2022年12月17日(日本時間18日)、米国カリフォルニア州に拠点を置くMMAプロモーション「Gladiator Challenge」で、生まれつき下肢の無いザイオン・クラーク(ザイオン・ザカライア・ダニエルズ・米国)が、プロMMAデビューすることが発表された。
脊椎の一部の発達を妨げる「尾部退行症候群」という遺伝子疾患を持って生まれてきたザイオンは、レスリングのメッカ、オハイオ州のケント州立大学でオールアメリカン・レスラーとなり、その後、3度のギネス・ワールド・レコード・タイトルを保持している。
両手だけで、20mを4.78秒で走るザイオンは、「手を使ったボックスジャンプ」の世界最高記録(33インチ)と、「3分間でのダイヤモンド腕立て伏せ(両手をひし形に組んで行うプッシュアップ)」の最多記録(3分以内に248回)もマークした。
彼の物語は、Netflixで短編ドキュメンタリーとなり、第91回アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門ショートリストに入選している。
そのなかでザイオンは、産みの親に見捨てられ、7、8軒の里親の家をたらい回しにされるなかで、「飢えさせられてよく殴られた」と語っている。後に養子に迎えた現在の母親のもと、小学2年生でレスリングを始めた。
「何人かの子供たちは僕とレスリングをするのを怖がり、僕も彼らとレスリングをするのが怖かった。自分が何をどうすべき分からなかった。僕は多くの試行錯誤によって、自分のレスリングを適応させた。何が効果的なのか、何年もかけて考えてきたんだ。レスリングは、こつこつと努力し続けることであり、ライフスタイルだ。脚が無く生まれたことが、自分のやりたいことを阻むわけじゃない」(デイリー紙)
格闘技でも、ハンディキャップを持つ選手たちは活躍している。
Bellator1勝1敗のニック・ニューウェルはヒジ下が無い左腕で戦い、グラップリングのADCC等にもハンディキャップ部門がある。
難しいのはパラリンピックのように「イコールコンディション」に近い形で競い合うことが困難なことだ。下肢が無く上半身だけでMMAを戦うことは間違いなく大きなハンディキャップだろう。下になった場合、足を効かせることが出来ずにパウンドを浴びることは、レスリングで健常者を押さえ込むザイオンにとっても、危険であることは承知の上。同時に、対戦相手にとっても、打撃やホールドや極めるべき場所が無いことは、ハンディともいえる。
今回、MMAでザイオンと対戦するユージン・マーレイ(米国)はバンタム級でプロMMA0勝4敗。
「MMA MANIA」のインタビューでザイオンは、「僕にとってはレスリングと同じだよ。僕はただ健常者とレスリングをし、健常者を倒してきた。今回は僕にとって新たなプロフェッショナルなキャリアの始まりであり、僕は彼の喉を引き裂き、観衆のためにショーを行うためにここにいる。僕は健常者と戦って、健常者をノックアウトするつもりだ。単純なことだ。僕はファイターなんだ」と語っている。
「No Excuse(言い訳なし)」のタトゥーを背中に刻むザイオンの目標は、MMAで成功を収めるとともに、2024年のパリ五輪にレスリングで出場し、パラリンピックでも車いすレースに出場することだという。