MMA
インタビュー

GP1回戦でBellator無敗のストッツと対戦する前王者アーチュレッタ(前篇)「互角の潰し合いだ。ガス欠させて音を上げさせたい」

2022/04/08 20:04
 2022年4月23日(日本時間24日)、米国ハワイ・ホノルルのニール・S・ブレイズデル・センターにて、『Bellator 279』が開催され、バンタム級ワールドGPが開幕する(日本ではU-NEXTにてライブ配信)。  堀口恭司も出場するGPの1回戦で、負傷欠場した現Bellator世界バンタム級王者セルジオ・ペティスの代わりに緊急参戦し、強豪ラフェオン・ストッツ(米国)と対戦するフアン・アーチュレッタ(米国)に単独インタビューを試みた。  スペインのバスク地方に由来するアーチュレッタを姓に持ち、鉄のレコンキスタドールがトレードマークの前Bellator世界バンタム級王者は、ペティスとの試合で起きていた異変、敗戦を経て、優勝候補の1人であるストッツとの試合に向かう気持ちを、実直な言葉で語ってくれた。  日本とヒスパニックの文化を「通じるものがある」というアーチュレッタは、難敵との試合を超えて、「決勝で堀口恭司と“聖地”さいたまスーパーアリーナで戦いたい」と、語った(※前・後篇)。 バンタム級GPにワイルドカードが組まれたことは歓迎している ──4月23日(日本時間24日)の『Bellator 279』ハワイ大会でバンタム級王者セルジオ・ペティス選手の欠場により、急遽、ハワイでラフェオン・ストッツ選手と対戦が決定したアーチュレッタ選手です。前戦は昨年5月のペティス戦。あの敗戦以降、ベルトを再び巻くためにも、試合が組まれることを首を長くして待ち続けていたと思いますし、そのためにハードな練習を続けていたと思います。 「そうだね、あの試合で負けて以来、ずっと戦いたいと言い続けて準備してきたのだけれど、チームのみんなには申し訳ないことに、彼らにとっては俺との練習をひたすら続けるだけという時期になってしまった」 ──ただ、昨年12月には8人トーナメントの出場者として発表こそされていましたが、初戦の対戦相手も時期も未発表でした。それが今こうしてこのトーナメントを離脱した王者ペティス選手の代わりに臨むこととなって、結果的に目の前の試合に向けての準備期間というのは非常に限られています。 「幸い、ひたすらトレーニングを積んでいる期間というのは、自分自身を丸ごと改造するようなものだったんだ。マネージャーのティキ・ゴーセン(※WEC、UFCに出場)とポール・ヘレーラ(※1996年2月の『UFC8』でゲーリー・グッドリッジと対戦)は、二人とも元選手だというのもあって、俺のスキルの精度を高めていくためにとてつもない時間を費やしてくれたから、いつでもやれるように準備してきたと言えるよ」 ──実際どんなトレーニングをしていましたか? 練習相手も盟友TJ・ディラショーに加え、ハファエル・ドスアンジョス、ブライアン・オルテガ、ランス・パーマー、カブ・スワンソンと、トップファイターたちですよね。どんなふうに彼らの力を借りてきたのでしょうか。 「今までやってきてることで言うと、特に自分が強化しているのが、こんな人間であり、こういうタイプのファイターである、という風に自分自身を完成させていくことなんだ。そうやってやるべきことを見定めてこの7カ月というもの、彼らコーチ達やパートナー達と自分とでお互いに心血注ぎあってひたむきに取り組んでこれた。 加えて、フィジカルトレーナーで栄養士もやってもらっているサム・カラヴィッタとなるべくピークのコンディションを維持できるようなトレーニングを続けていたんだよ。筋肉の付け方も、有酸素運動も、とにかく人が嫌がるような方法の練習を吐くほどやって、身体を根本から作り直すようにしていたんだ」 ──改造期間として考えれば十分なものだったわけですね。ところで、さきほどBellatorバンタム級ワールドGPの新たなワイルドカードが発表されました。9位のジョネル・ルゴ(米国・8勝0敗)選手と、ダニー・サバテーロ(11勝1敗)選手が対戦。さらに8位のジョシュ・ヒル(カナダ・21勝4敗)選手と、エンリケ・バルゾラ(ペルー・17勝5敗2分)選手が対戦します。このワイルドカードの中に注意を払うべき選手はいますか。