2022年10月23日(日)マリンメッセ福岡A館で開催された『湘南美容クリニック presents RIZIN.39』のメインイベント「RIZINフェザー級(66.0kg)タイトルマッチ」で、王者・牛久絢太郎(K-Clann)に挑戦したクレベル・コイケ(ボンサイ柔術)。
試合が近づくにつれ「牛久有利」の声が高まるなか、“柔術の鬼神”は予告通りに「2R、三角絞め」で一本勝ちし、悲願のRIZINフェザー級王者に輝いた。
以前に獲得したポーランドのKSWのベルトと、今回手にしたRIZINのベルトを持ち、会見場に現れたクレベルは、試合後インタビューで、前日と試合当日に行われたONEとUFCの試合の影響、牛久戦のフィニッシュ、朝倉未来との再戦や大晦日の展望、そしてボンサイ柔術の絆について、語った。
クレベル・コイケはいかにして王座を戴冠したのか。一問一答の全文を紹介したい。
三角は絞まったら逃げるのは無理
──試合後の率直な感想をお聞かせいただけますでしょうか。
「まあ、嬉しいな、素晴らしい! 今日、私チャンピオンになってるから。今日ちょうど1年前からそれを待っていたので、めっちゃ嬉しいです」
──宣言通りの三角絞めでの一本勝ちは作戦通りに極められたのですか?
「そう、間違いない、私すごいいっぱい練習した、三角。でも牛久が前に言っていたエスケープもディフェンスも、無理。自分、絞まったら(逃げるのは)無理です。でも自分それが嬉しいです」
──ベルトを持って、サトシ選手、マルキーニョス選手と3人でベルトに語りかけていたようでしたが、何をしていたのですか。
「このベルトに後で3人で話していたのは、神様に感謝していました。『ありがたい』と。いつも言っていて、自分の家族とか知り合いとか、みんなたぶん知らないけど、3人でずっと一緒に頑張ってきた。最初(1人)だったらめっちゃ難しいけど、3人だったから、ずっと夢がある。ずっと頑張っている、それが自信(になっている)。それで今日ベルトを獲れたから終わったら、神様にありがとうと伝えていました」
──牛久選手は試合前のイメージと違うところはありましたか。
「私は言っていたね。牛久は悪いんじゃない。うーん、あんまり変わらないね。問題ない。私リスペクト(してる)。でも当たり前。試合だったらファイトだから。もっと勝つ気持ちになっている。悪い気持ちはいつも何もない、2人はファイター、2人が頑張って、2人に(それぞれ)ドリームある、私いつもみんなにリスペクトがある」
──新王者となりました。今後の展望や目標を教えていただけますか。
「自分、今、新チャンピオンになったから、何ていうかな、もっとこれからベルトを守っていきたい。ここまでで、子どもたちが大人になって(も)、今自分は大人で、これからもっと頑張ってベルトを守ってる(姿を見せたい)。もっと世界だったり日本でポテンシャル見ていてください、RIZINのポテンシャル、自分のポテンシャルある。それだけ。もっとベルトを守っていきたい」
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日本の方が長くいて、より日本人だから日本国歌にしたかった
──難しい質問ですが、今回このベルトを獲るのに、一番苦労したことはなんですか。
「一番大変だったのは、(ファイトキャンプをして)自分の家族が一緒にいられなくて色々、子供たちとも遊べないのが、それが一番大変。何か考えてると、疲れる。練習しないでもういきます(となってしまう)。あとはたぶんダイエット(減量)かな。私、2カ月半、日本にいなくて家族が近くにいない、それが寂しかった。だからたぶん、それが一番難しいな。でも自分にはドリームある。すぐにチャンプに行きたかったけど、自分は色々我慢して、すぐにベルトを獲れたから、すごい嬉しいです」
──海外で、米国のATTと、タイのタイガームエタイやプーケット・ファイト・クラブ、バンタォ・ムエタイMMA等で練習した成果が今回きちんと出たと解釈していますか?
「もちろん私は前からやっていた練習で、ファイトクラブでいっぱい練習した。当たり前にこれで変わってる。なので日本に戻ったらもっと自信がついて、アメリカでもっと練習したら強くなる。プーケットでもムエタイのチャンピオンがいっぱいいて、みんな有名で強い。私は戻ったらもっと強くなってもっと自信になっている。日本に戻ったらみんないつも『どうですか? 自信ある?』と聞くけど、自信ある。それがすごい変わった。3週間前に日本に戻ったら、自分の柔術スタイルだけ決まっているのは当たり前。日本の外の練習したら、もっと自信が変わる。それが本当に変わっているよ」
──試合前の国歌斉唱を、ブラジル国歌ではなく日本国歌にしたのはどんな思いがあったのですか?
