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【RIZIN】1日2試合の死闘、扇久保博正を優勝に導いたパートナーの言葉「16年間やってきた自分を裏切らないで」

2022/01/04 20:01
 2021年12月31日(金)さいたまスーパーアリーナで開催された『Yogibo presents RIZIN.33』にて、「RIZINバンタム級(61.0kg)JAPANグランプリ準決勝&決勝」が行われ、準決勝で井上直樹、決勝で朝倉海を、ともに判定で破った扇久保博正(パラエストラ松戸)が優勝を果たした。  2021年6月から開幕した16人参加の「RIZINバンタム級JAPANグランプリ」の勝ち上がり4選手は、大晦日までの半年で、満身創痍の状態だった。  この日、準優勝の朝倉海は右拳を負傷。準決勝で扇久保と戦った井上も試合中に「薬指が外れ」、朝倉と戦った瀧澤も顎を負傷(※全治2カ月)した。  そして1日2試合、5分6Rを戦い抜いた扇久保は、3日に「おぎちゃんねる」を更新。過酷なGPの優勝を可能にした集中力について、婚約したパートナー京香さんからの言葉があったことを明かした。  試合前にこの2021年を「痛」と漢字一文字で表していた扇久保。1回戦の右手の骨折、11月の出稽古中の肋骨骨折もあり、「試合前からいろいろと思うことはあったんですけど、最終的にはこの大晦日で最後になってもいいと思っていたので、いい意味で開き直れた」と振り返った。 井上戦の「自分の距離」は「俺の蹴りの距離」だった  準決勝の相手は、元UFCで優勝候補の井上直樹。扇久保は、この井上戦だけに集中していたという。 「正直、決勝のことは考えてなかった。準決勝の井上直樹戦にフォーカスして、死んでもいいから勝つ。インターバル含めて17分間戦って、最終的には、どんな劣勢になっても、ダウンしたとしても、俺が失神しなければ俺が絶対に勝つと決めていたんで。仮に負けるとしたら俺が失神して意識飛ばされて気付いたら負けていたというときだけと覚悟していた」  序盤に、井上のカーフキックでバランスを崩したが、「カーフは正直効きました。あれ一発で足払い的にスッ転んで。でも表情には出さずにいた」という。  身長、リーチともに井上が勝るなか、扇久保は「研究して、井上選手の長いパンチは速くて素晴らしいけど、絶対伸びて来ないと思っていました。堀口選手みたいに股関節を伸ばして上体起こして、自分のリーチ以上に伸びてくる打撃ではないだろうなと。公開練習で『自分の距離で戦う』と言ったのは、もう一歩踏み込む距離ではなく、一歩引いた距離、俺の『蹴りの距離』で戦うように設定していたので、パンチは見えていて、当てられてもいい打点では当たってなかった」と、距離設定で、空手出身の扇久保の得意技であるオーソからの前足のジャブを含めた蹴りの間合いで立ち会うことを決めていたという。 息づかいが荒く足の力が弱くなっている、ここでスクランブルだ  序盤に、井上からテイクダウンを仕掛けられたことや下になったのは想定外だったという。 「ディープハーフからのスイープも出来ず、そのときのヒジが2発くらい効いたけど、落ち着いていた。一本取られる気はなかった。(井上は)滅茶苦茶、ヒジ打ちも力んでいて、バックを取られたときの息づかいでスタミナ切れている感じがして、凌げば2R以降、チャンスが来るなと」と感じていたという。  2Rも下になり、バックを取られた扇久保だが、井上得意の左腕のチョークを警戒し、「1R目より息遣いが荒く、(差し込んできた)足の力が弱くなっているなと感じ、ここでスクランブルだと思った」  バックを取られても腰をずらして正対、あるいは動きの際で立ち上がる、その“スクランブル”がいまなら出来ると踏んだ扇久保は、ポジションを入れ替えることに成功する。 「汗をかいていない状況やフルパワーがあるときに仕掛けると、元谷友貴選手も渡部修斗選手もそうで、変な角度で喉に入ってもがっちり極まってしまう。だから時を待って、スクランブルを仕掛けたとき、相手の反応も遅れていて、これは行ける、と思ってそっからは得意のハーフで削っていった。肩固めのときも前日夜に松根良太さんに聞いていたやり方で一本取れると思ってました」  井上にとっては、またも過去のUFCでのマット・シュネル戦やショーン・サンテラ戦と同じように、「寝技巧者」でもあることで、相手に付き合う形に。序盤から扇久保のテイクダウン狙いをパワーを使って切り、マウントも取った。「圧倒して勝つ」ことを掲げていたからか、そして持ち前の気の強さが、井上のスタミナを削る形になった。  扇久保は「あそこまで寝技で仕留めようとしてきてくれるとは思わなかった」という。 