特に2021年5月のBellator初戦でUFCで勝ち越していたブレット・ジョンズに判定勝ちしたサバテーロの実力をどう評価しますか? 「そうだね、自分と同じパデュー大学でのレスリング経験があるサバテーロは本当にいいレスラーだし、素晴らしいMMAファイターであることも言わずもがなだ。それに彼と対戦するルゴもBellatorのランカーだし、同じ階級でいい選手達を倒してきている。だからこのカードは素晴らしいマッチアップだと思ってる。すごくいい試合になるだろうから、どんな勝負になるのか、その結果としてどちらが勝ち上がってくるのか、自分としても観戦するのを楽しみにしている。  彼らには、その先にレアンドロ・イーゴが待ち構えているしね。それから反対のブロックについても、ジョシュ・ヒルはもちろん、UFCからやってきたニューカマーで、元チャンピオンのダリオン・コールドウェルを倒しているバルゾラもすごくいい選手だから、彼はこの階級も盛り上げてくれることになるだろうね(※勝者が6月24日のモヒガンサンアリーナ大会で準々決勝に進出。さらにヒル欠場でニキタ・ミハイロフがバルゾーラと対戦。勝者がマゴメド・マゴメドフと対戦する)。  要するに、自分としてはこのバンタム級グランプリにワイルドカードが組まれたことは歓迎しているというか、正直なところ8人トーナメントとして発表された時にちょっとガッカリしていたんだ。というのもやっぱり若い選手たちがこういったトーナメントに参加できてこそだと思っているから。だから、こうしてそれが実現したことですごく楽しみになったんだ。彼らはこのトーナメントの一員として名を刻まれ、バンタム級のトップ戦線に挑戦して爪痕を残す機会を得られたのだから」 ──バンタム級グランプリを盛り上げるという点で、強いて言えば注目するべきは全員ということですね。ファン目線に立つと、「おお、試合が2つ増えたじゃん!」と思って楽しみで仕方ないわけなのですが、未知数の相手と戦う可能性も浮上して、ある意味、よりハードとも言えますよね。 「うん。実際このトーナメントは、もちろん俺とストッツの試合ももちろんだし、新たに加わったワイルドカードも含めて、ファンにしてみたらどれをとっても見どころだらけだよね。選手にとっては『最高の格闘技とは何か?』ということが試されていて、見る者はそれを楽しむことができる」 ──ちなみにルゴvs.サバテーロの勝者はアーチュレッタ選手と準決勝で戦う可能性もあるかもしれませんが、その点で見てみるといかがですか? 「まあ自分の立場からすれば、めちゃくちゃ厄介な対戦相手を初戦に迎えることになってしまったから、そこだけに集中していないといけない。というのもラフェオン・ストッツはMMAファイターとしてものすごい試合巧者だと思うからね」 [nextpage] ナンバーワン・コンテンダーとして名乗りを上げていたストッツを倒すのは、ものすごく理にかなっている ──そのストッツ選手に『ゴング格闘技』本誌がインタビューした際、まだカードが決まる前の彼は「戦いたいのはランク1位のアーチュレッタだ。彼は誰と戦っても良い試合になる。常に全力で戦うから僕もやり甲斐がある」と仰っていたんです。その後、王者ペティス選手との試合が決定していたわけですが、期せずして両者が手を合わせることに。このタイトルもかかった初戦のマッチアップについては、どのように感じていますか? 「そうだな……そもそもペティスにベルトを奪われてからの俺は、タイトルマッチの再戦をすぐにやりたかったし、そのためにはどんなことでもするつもりだった。けれど、かねてからグランプリの話はあったしダイレクトリマッチとは行かなくて。それでも考え得るベストファイトは何かといったら俺とセルジオの再戦じゃないか? って、ずっと思っていたよ。グランプリの中で誰とやればいい試合になるっていう論点で言っても、俺にしてみればセルジオとなら最高の試合になると思っていたし、それを主張もしたんだ。  でも、負けた直後のそれは理にかなってないという風に跳ね返されてね。そうなったら誰がタイトルマッチの候補者なのか知りたいだろ? そうしたらラフィオンの名前が挙がったんだ。