がKOで勝ちました。その後、西川選手のご両親が試合が終わった後に、私にご飯を買ってくださったんです。素晴らしいスポーツマンシップに感動しました。韓国も北朝鮮も日本に対して良くないイメージを持っている人が多いと思いますが、その偏見は間違えていたと、そのとき感じました。私が接した日本の方々はスポーツマンシップもマナーも良い人たちでした。素敵な方たちだなと感じました。  その後で私はお母さんに聞いたくらいです。『もし僕をKOさせて気絶させた相手に優しくできる?』と。そんな両親は少ないと思います。もし僕が親だったら息子をKOされてそれが出来るのかと考え、そんな簡単ではないなと思いました。そのとき一緒に食事しながら撮った写真もあります。いつか必ず日本に行って、北朝鮮で聞いた日本と、実際の日本の違いを感じたいです。私の意見ではどこの国も同じで、どこにでもいい人も悪い人もいる。お互いを尊重しながら見習うべきところは見習ったらいいと思います」。 [nextpage] DEEPへの「復讐」を誓うダウォンと「脱北」ジョンヒョクが4年7カ月ぶりに再戦  DEEPとの対抗戦メンバーとして活躍すれば、日本での試合の夢も叶うかもしれない。決勝でジョンヒョクは、バン・テヒョンを破ったユン・ダウォンとの対戦に。両者は2018年5月の「TFC18」で戦いドロー。今回が決着戦となる。 “脱北ファイター”ジョンヒョクについて「5年前のことは私が勝ったと思っている。彼は賢く戦うスタイルじゃない。喧嘩ファイター」とバッサリ斬り落としたダウォンは、「打撃でもお前に勝つよ。もう昔の私じゃない」とジョンヒョクに告げる。ジョンヒョクも「ビビるなよ、殺さないから」と返し、試合に向かった。  いよいよライト級の決勝戦。4分2Rとなる。  拳を合わせた両者。1R、長身を活かし、得意の左インローのダブルから入るダウォンに、右カーフを返すジョンヒョク。続く2発目にダウォンは、ダブルレッグテイクダウン! 金網まで這うジョンヒョクの立ち際に右で差すと、ジョンヒョクは左で小手巻き。バックに回らせず金網を使い正対して立つと、四つから突き放してスタンドに。 「これくらいじゃダメ、もっと続けないと」と挑発するジョンヒョクは、シンガードを着けた右足で素早いロー。さらに左でインローと前足を蹴る。左インローのダウォンに対し、右ローをダブルで当てるジョンヒョクだが、ダウォンはダブルレッグで金網まで押し込み、右で深く差していく。左で小手に巻き、つま先を横に向けてテイクダウンディフェンスするジョンヒョクに、ボディロックしたダウォンは前方に崩して手を着かせると、その立ち際で左脇を潜り、スタンドバックに。  ボディロックで崩して左足をかけ、引き込んで両足をかけると、最初は右手で、ジョンヒョクが後ろ手を剥がしにくると喉下を左手に変えて絞めて、クラッチを組み、タップを奪った。  マウスピースを投げ、「俺が韓国代表だ!」と叫んだダウォン。敗れたジョンヒョクにもハグすると、「正直、絞めたときにここで極められなかったら、2Rは危ない、そういう気持ちで極めた」と吐露。ジョンヒョクは「キックガードが無ければもっとカーフを効かせられたけど、これもルール。次は進化した姿で戻って来る」と約束した。  ライト級の代表となったダウォンは、「日韓戦でDEEPでチャンピオンクラスが出て来る。そういう選手に勝つためにここに参戦した。お金じゃない。ファイターは強い相手と戦うことに大きな意味を置くから。私は3kg足りなかった。フェザー級がライト級を獲る。行くぞ! DEEP、壊してあげる。待ってろ」と決意を新たにする。  DEEP代表の大原樹里(KIBA マーシャルアーツクラブ)は31勝18敗3分で、フェザー級で5勝4敗1分のダウォンとは大きな差があるが、この「BLACK COMBAT」で選抜戦を勝ち抜いた選手たちには、日本のDEEPに勝つという大きなモチベーションを持っている。その部分でも決して軽視できない、ユン・ダウォンの勝利だった。
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