2022年7月23日(土)東京・後楽園ホール『KNOCK OUT 2022 vol.4』にて、「KNOCK OUT-RED -61.5kg契約/3分3R・延長1R」で大谷翔司(スクランブル渋谷)と対戦する梅野源治(PHOENIX)。『KNOCK OUT』には5年3カ月ぶり、『REBELS』最後の出場からも3年半ぶりとなる梅野の参戦は、発表されるや否や大きな話題となった。ここしばらくはヒジなしのリングへの参戦が目立ち、そこで新たな知名度を獲得した梅野にとって、この大谷戦はどんな意味、どんな目的を持った一戦なのか? 主催者を通じてインタビューが届いた。
自分の中では大きな点になる試合だなという認識がある
──5月13日に参戦決定、27日にカード決定と、2回の記者会見がありました。その反響はいかがでしたか?
「いろんな声をいただきましたが、『ムエタイではどんなもんなんだ?』という意見が多かったですね」
──それはRIZINなどへの出場で、「ムエタイの梅野源治」を知らないファンも増えたからですよね。そういう周囲の変化は、ご自身としてはいかがですか?
「RIZINとかを見ている方たちの中では、そもそもキックボクシングとムエタイがどう違うかというのをちゃんと細かく知っている人というのはなかなかいないと思うんですね。何となーく『ヒジがあるんだろうな』というぐらいの認識で、『首相撲って何なんだろう』とか、よく分かってないと思うんですよ。そこで僕が首相撲ばかりの試合をしたら、『ムエタイって組んでばかりでつまらないな』という印象になってしまいますよね。そういった意味では、ムエタイのテクニックを使いつつ派手に倒せれば、またムエタイの印象がよくなるんじゃないかと思ってますね」
──なるほど。
「そこは僕の戦い方次第で、ムエタイの印象を変えるというよりは、多くの方にとっては『ムエタイというものを新しく知ってもらう』という形になると思うので、『こういうテクニックがあるんだな』『しかもこれだけダメージを与えられるんだ』というのを、今回『KNOCK OUT』のリングで、一般層に伝わるような形で出せたら一番いいなと思ってます」
──それは同じルールの戦いでも、以前のような「ムエタイの頂点を一心不乱に目指す戦い」とは、また大きく違いますよね。それはそれでやり甲斐がありそうですね。
「そうですね、ムエタイの最高峰を目指していた時とは戦いのベクトルが違うというか、ゴールが違うので、その点では見せ方を変えていかなきゃいけないというか。これは何度か言ってるんですけど、コロナ禍でタイからなかなか選手が呼べない、ムエタイのタイトルマッチもなかなか組めないという状況の中で、僕に何ができるかと考えた時に、僕が今まで追っていた『ムエタイのチャンピオンになる』という道。すごく難しいことだからそれを選んだんですけども、今はそれが状況的にちょっと困難になってきている。だったら、子供たちにというのはおこがましいですけど、ムエタイがどういうものなのかを多くの人に知ってもらおうという方向に道を変えたのが現状なんですね」
──はい、それは客観的に見ていて分かります。
「その意味では、RIZINにムエタイを持っていったりだとか、ムエタイに興味を持つ人を増やしていくという方向に動いていきたいので、そうなるとものすごくハイレベルな、初めて見る人には分からないというようなテクニックばかり使って戦っても、そういった目標には近づけないと思うんですよね。だからこそ、ムエタイで使える技を使って派手に倒すというのが一番いいのかなと」
──そういう試合をしたいという意識の上で、今回の対戦相手である大谷翔司選手はいかがですか?
「正直、ムエタイのトップどころの選手ではなく日本人選手なので、分かりやすい試合ができるんじゃないかなあと思います。彼もハードパンチャーで、元から一般層に伝わりやすい試合をするタイプだと思いますし、そういう相手に対してムエタイの技でいかに派手に、分かりやすく倒せるかと考えると、いい相手なんじゃないかなと思います。楽、とかそういう意味ではなくて」」
──噛み合う試合ができそうということですか?
「そうですね。一般層に分かりやすい試合をする大谷選手に対して、その一般層から『ムエタイではアイツはどうなんだ?』という見られ方をしているので、『分かりやすい戦いをする選手をいかに派手にわかりやすく倒すか』という見方が大多数になってくると思うんですよね。それができれば、今後ムエタイをより大きな舞台に持っていけるのかなと思っています」
──その意味では、これも大事な試合ですね。
「もちろん、今までやったどの試合も全て大事なんですけども、今は長期的な目線でいろいろ考えるところがあるので、そのためには今回の一戦は落とせない、大事な試合だなと。自分の中では大きな点になる試合だなという認識があります」
──『KNOCK OUT』という名称のイベントへの参戦も久々になりますが、後楽園ホールも久々ですよね。その点はいかがですか?