それは、彼は試合ですごくいい勝ち方をしていて唯一レコードも記録している(Bellator5戦無敗・MMA17勝1敗)選手なんだから、彼こそタイトルマッチにふさわしい、ということだった。そんなわけで残念ながら自分は彼の後に追いやられたしまったという気分だったんだ。で、セルジオが負傷するっていう思いもよらない形でタイトルマッチのチャンスが巡ってきた。この文脈で言えば、俺にとってベルトのナンバーワン・コンテンダーとして名乗りを上げていた相手を倒すのはものすごく理にかなっているだろ。だからセルジオvs.ストッツ以外となった時に、ベルトをかけた試合でこれ以上ふさわしい組み合わせはないってことだよ。すごくワクワクしてる」 ──そのナンバーワン・コンテンダーであるストッツについて、先ほど「厄介な、試合巧者である」と仰っていましたね。 「彼は間違いなく危険な相手だ。勝ち方を知っているし、何より戦い方をよく知っている。まあ、ただ、この初戦に関しては、なんていうかスタイルのぶつかり合いというのかな。それが楽しみなんだ。彼は図らずもホリグチ(堀口恭司)と同じように怪我が原因で前王者となったセルジオ・ペティスの同門だから。それにしてもホリグチに続いてまた負傷をきっかけにベルト返上という事態に及んでいるわけで、しかも俺はそれに端を発したベルトを懸けて、再びそのベルトを獲るために戦うという……。  まあなんともユニークなポジションにいると思うんだよ。これを言い換えると、トーナメントを勝ち進んで自分がバンタム級世界グランプリトーナメント勝者となるということがまずあって、さらに一戦一戦を勝利することでチャンピオンであることを証明し続けることができる、という側面もあるわけだ」 ──何ともタフな状況です。いま仰ったその側面についてどのようなモチベーションかをお伺いできますか。つまりトーナメントを勝ち進めてトップになるという目標設定がまずあって、さらにチャンピオンベルトの懸かった試合ですから、それを獲得し、さらにその先はトーナメント一戦ごとに防衛し続けるという使命が同時に生じるわけですよね。 「まあもちろんベルトを獲得するために努力をするのは当然のこととして常に捉えているのだけれども、トーナメントの最終目標として100万ドルの賞金を獲得するということを今の自分は目標に設定しているんだ。そのために一戦一戦を勝利しなくてはならないのだ、と。  それよりも先にあるものを見ようとしてしまうと目の前の対戦相手に対する焦点がすこしぼやけてしまって集中を欠くことになるだろうから。ラフェオン・ストッツは先を見越していられるような生やさしい対戦相手ではないからね。そして俺は試合のたびに世界最高のバンタム級ファイターの一人であることを証明して、出場選手たちをなぎ倒し、世界の頂点に立つのさ」 [nextpage] ペティス戦は、右側の武器が全部使い物にならないまま試合をやり遂げなきゃならなかった ──ストッツとの大一番に向かう。その前に、ペティス選手との前戦についても振り返っていただければと思います。あの試合の課題をどうとらえて、練習で取り組んできましたか? 「ずっとね、実はいまだに、“なぜ自分は負けたのか”について分析し続けている状態だよ。MMAの試合だから、自分のほうが彼よりもMMAを実践していた、つまり総合的な戦い方をできていた、と思っているんだ。どの局面においても彼の方に自分が支配されたとは思わないし、彼がいかにしてあの試合に勝つことができたかというのはまだ頭を悩ませているんだ。  今の時代、ジャッジがどこを採点してるのか、もう理解できないな、ってなってしまったから、いくつかコースを受講したりして、理解しようとした。MMAをやるには、文字通り総合的な格闘技じゃなきゃいけない、何かひとつの格闘技でも、特化されたひとつの技でもダメだし、単純に“俺がチャンピオンだ”じゃ済まされないんだ。ただ、正直ペティスは、俺からベルトを奪い去っていいほどのことなんて十分にはやってないと思う。自分はもっと動いて押していたし、あの試合については本当に頭を悩ませた。もしかしたらさ、もっとつまらない試合で、他の選手がやるみたいに大人しくしてなきゃいけなかったのかなって思わされたよ」 ──実際、勝敗を分けたポイントについてはご自身としてはまだ解き明かすべき要素があるのだとして、今にして思えば、やろうとしていたが実行できなかったことなど、何かありましたか? 