「ここまで寝技につきあってくれるんであれば行けるなと。1Rは取られた、2Rは取った、3Rはきっと井上選手が寝技に来ないから自分から攻めよう」とタックルに自ら入った。「3R目の寝技に行く前、しつこくテイクダウンに行って、最後、差しで倒せたのが分岐点。井上選手がかなり疲れていたのもありますけど、あの動き、久しぶりにやったなって。それにがぶってバックは滅茶苦茶練習していて自信がありました」 “塩漬け”と揶揄される扇久保の寝技だが、覚悟を決めて、強打者相手にテイクダウンを奪う姿に、満員のさいたまスーパーアリーナの観衆は拍手で後押しをした。  その鬼気迫るワンテイクダウン、スクランブルでの攻防をファンも勝負を決める大事な動きだと理解しての拍手だった。 「スクランブルで上を取った瞬間の歓声も聞こえていましたね。3R目に俺のパンチも当たり始めて。これは行けるなと」と確信した扇久保。  判定は3-0で準決勝を勝利した。 [nextpage] 俺は朝倉海にリベンジしたいのに、なんで今日なんだ 「井上選手に勝つことだけを考えてたから、嬉しかった。UFC、見たか、この野郎って(笑)」と、喜びを爆発させたが、その先の決勝に向かう気力は無かったという。  準決勝の14時半頃から決勝の22時半頃まで、控え室では、痛みだらけの身体と弱気になる心との葛藤の時間を繰り返していた。 「1回、燃え尽きた。もうスイッチ切れていて。ホテルに戻って寝たかった。“博正、これやんの? もう一回、やんの?”って思っていた(苦笑)。井上戦は出し尽くした試合で、たんこぶも出来て頭も痛いし、カーフも効かされていたんで、もう1試合は無理だ、しかも朝倉海と」  朝倉海v.瀧澤謙太は「お互いにアウトボクシングに見えて、これは俺の方がダメージがデカいな。これは不利な試合になるな、と。もっと瀧澤、削れよって怒ってました」と、もうひとつの準決勝を振り返る。  決勝用にと、決めていた冷水シャワーでのリカバリーやフルーツを食べても気持ちは戻っていなかった。 「これは朝倉海選手もそうだと思いますが、ただ、1試合目のリカバリーをするだけでなく、身体も気持ちも4時間くらいかけてもう一度作るのは、とんでもないこと。すごく辛かった。  7時間くらいは弱気の自分との戦い。井上選手にも勝った、準優勝でも賞金が出るし、いいんじゃない、という(苦笑)。身体は動きたくないから、その気持ちが何度も出る。“俺は朝倉海にリベンジしたいのに、なんで今日なんだ。こんなに身体が痛いのに、もっと万全な状態でやりたい”って。でもダメだ。“心を燃やせ”って煉獄さん(鬼滅の刃)のこととか思い出して。1年半前に朝倉海に負けた。前回と同じ弱気の自分を出すのかと。この一生に一度の舞台で。いや出さない、と。相手も同じ状況だと。あっちも1試合やっていて万全じゃない、五分五分なんだ。ここで弱い気持ちで戦ったら後悔する。絶対に戦うんだと集中した」 「もう2度とワンデーの2試合はやらない」と葛藤するなかで、決勝に向けてスイッチが入ったのは、パートナーである京香さんの言葉だったという。 [nextpage] 試合前にいつも京香さんが手紙をくれる、そこに── 「弱気な自分が出たりして、“もうボロボロだし、15分間、続くのか、そうだ、あいつ打たれ弱いし、また思いっ切り振ってKO出来るんじゃないか”と(前戦のように)そういう(楽な試合をする)思いが出て来たときに、京香さんからの手紙に『16年間やってきた自分を裏切らないで』って書いてあって……それを見たときに“去年の8月、俺は自分のことを裏切ったよな”って、思い出して……、たしかに身体も痛いけど、絶対に今日は、自分を裏切らないことはできるんじゃないかなと思って。だったら、そういう戦い方をしようって思ったときにスイッチがスッと変わって。俺は16年間やってきた戦い方をするんだって。俺がやってきた戦いって何だ。去年はああいう戦い方をして負けたことを思い出して、ひたすらやってきたことは、相手をテイクダウンして、テイクダウン出来なくても削って、最終的には勝つことをやってきたんじゃないかって考えて」、扇久保は、2度目のリングに向かうことが出来たという。 「リング上で向かいったときも、自分を裏切らない、逃げない、ビビった自分を二度と出さない。ただ朝倉海だけを見ていました。15分間、俺をぶつけるぞと思っていました。去年会った俺は俺じゃないよって」  再び覚悟を決めた扇久保は朝倉海といかに戦ったか。“MMAなら負けない”16年選手の決勝の想いは、おぎちゃんねるで聞くことができる。
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