グラップリング
インタビュー

【ONE】極めさせなかった青木真也、輝きを見せたケイド、97秒で強豪トノンを極めたタイ──ルオトロ兄弟デビューに注視すべきONEグラップリング部門の拡大

2022/05/24 15:05
 2022年5月20日、シンガポールのインドアスタジアムにて、ONE Championship『ONE 157: Petchmorakot vs. Vienot』が開催された。  メインカードの第2試合では、3月の秋山成勲戦で2R TKO負け後、わずか2カ月でグラップリングルールながら再起に臨む青木真也が、グラップリング界の新星・双子のルオトロ兄弟の弟ケイド・ルオトロ(米国)と対戦した。  試合は、19歳のルオトロのファンタジスタともいえる動きに、39歳の青木はケージグラップリングで対抗。様々な仕掛けに対し、巧みなディフェンス技術で一本を極めさせず。ルオトロのONEデビュー戦で、ベテランの存在感を示した内容となった。  試合後、ルオトロは「正直なところ、100%自分のパフォーマンスに満足していない。レスリングにはすごい自信があって、サブミッションの自信もあったからがっかりしている。いつだって試合をするときの目標は極めることだから、このルールだとドローにもなり得たからすごくプッシュしたけど、要するにシンヤ・アオキがアメイジングな仕事をしたと言える」と、攻め続けたものの、極めさせなかった青木を称えた。  序盤は、開始から頭を押さえてスナップダウンでテイクダウン狙うルオトロに対し、金網を背にして、通常のオープンマットとは異なるケージグラップリングで対抗する青木。  ルオトロは青木の右前足のかかとを引き付け、その足の引き戻し際にスピーディーにバックテイク。  すぐさま両足をかけるが、シートベルトのルオトロの組み手に対し、青木はアゴを引きながら、両手で左右の足のかかとを掴むと左足のフックを外して自身の尻の下に置くと、腰をずらしていく。  そこにネルソンを狙うルオトロを金網に押し込みながら正対に成功。その、向き直り際に得意のダースチョークを狙うルオトロに、青木はがぶらせずすぐに後方に引いて立ち上がっている。  試合後、「青木にもっと積極的であってほしかった?」と問われたルオトロは、「彼の問題というより自分が極められなかったことが問題。アオキはリストコントロールがすこく上手くキープできていて、これといった間違いも犯さず、穴も無く、僕はペースアップしていくしか攻め続けられなかった。  僕もいろんな角度から切り込んでいったし、彼の頭の上のポジションにずっといたし、技術的な意味で何歩か上を行っていたと思うんだけど、ひとつ確かに驚いたことがあって、彼のアイソメトリックとでもいうのか、彼の背中の強さを感じたよ。自分がバックにいるときに、ものすごいリストコントロールがあって、ずっと離してくれなくてやっと離したときにもう1回チョークに行ったんだけど、また掴まれた」と、極め切れなかった反省点と同時に、青木に体幹の強さやリストコントロールの巧みさがあったとした。  この試合、激しい組み手争いでも青木は常に金網を背にして戦った。 「ものすごい違いを感じたわけじゃないけど、彼はすごくケージを使おうとするんだよね。ケージを背にして、休憩ポイントをうまく使って、それは時間を使う動きで、僕をイライラさせた」  前足にシングルレッグに入るルオトロに、すぐに右で小手に巻いて差し上げる青木。押し込むルオトロは、右手で青木の左手首を掴むも切る青木。ならばとルオトロは右を首後ろに巻いて首相撲で引き付け、左を深く差すと同時に、ジャンピング!  サークルケージのマット部分を右足で強く蹴って、自身の体重を振り子のように使って青木を崩して引き込みバックテイクを成功させた。  かつてアンソニー・ペティスが金網を蹴って三角蹴りを見せたように、ジャンピングガードで金網を使ったルオトロ。防御に金網を使った青木に対し、ルオトロは攻撃に金網を使ったことになる。 「あれはめっちゃイケけてたでしょ? ああいうのが出来たら気分がいいよね。あのときジャンピング三角(絞め)を考えていて、ちらっと横を見たら、ケージじゃなくてケージポストがあったから、これは(蹴ったら)いいんじゃないかと思ってやってみたんだ。いつも違う形の攻撃の道筋を探求している。ケージもそのひとつだ。サークルケージに囲まれているのはいいなと思ったよ。またやりたい」と、ルオトロはケージでの試合に前向きな感触を得たようだ。  シングルバックから4の字ロックを組んだルオトロだが、後ろ手を組ませない青木に、ルオトロは右脇をすくいながら肩固め、エゼキエル(袖車)チョークを狙うが、ここも形を作らせない青木は強い防御力を発揮。  バックから足を解除し、サイドバック気味にアームインギロチンチョークを仕掛けるルオトロに、右手をリストコントロールして組ませない青木。ルオトロは青木の左手を足で縛ろうとするが、抜く青木。  シングルバックに変えたルオトロは右足を外からかけてロックし上体を立てると、左足を手繰ってクレードルで前転。トラックポジションになるも、ここも青木の防御に阻まれ足を解除しスタンドに。  左で差して押し込むルオトロの右手をリストコントロールしにいく青木。その掴みを右ヒザを当ててクラッチを足で切るルオトロ。  引き込むルオトロは、ガードの中に青木を入れて、ヒップスローで青木に左手をマットを着かせると、右脇を右足で煽って、青木の頭越しに右手で引き寄せ左手とパームトゥパームでクラッチし引き付け、バギーチョーク狙い。