「僕は場所は特に気にしないんですが……国内でムエタイの試合というと、以前はディファ有明、今は後楽園が多いと思うので、その意味では古巣に戻るというか、原点回帰というか。その原点から大輪の華を咲かせるための動きをしていくという意味では、後楽園ホールというのはいいリングなんじゃないかなという思いはあります」
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『KNOCK OUT』は旗揚げ当初、僕と那須川天心君がいて始まったもの
──会見の時に「勝ったら発言したいことがある」とおっしゃっていたと思います。それは、今言われたような今後の目的に関わるようなことですか?
「それもここでは控えておきますが、そうですね、今後いろいろと面白くできるように考えているので、今考えていることを言ったら、皆さんを驚かせられるんじゃないかなと思います」
──この先、『KNOCK OUT』に継続参戦されるかどうかも、この試合次第だというお話でした。
「はい。まだ何とも言えないですね。他にもいろんなイベントにもお世話になってますし、いろいろと話し合って決めていくということになると思います。そもそも今回勝たないと、継続参戦どうこう言っている場合でもなくなりますし」
──日々の練習についても少しお聞きしたいと思います。以前はムエタイ・ルール一本だったと思いますが、今は試合によってルールが違いますよね。練習ももちろん変えているわけですよね。
「そうですね。ヒジなしルールが決まっている時はもちろんその練習をしますし、今はヒジありの練習、以前からやっていたのと同じ練習をしています。ルールに対応した練習内容は、試合が決まった時に切り替えるという感じですね」
──以前にはなかった切り替えが必要になっているということですよね。それって、単純に大変ではないんですか?
「大変なのは確かですよ。でもまあ自分で決めたことですし、自分の得意なルールだけで『このぐらいでいいかな』という感じで収まってしまうと、自分の枠が広がらないですし。ヒジなしルールのイベントに出場するのも、自分の可能性を手探りながらも探して、広げていくという意味がありますからね。ある程度のビジョンを持って試合を決めていますし、こういうインタビューなんかでも目先のことだけじゃなく、ある程度の考えを持って発言したいと思っているんですけど、そのチャレンジをしたことや発言したことに対しても、一切後悔はしていないので」
──ただ、やはりヒジあり、ムエタイの練習をしていると、本来の自分に戻ったような感触があったりしませんか?
「ああ……それはやっぱりやりやすいですよね」
──そうですよね(笑)。
「やっぱり練習していても楽しいなと思うし、のびのびできるなというのは感じます。そもそも格闘技にはいろんなルールがあるわけで、ボクシングの選手はパンチが強いですけど、キックボクシングに行ったら打ち方も変わるし、そのまま通用するわけじゃないですよね。そこにアジャストできる人もいれば、できない人もいる。それは身体的特徴の影響だったりとか、単純に合う・合わないの問題だったりすると思うんですけど、僕はたまたまムエタイというものが合っていて、そういうものをたまたま選んだからこういう結果が出ただけというか。だから、例えば僕がMMAに行ったらもっといい結果を残していたかもしれないし、全然ダメだったかもしれない。それは他のスポーツに行った場合でも同じですよね。その中で、僕がたまたまやりたいと思ったムエタイでたまたま結果を残せて、もっと頑張りたいと思えているというのは、すごく幸せなことなんじゃないかと思うんです」
──たまたまではないとは思いますが……。
「まあいずれにしても、僕がその幸せを感じているのは事実で、でもここ2戦では結果を残せていないから『アジャストできていない』と言われるのもまた事実なんですが……結果さえ残せればみんなの言うことも変わりますし、自分の中でも「俺はやっぱりすごいんだ」と思えて、それを結果で証明していけるわけです。だからこそ、今後もそれをちゃんとやっていきたいなというのはありますね」
──その中でも今回は、以前から体に染みつくほど練習したものを出せる試合ではあると。
「はい。最初からずーっとやってきたことですし、『KNOCK OUT』は旗揚げ当初、僕と那須川天心君がいて始まったものなので、『やっぱりヒジありの梅野はヤバいんだな』と分からせるにはちょうどいいリングになるんじゃないかと思います」
──では最後に、今言われたこと全部含めて、当日の試合で一番注目してほしいポイントはどこでしょう?
「“殺気”ですね。ムエタイの試合でしか出せないような雰囲気とかオーラってあると思うんですよ。僕が培ってきたのはムエタイなので、ムエタイ・ルールでの梅野源治の殺気を感じていただけたらと思います」