「私、ブラジル人。みんなそれは分かってる。私、14歳で日本に来てもうすぐ20年、日本にいる。全部自分にはある。家族いる、自分も友人もみんなが助けてくれて、チャンピオンになったら(今度は)日本を助けたい。私は日本を大リスペクトだから。でも私はブラジルと日本のハーフ。だけど私は日本の方が長くいるから、より日本人。だから今日、日本の国歌(にするの)は当たり前。日本に助けられて、サポートしてもらっている。私は本当は血はブラジル人だけど、いつも助けてくれているのは全部日本だから、日本がありがたい。今日は国歌は日本のものでいきたい、なんで? それは、ずっとここまで自分を日本が助けてるから」
──試合が終わった後に追悼していたのはアントニオ猪木さんのことですか?
「アントニオ猪木さんはもう日本のレジェンド。ヴァーリトゥードプロレスリングで、病気が悪化して死んじゃったから。日本だけじゃなくて世界がそれを寂しがっている。彼は日本のレジェンドで、日本のファイターたちは、彼がいなくなったから、このモーメントはちょっと難しい。彼は日本でめっちゃレジェンドで、昔のファイターだったらみんなそれが分かっている。令和世代はみんなもう知らないけど、彼は日本のレジェンドだから、私めっちゃリスペクトしている」
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朝倉未来と自分のレベルはちょっと違う
──大晦日にRIZINのビッグイベントがありますが、現時点でどんな相手と戦いたいと思いますか?
「うーん、私まだそれを考えられないけど、榊原さんと後で話すかな、まあ、大晦日出るには、ちょと……、Bellator選手とならファイトマネー、アップかな? それはまだ決まっていない。あとで社長とちょっと話したいけどチャンスはあるので。でもまずは、また自分と家族と一緒にいることだけ(考えている)。大晦日に出る・出ないは来週から考える。私は大丈夫。怪我もしていないし何もないけど。榊原さん、お金アップできるかもしれないかな? ちょっと相談ですね。私、頑張ってるから。あとで社長と話すことだから、誰が来るとかわからないけど、でも頑張ります」
──ファンは朝倉未来選手との再戦が見たいという声も強いですが、そこにはどんな思いがありますか。
「みんないつも、朝倉ともう1回戦うって言っていて。でも朝倉は今はもう……、私、もう1回戦いたいけど、今、私はチャンピオンだから。自分が、今朝倉と戦うとなったら、それは自分(にとっては)バックステップ(後退)かな。彼は自分と戦って1回勝つかもしれないと、私ともう一回やりたい(と思う)のは当たり前で、だから、お金。“お金ファイト”。でも、本物のファイトとウソつきのファイトだったら、自分は本物のファイト(をしたい)。朝倉は、まあまあね。自分はリスペクトある、朝倉に。彼は強いけど、自分と彼のレベルはちょっと違う。私はRIZIN2年くらいで6試合ぜんぶ一本勝ち。私、全部勝つ。朝倉も勝つ、みんなに勝つで。朝倉もっと頑張ってください。もう1回、彼にチャンスの試合あるかもしれない。私はリスペクト(している)。でも私は今(立場が)違うので、私、新しい挑戦をしたいです」
──1Rに相手に肩固めを極めようとし、リバーサルされて下になりました。1Rの段階では自分のプラン通りに出来ていたと思いますか?
「そう、本当だったら自分がちょっと間違えてる(笑)。最初に考えているのは“腕の三角(肩固め)から、バック行くかな”。まあそれが(サイドに抜けず)真ん中だったから彼が逃げた。私“あー!”(となったけど)下だったら私、問題ない。でも彼が最初の腕の三角は、動いたので頑張らないようにして、ちょっと我慢、私はそれが分かっているから大丈夫。2Rとか絶対一本勝ちできる(と思っていた)。彼がディフェンスするのは当たり前。でも私が間違えていた。うん。腕の三角、バック行くから、彼がエスケープした。“うわあ、ごめんね”(と思った)」
──2Rのフィニッシュはクレベル選手の柔道の首投げでテイクダウンしてバックを取りながらの際で三角絞めをセットしました。相手の腕が外に出ていたけど問題なく、投げたらセットできると考えていましたか?
「そう、それが、払い腰だったら、腕の中だって、いつも問題ない。ずっとそれを自分何回も練習して、みんな生徒たちも分かっている。同じポジションでそこからサブミッション。頑張ってる、柔道ディフェンスだったらそれが戻ってる」
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ブラジルから日本に行った猪木さんの気持ちがちょっと分かる
──アントニオ猪木さんが出稼ぎでブラジルに行って、日本に戻ってきた、そういう歴史にシンパシーを感じましたか?