5Rの最後まで動き続けたアーチュレッタ選手でしたが、ペティス選手にテイクダウンを防御され、倒してもスクランブルに持ち込まれていたように思いますが。 「そうだな……彼は序盤がすごく良かったんだけど、というのも俺の蹴りがブロックされた時、彼のスネで蹴り足が折れてしまっていて、さらにそのすぐ後に右の拳を放った時に親指も折れてしまってた。要は、右側の武器が全部使い物にならないまま試合をやり遂げなきゃならなくなっていたんだ。だから、後ろ足でプッシュしたりっていうのはものすごいキツかった。  でも彼は俺の武器を取り上げたって言う意味ですごくいい仕事をしたと思うよ。道具が足りない中で試合をしなきゃいけなかった。だからこれからは足も拳も放つ際にはより賢く使うということ、試合中にそれらが使えなくなってプランが遂行できない、なんてことはないようにしないとね」 [nextpage] ストッツとは互いのレスリングで相殺される ──なんと、そんな厳しい状況になっていたのですね。今回の試合に向けての話に戻りますが、対戦相手のストッツ選手はアーチュレッタ選手と同様、強力なレスリングバックグラウンドを誇りますが、彼のレスリング能力についての評価は? 「不思議なもので当事者になってしまうと、何て言うか、ゲームプランをいくらでも組み立てられるのに、対戦相手がどれほど強いのかとか、実際どれくらいレスリングが巧いのかや、どれくらい良い選手なのか、っていうようなことはよく分からなくなっていくっていうのがあるんだけど(苦笑)。  何か言えることがあるとすると、俺は彼と同じように、ずっとレスリングで育ってきたから、自分としては、彼のレスリングがどれほどのものか、それは自分よりも優れているのか? ってことを試合を通して知れることについては興味深いし、勝つために俺はさらなる自分の格闘技っていうものを、つまりレスリングだけじゃなくて柔術だったり、打撃だったり、それ以外も含めて武器を磨いていかなければいけないだろうと思って準備している」 ──レスリング以外が肝になるということですが、ストッツ選手は、デビュー5戦目ではウィリアム・ジョプリンを見事な左ハイでKOし、8戦目はUFCヴェテランのロブ・エマソン相手に打撃でも互角以上に渡り合って完勝していて、立ち技でも大きな安定感を見せています。打撃面での相性はどのように考えていますか? 「そうだね、相性ということではないんだけど、この試合はお互いにレスリングのバックボーンが最もあるから、その部分で相殺することになると思うんだよ。ということは、それ以外の格闘技を上手く使うことで、勝利を掴み取ることがすごい重要になってくる。  多分、ラウンドを通して非常に互角の戦いになっていくんじゃないかなと思ってる。聞いてくれたようにスタンドでの打ち合いっていうのはもちろんなんだけれど、それだけじゃなくて、柔術だったりも含めてMMAとしてのあらゆる要素においてなんだよね。だからこそ素晴らしい試合になるだろうね。こう、いちいち互いの良さを潰し合う感じになると思うんだ」 ──アーチュレッタ選手に関して言うと、豊富な運動量からスイッチするステップや強いテイクダウンが武器だと思うのですが、最近はアウトボクシングが多く、テイクダウンが少し減っているように感じます。その部分についてご自身ではどう考えていますか? 「ああ、実際のところ、その通りだよ。レスリングでは相殺される可能性があるなか、さっきも言ったけど今、ティキを始めとするトレーナーとは、より多くのファイターにアウトボクシングで打ち勝っていけるようにもっともっと完成度を上げる練習に特化しているんだ。それから、パンチとキックをより危険で、致命傷を与えられるようなものに仕上げていくことに取り組んでいる。磨いてきた新しい技術を試合で活かせるのをすごく楽しみにしているから、何が起きるか、見ていてくれよ」 ──楽しみにしています! ちなみにどんなプランで臨みますか? 「さっき話したように互角の潰し合いだからね。ガス欠させていってそのまま音を上げさせたいなって思ってる」(※後篇に続く)
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