MMA
レポート

【MMA】下肢の無いザイオンはプロMMAデビュー戦をいかに戦ったか「出来ること・出来ないことを疑う必要はない」

2022/12/19 12:12
 2022年12月17日(日本時間18日)、米国カリフォルニア州に拠点を置くMMAプロモーション「Gladiator Challenge」で、生まれつき下肢の無いザイオン・クラーク(ザイオン・ザカライア・ダニエルズ・米国)が、プロMMAデビューで判定勝利した。  脊椎の一部の発達を妨げる「尾部退行症候群」という遺伝子疾患を持って生まれてきたザイオンは、レスリングのメッカ、オハイオ州のケント州立大学でオールアメリカン・レスラーとなり、その後、3度のギネス・ワールド・レコード・タイトルを保持している。  両手だけで、20mを4.78秒で走るザイオンは、「手を使ったボックスジャンプ」の世界最高記録(33インチ)と、「3分間でのダイヤモンド腕立て伏せ(両手をひし形に組んで行うプッシュアップ)」の最多記録(3分以内に248回)もマークした。  彼の物語は、Netflixで短編ドキュメンタリーとなり、第91回アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門ショートリストに入選している。  今回、MMAでザイオンと対戦するユージン・マーレイ(米国)はバンタム級でプロMMA0勝4敗。「イコールコンディション」ではない戦いでザイオンとマーレイはいかにMMAを戦ったか。 当たらない打撃、レスリングに柔術を組み合わせてMMAを戦ったザイオン  1R、両手をマットに着いて移動するため、パンチを打つときに片手立ちになり強打が打ちにくそうなザイオン。オープンフィンガーグローブを着けた左右の手を伸ばすが、立つ相手の顔面に届かせるのが困難だ。  対するマーレイも殴る・蹴るべき場所が限られるため、おのずと前かがみで対することになる。  ザイオンは、やはり強みであるレスリングを武器に戦う。  MMAらしく左を振ってから前足にシングルレッグも、ここは足を抜くマーレイ。距離を取るマーレイを両手でスピーディーに追うザイオン。  いったん止まり「来い」と誘ってから、遠間から左手で前足に指をかけ、すぐに右手で奥足の足首も掴む、シングルレッグでテイクダウン。左で脇差し押さえ込もうとするが、レスリングのフォールと異なり、マットに背中を着けさせてからも試合が続くのがMMA。  相手のマーレイは思わずクローズドガードにしようとするが、そこに下肢がないため、ガードが機能しづらく、またザイオンにとっても一瞬のフォールではなく、押さえ込み続けることが難しい。  右手で頭を抱え、ヒザを立て亀になるマーレイをサイドバックで左腕で腰を抱くザイオン。そこから高速のバックテイク。すぐに背中を着けて正対するマーレイに肩固めも狙うザイオンだが、右で脇を差すマーレイが上に。  下から頭、腹に細かいパウンドはザイオン。しかし、ここはマーレイ自ら離れることを選択。 (C)Gladiator Challenge  2R、テイクダウンを警戒して距離を置くマーレイの左手を掴み、手繰ろうとするザイオン。上のマーレイは左フックを打ち下ろすが、および腰で届かない。頭を動かして両腕でステップするザイオンに右フックもダッキングで避けるザイオン。  間合いは遠いが、ザイオンは半身になり右手をマットに着いてから、左手に重心を乗せ、まさしくサイドステップをするように飛んで左腕を右足にかけてすぐに右足に右手もかけてテイクダウン! ここもすぐにヒザ立ちになるマーレイに、脚が無くともすぐに上って腰を抱くザイオンだが、マーレイは左足で一気にザイオンをまたぎ、マウントを狙う。  ここでディープハーフのように足もとに潜るザイオンは、左足を掴んだままインバーテッドガードのように頭を殴られない位置に。レスリングとは異なり、自ら背中を着いてからシングルレッグでレッスルアップ!  片足にしがみつくが、そこにマーレイは右のパウンド。その動きを利してザイオンは、右で足を掴んだまま左手で脇を差してテイクダウン! そこに左腕でギロチンを合わせるマーレイだが、ギロチンチョーク極める要素のひとつであるクローズドガードの中に相手を入れることが出来ない。  ザイオンは、しっかり頭とは対角に跳んでギロチンを外すと、マーレイもすぐ前回同様、右で頭を巻き込んでスイープ。すぐに離れてグラウンドを避ける。  3R、左ジャブ、力強い右オーバーハンドを振るザイオンだが遠い。マーレイは左ジャブもこちらも届かない。ジャブのダブルのマーレイに、ザイオンは右手でマーレイの左前足のかかとと掴み、すぐに左手も添えてシングルレッグへ。マーレイはザイオンの頭の上に腹をのせてがぶり、左足を後方に伸ばしてスプロール。徐々に身体を手繰るザイオンを突き放して立ち上がる。  タックルを切られたザイオン。レスリング同様にマーレイのサイドステップに両手で軽やかにステップして正対。飛び込んで前足をつかんで右でオーバーフックしいて支点を無くすと、右側に倒してテイクダウンもゴング。  判定は、ザイオンの高さに合わせ、中央のレフェリーが正座し、マーレイも両ヒザ立ちとなるなか、3-0(30-27×3)でザイオンが勝利。ザイオンは両手だけでバック宙を見せた。応援していたAJマッキーもケージインし、ザイオンを祝福。  試合後、ザイオンはSNSに、「プロMMAデビューを果たしました。あなたは常に憎しみと疑いを持つでしょう。人生の中で覚えておいてください。人々が自分の能力を疑うのと同じように、あなたが出来ること・出来ないことを疑う必要はない。私はあなたに示すためにここにいます。あなたはあなたの心の思うままに行うことができます」と記している。  今回のMMAの試合はザイオンにとってこれまで通り「挑戦」だった。  打撃にトライし、得意のレスリングに柔術、スクランブルを合わせて戦ったザイオン。「No Excuse(言い訳なし)」のタトゥーを背中に刻むザイオンは、2024年のパリ五輪に向けて、オリンピックとパラリンピックの両方で、レスリングと車いすレースという別々の競技の代表選手になった最初のアメリカ人になることを目指している。
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