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【Bellator】戦火からベルトを回収したアモソフ、暫定王座戦から離れた母国でトレーニングを再開する「いつかそこにカムバックする。そして、自分こそがベルトの保有者であることを証明する」

2022/05/12 12:05
 2022年5月13日(日本時間14日)英国ロンドンのSSEアリーナにて、『Bellator 281: MVP vs. Storley』が開催される。  当初、このロンドン大会の大会名は『MVP vs. AMOSOV』だった。同級1位のマイケル・“ヴェノム”・ペイジ(英国)が、地元でのメインイベントで、Bellatorウェルター級世界王者ヤロスラフ・アモソフ(ウクライナ)に挑戦するはずだったが、26戦無敗の王者は母国ウクライナのキエフ市近郊の故郷イルピンで、ロシアの侵攻に対し、防衛活動を行うために残留を決めたため、試合はローガン・ストーレイ(米国)との「ウェルター級暫定王座戦」となっている。 【写真】当初公開されていたMVPとアモソフの王座戦のポスター。  5月12日には、ロンドンにて会見が行われ、アモソフと対戦予定だったペイジ(MVP)が、「まさか対戦相手が試合できない理由が“戦争”だなんて、ほんとうにクレイジーな状況だ。とにかくこれに関して言えることは、彼と彼の家族が無事であることと、いち早い終結を祈っているということ」と、アモソフの無事を願っている。  そのアモソフが11日、米国メディアの動画インタビューに応じ、ウクライナ・イルピンで目にしたこと、トレーニングを再開したことなどを明かしている。  4月に爆撃を受けた自宅の地下から、Bellatorのベルトを回収したことを報告したアモソフ。ケヴィン・ロール記者から現状を問われたアモソフは、「今も地元のイルピンにいて、いろんなことが起きているとはいえ、とにかく僕は元気にしているよ。トレーニングに行こうとしていたらこのインタビューが鳴った」と、笑顔を見せた。  現在、アモソフは「テリトリー・ディフェンス」として、銃を持ち、周囲の防衛にあたっている。「ああいう状況の中にいることはものすごく辛いことだった。もはや誰もが慣れているというか、自分たちは銃撃戦とか、実弾射撃を経験して、何をどうしたらいいのか分からないっていうよりは、なんとなくどうしたらいいか分かっている感じになっている。とはいえ誰もが経験したことのない状況でもある」と、戸惑いを隠さない。  ロシアの侵攻が始まったとき、避難することは難しかったかと問われ、「戦争が始まった時に、僕がウクライナにいないという噂も出たけど、なんでそんな話になるのかさっぱり分からなかった。開戦の4日前に戻っていて、戦争が始まったときに、何よりもまず家族をできる限り早く逃さなくてはいけないと思って──その時は、試合の準備のためにキャンプを張るだとか、自分のファイターのキャリアを続けようとするなんて全く考えられてなくて──シンプルに自分の思いっていうのは、自分の家族の命を守り、状況を良くしようとすることだったんだ。……すまない、今ほかに何か言おうとしていたことがあったけど飛んでしまった」と、ただただ家族を守り、状況が悪化することを防ぎたかったと答えている。  その後、アモソフは家族をウクライナのセーフゾーンに避難させ、無事を確認しているという。  激戦地となったイルピンでは、オレクサンドル・マルクシン市長が2日、民間人290人の遺体が発見されたことを発表している。同時に現地からは、ロシア兵たちも指導部から捨て駒のように使われているという報道もあり、戦場が厳しい状況におかれていることが伝えられている。  アモソフは「ロシア軍がどれほどの都市諸々を爆撃し、全てをめちゃくちゃにして行ったかを見て来た」という。 「ロシア兵が去った後、地面には死体の山が広がっていた。一般市民が殺され、その死体が辺り一面を埋め尽くしていた。誰もそれを片付けることもなく、2、3週間そのまま放置された状態だった。攻撃する意志のない、普通の人、一般市民たちは、どこかに行くか隠れるのに必死で、爆撃用のシェルターでただ怯えていました。そして僕の隣町は、壊滅してしまった。とにかく生き延びるために何もかも置き去りにして逃げる人々を見てきました。我々は、グリーン・コリドー(緑の回廊)という、人々が逃げ込めて安全を確保できる場所の合意に至ったはずなのに、ロシア兵がそれをシャットダウンした。そしてシャットダウンするや否や、一般市民を攻撃し始めたんだ、逃げようとする人々を。そしてまた、死体の山を誰も片付けることも出来ず、2、3週間にわたり地面に広がることになった」  戦火のなかにあってアモソフは周囲の支援を感じ、奪還されたイルピンの町が少し落ち着きを取り戻したことを明かす。 「僕達にとっては、とにかく家族を守る、自分の故郷を守るということが何よりであって、ただそれだけを遂行している。それから、たくさんのボランティが支援に来てくれて、一般市民も自らの銃を取った。それにメディアを、SNSなどを通じて支援してくれる人もいる。戦いが始まるというときは、座して待つという状態だったというか、我々の輪の中にはほんとうに多くの人が混在していて、政治家だったり、退役軍人だったり、そうやって、どんな人がそこにいるのかということは、その時は全然問題じゃなくて、みんなが完全に等しくて、全ての人が、祖国を防衛するという意志のもとに備え、そして立ち上がったんだ。ウクライナ以外の国の人々も助けあっている。物資を送ってくれる人もいれば、食料を送ってくれる人もいる。自分たちにできる最善のことをみんなが尽くしてくれた。多くの人が支援してくれた。そして今は少しロシア兵がいなくなって、外もだいぶ落ち着いています」  ウクライナのファイターでは、ボクシングのヘビー級世界3団体統一王者のオレクサンドル・ウシクが、今年予定されているアンソニー・ジョシュア(英国)との対戦を前に、国外でトレーニングをすることを決めた。ウシクはNFTで資金を集め、母国の支援に活用する考えを示している。  アモソフは、「ウシクがここを出てトレーニングすることはいいことだと思う。しっかり試合の準備が整うことを祈ってる。ウクライナの人にとって、それは当たり前に受け入れられることだし、多くの人が、彼には戦場を離れてトレーニングに集中してほしいと思っていたと思う」と、王者の行動を支持する。  Bellatorロンドン大会では、自身が保持する王座の「暫定」のベルトがかけられ、新たな王者が誕生する。アモソフが再び、競技としてのMMAの戦いに戻れる日はいつになるか。 「僕はMMAの世界に居続けたいって思っているし、いつかその舞台にカムバックする。そして、自分こそがベルトの保有者であるということを証明します。ようやく再開したトレーニングは、リカバリーのような感じで、自分のシェイプをリカバーしたいなっていうことで、まだ軽くですがトレーニングを色々やっています」──2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻してから、2カ月3週間。アモソフはいまも、橋が落とされたイルピンで母国の防衛とトレーニングに励んでいる。
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