「そう。当たり前、彼はたぶん日本人は知らないけど、彼はブラジルのファイターはみんなリスペクトある。彼は(自分たちと)同じ、ブラジルで練習して日本へ。だいたい同じ気持ちで、ちょっと分かってる。そう、彼の気持ちが分かる。みんなたぶん知らないけど、彼はレジェンドでブラジル人はみんな全員が彼を知ってる。みんなリスペクト(してる)、彼を」
──前日に練習仲間のファブリシオ・アンドラージ選手がONE Championshipで、ジョン・リネカー選手を追い込みながら、ローブローによるノーコンテンストでチャンピオンになれませんでした。その後、RIZINと同日に、UFC世界ライト級元王者のシャーウス・オリヴェイラ選手が、イスラム・マカチェフ選手に一本負けしました。構図としては今回の牛久戦に似ているなか、それらの結果は、クレベル選手になにか影響がありましたか?
「そう、自分とファブリシオ・アンドラージはすごく仲がいい。タイガームエタイで一緒に練習していた。私は彼がチャンピオンになるために頑張っていっぱい練習してきたのを見た。でも、あのONEの試合の後、彼からすぐにメッセージが来て。『頑張って』『大丈夫、私は今日は寂しいけど、あなたはこれから自信持って、RIZINのチャンピオンになって』と送ってくれた。ありがたい。私と彼は本当に友達で仲良いんだけど、私と彼がずっとタイで言ってたね。『自分がRIZINチャンプ、彼がONEチャンプだったら、あとで2人でちょっと、ご飯行きましょう、遊びに行きましょう』と前に約束していました。
(C)Zuffa LLC/UFC
今回、彼は王者になることはできなかったけど、次、彼は絶対にONEのチャンピオンで間違いない、彼は本当ポテンシャルがある。シャーウスも同じ。今日のUFCは期待していたけど、ドバイの時間だったから見るのが難しかった。深夜3時から(メインカード)だったので寝ていた。あとで起きたらサトシが言っていた。『シャーウスが負けた』と。私すごく寂しかった。私は、彼のスタイルを見て、自分もそれを目標としていた。いつも見ていて、彼の試合のスタイルが大好き。前は柔術(中心)で、今は打撃もレベルアップしたのに、彼が負けるのを見るのは、ちょっと寂しい。(でも)今日はあまり考えない、それは。自分に集中したかったから。彼は負けたらまた絶対チャンピオンになれる。今日は自分はセルフィッシュで特別(な日)。自分のことを考えていた」
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センセイがいて緊張したけど自信になった
──クレベル選手が日本に出稼ぎに来た時に、同じ工場行きのバスで出会い、ボンサイ柔術に入るきっかけとなったマウリシオ・ダイ先生が、今回のタイトルマッチのために、ブラジルから来てくれたことは力になりましたか?
「そう。“兄弟”がいると自信になる、でもプレッシャーになる!(笑)。彼が今ボンサイの代表で、たぶんみんな知らないけど、でも自分が最初に柔術で練習したのはサトシやマルキーニョスじゃない、マウリシオ・ダイ。自分が最初、白帯とか、茶帯、紫まで彼が自分に柔術教えてくれてる。何回も言ってるけど最初、自分、腕十字の右と左を間違えて彼にいつも怒られてた(苦笑)。『お前はタレント(才能)がない、やめたほうがいい』なんて言われて、でもずっと頑張って頑張って、だんだん柔術のレベルアップしてる。彼が今日近くに、バックステージにいるのはもっと自信になるけど、でももっと緊張かな。“ああ今日先生いるから、負けるのはダメかな”って。でも大丈夫、よかった、今日勝っています。でも彼が(いて)今日めっちゃ嬉しいです」
──榊原CEOがリング上で「Bellatorとの対抗戦も頼む」と言っていました。もしそうなった場合、チャンピオンとして出ていきたい気持ちもありますか。
「もちろん。それはチャンスある。ファイトマネーアップ。私、間違いない、絶対試合出るよ。当たり前、私のファイトで家族が生きるから大事。ファイトマネーアップはもちろんの試合。自分はRIZINにめっちゃリスペクトある。榊原さんに最初に会ったとき、『一個チャンスください、私、絶対チャンプになる』と。1回、2回、3回、4回、5回、6回(連続で一本勝ちして)、いまチャンピオン。でも、最初に本気で話したのは、『1回チャンスでいい』と、『私は日本のチャンプ、RIZINのチャンプになるから信じてください』と。彼が信じてた自分が今、チャンプになってる。どうもありがとうございました。榊原さんだけじゃなくてRIZINのスタッフが自分をいつも信じて助けてくれました。ありがとうございました」