グラウンドの30秒は全て俺の時間
──猪木さんとのもっとも印象深い瞬間はどんなことでしょう。
「ベストメモリーが何かは分からないけど、あるとき、生徒をLAの猪木道場に連れて行った。トレーニングのためと、彼に会わせるためだ。その生徒っていうのは、ジョニー・ハスキーと、ビリー・ウィックスのもとで学んでいる子だった。それで猪木さんのことはちょっとだけ知っているけどそんなに知らないという程度の子で、総合格闘技、キャッチレスリングを練習していた。とても才能のある子だったんだ。
それで『猪木さん、ちょっとテクニックを教えてよ』と。すると叫び声が轟いたんだ。フェイスロックを軽く、顎をテンプルに抑えただけで絶叫して、“こんなに痛いとは思わなかった”と。レッグロックはその生徒のストロングポイントのひとつだったのに猪木さんのアキレス腱固めをもらったら、足が“焼けるかのように痛かった”と。彼は、“いっそ足が焼け落ちてしてしまえば痛みが和らぐんじゃないか”と思ったそうだ(笑)」
──ボーントゥボーンですね。この試合で猪木さんの「闘魂」をいかに表現したいと思いますか?
「自分がそもそも巌流島に出ようと思ったのは異種格闘技というコンセプトが面白かったから。それはまさに猪木さんがやってきたこと、違うジャンルの選手と戦うという、つまり“いつ何時、どこで誰とでも戦う”というものだ。MMAや総合格闘技をやるってことは当たり前すぎて、自分の頭の中ではなんと言うか“どうすればいいか分かっている”ことのような感じだ。新しいスタイルセットで、巌流島でやることが有利な相手と対戦するというのは自分にとって面白いところだ。シビサイは一度だけ鈴川真一にやられている(押し出しによる転落)が、非常に巌流島で良い結果を残している。こういう、異種格闘技戦に挑戦する精神が、自分にとって、それこそが“トウコン(闘魂)”であるのだ」
──巌流島で好きな試合は?
「たくさん見ているけど、よく見るのが、菊野克紀vs.小見川道大。ファンタスティックな試合だ。あと菊野とジミー・アンブリッツ戦も。それと鈴川は無敗だよね。それからシュレック関根さん。巌流島1の、マーカス・アウレリオも見た。あれは本当にエキサイティングだった。普通に巌流島のビッグファンだよ。もっと巌流島を見たい。谷川さんがもし興味があるなら、アメリカのストリーミングテレビで流してほしいところだ。自分にはそういう知り合いもいるし。いろんなオタクに『どうやって見ればいいの?』って聞かれるんだ。『見たいなあ』っていうアメリカのオタクは多い。もちろんUFCみたいな大きなビジネスみたいなのとは違って、ザ・格闘技オタクみたいな人たちなんだけどね。で、それは僕も(笑)」
──巌流島ルールでグラウンド時間に制限がありますが、猪木さんのようにアームロックなどを短時間で極められるという自信がありますか?
「もちろん。まあ30秒で短いので、実は交渉もしました。ただ、巌流島の場合まったく関節技がないっていうこともあるから。プロレスやるのと巌流島をやるのとでは全く違うスタイルにはなる。そうだね。“サンジュービョー”は短いけど極めようと思えばできる。まあ、俺の生徒のフジメグはSMACKGIRLでそうやって極めてきた。サブミッションを極めるには時として我慢も必要だけど、瞬間というのもある、まるで閃光のように極めるということもね。だから、30秒あれば大丈夫。この30秒は全て俺の時間。シビサイをサブミットするか、殴る時間になる。自分はシビサイの関節技のことは気にしていない、彼を悪く言うつもりはないけど、自分は自分の経験というものを信じている」
──シビサイ選手には柔道の投げ技もあります。
「まあ俺はプロレスラーだから。それは俺も得意だよ。シビサイのスープレックスは見たことがないけど、彼がもし“柔道の投げ技”をやろうとしたら、まるで吉田秀彦みたいにね、それは俺にとってはカウンターができるってことだ」
──いかにして勝ちますか。
「たくさん前から圧力をかけて……特に戦略がなくても、リングアウトで勝つということはあるな(笑)。実際、自分のヘビー級の運動量とか、鈴川よりも優れたストライカーであることとか色々あるんだけど、ただシビサイは爪痕を残すためアグレッシブに来ると思うんだ。コンタクトを試みようと。だから、いま124キロあるんだけど、その重さで押し出しになるね。別にリングアウトを望んでるわけじゃないから(笑)。マジレスするなら、関節を極めるよ。レガースはなく、ロングスパッツにリングシューズで試合に臨むよ。え? なぜかって? それは俺がプロレスラーだからだ! ただまあ、リングシューズだからキックができないね。これはちょっとした“犠牲”さ」