しかし左足をまたぐ青木はサイドの形を作らせずも「キャッチ」のコールが入り、そのままゴングが鳴らされた。 「バギーチョークは、最後終わりギリギリだったからあと10秒、15秒欲しかった。すごく短い時間だったけど、クローズドガードからのセットはすごく突飛な体勢だったし、もしグリップしてロックできれば噛み合ったはずだ。もしサイドポジションからセットできれば確実にロックしてフィニッシュできたけど少し時間が足りなかった」と、ポジションが完璧ではなかったことを明かしたルオトロ。青木もバギーチョークは極まっていなかったことを示すようにゴングにすぐに上体を離して立ち上がっている。  ジャッジ裁定は「キャッチ」コールを獲得したルオトロが勝利も青木はしてやったりの笑顔。ルオトロは浮かない表情を浮かべた。 「自分のコントロール下にあると思ったから、何の危険も感じなかったし、僕が危ういポイントは無かった」というルオトロだが、「とにかく自分がサブミットできるように努めたけど、自分がへとへとになっている感じがしたんだ。それもまた極められなかった要因のひとつで、というのも彼は間違いを犯さないようにして、すごく強いリストコントロールをし続けて、自分はこれぞという完璧なチャンスを見つけられず、少し強引になってしまった。極めたかったけど、アオキは素晴らしく、それを実現できなかった。彼は間違いを犯さないからチャンスは生まれない」と、青木がワンミスも犯さず、仕事を遂行したことを称えた。  レジェンドとの対戦を「ものすごく大きなことだ。アオキはMMAシーンでもっとも柔術を習得できている選手で常にいいパフォーマンスを残しているから、とてもキツい相手だった」と振り返ったルオトロ。  反省点は、「振り合えると、スペースをもう少し広げて、彼にスペースを与えることで、もっと彼がコミットできるようにすればよかったと思う。スペースを与えて彼にアンダーフックさせたりしたら、(ダースチョークなどを狙えて)良かったんだけど、それもひとつの自分たち兄弟がカウンタータイプと言われるゆえんかもしれない」と、タイトに圧倒しようとしたことで、自身の強みを活かせる形に持ち込めなかったことだとした。 「一気に極めることを意識し過ぎて一方的に動きすぎたと思う。相手にスペースを与えることで、自分の攻撃も生まれるということは、僕の兄がやって見せてくれたことだ。兄のように自分も素晴らしい試合をしたい」と、かつてグラップリングで青木真也を内ヒールで極めたゲイリー・トノンを、今大会でダースチョークに極めた兄タイ・ルオトロの動きを見習いたいという。  MMAやキック・ムエタイのトッププロのONEの試合のなかで、グラップリングという新たなジャンルの開拓も担うことになるルオトロは、「まだ馴染みの浅いファンにどうグラップリングを届けたいか?」と問われ、「このONEのプラットフォームは柔術をやっている人には良いことだから、もっと盛り上げられるように、とにかくエキサイティングなことをし続けるということ。やっている人たちにも“こんなことができるんだ”と思ってもらいたいんだ。競技者によってはかなりルールに縛られていて、そんななかで自分には戦略的な動きもあり、極めることを第一に考えて微調整をしていく。無理矢理ではなく、仕掛けを作ってスペースを作ったりしていきたい」と、アクロバティックなだけでなく、自由で創造性の高いグラップリングを見せたいと語る。  トップで強い兄タイとともにケイドもMMA向きのグラップラーであることをケージの中で証明した。今後は、グラップリングのみならず、MMAでもその極めの強さを発揮したいという。 「自分の能力のベストを見せたいから早く戻ってきたい。MMAでやっていくことに関してもすごくやる気が出たよ。カリフォルニアに戻ったらもっとMMAを練習するし、このキャンプ用にも柔術以外を練習してきた。もっと成果を出したい。9月のADCCとサブオンリーの試合にも出て、基本的には今年の年末とか来年のはじめには、オープンフィンガーグローブをつけてここに戻って来れたらいいと思っている」  兄タイは、トノンの引き込みを切って、いい形で引き込ませず、上から驚くべき速さでニースライスパスから腰を切ってパスガード。ケージを蹴ろうとしたトノンを上四方にとらえ、トノンを前転させないように足もからめてダースチョークで斬って落とした。  5万ドルのボーナスを得たタイは「ケイドとのウォーミングアップの方がハードで流血してしまった」と笑顔を見せながら、「次? ケイドと対戦相手を交換してシンヤとやるのもいいね」と青木との対戦も望んでいる。  そして、新星ケイドに華々しいONEデビューを許さなかった青木は、試合前にブシェシャことマーカス・ブシェシャ・アルメイダと練習し、試合翌日にはONEグラップリング部門のトップに就任したレオジーニョことレオ・ヴィエイラとも練習してきたことを明かしている。  すでに、ONEとはルオトロ兄弟を指導するアンドレ・ガウバォンをはじめ、今成正和を極めたマイキー・ムスメシ、ゴードン・ライアン、ダニエラ・ケリー、ヘナート・カヌート、タイナン・ダルプラ、ジェッサ・カーンも契約を交わしており、重要なのは、各部門の最前線にいる選手が陣容に加わっていることだ。  グラップリング部門の拡大、さらにグラップリングとMMAの両部門で戦う選手も出てくるなか、タイとケイドのルオトロ兄弟のデビューは、ONEの新たな形のショーケースとして注視すべき試合だった。
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