2020年12月11日(金)「ONE:BIG BANG 2」(シンガポール・インドアスタジアム)が、世界に配信される。
メインで内藤大樹(日本)が、元ONEフライ級ムエタイ世界王者のジョナサン・ハガティー(英国)と対戦する同大会の第4試合で、山田哲也(日本)が強豪キム・ジェウォン(韓国)と対戦する。
ZSTで連勝し「スーパー高校生」と呼ばれ、18歳で戦極に参戦していた山田は、アジアを主戦場にONEに参戦。現在フェザー級4位につけている。
タイのタイガームエタイでの練習から、コロナ禍を経て、日本に帰国。1年半ぶりの復帰戦に向けて、山田はどんな時間を過ごしてきたのか。シンガポールで隔離していた12月第1週にインタビューした。
「やられまくる」刺激が欲しくて柔術衣を着て練習をしてきました
──シンガポール現地での隔離期間の練習はどのように行っているのでしょうか。
「チーム毎に予約した時間で区切られていて、マットスペースを使っています。最大1日2回まで練習が可能です」
──以前はプーケットのタイガー・ムエタイで練習していたかと思いますが、日本に帰国したのはいつでしたか。
「日本に帰国したのは4月くらいですね。コロナでの緊急事態宣言が出されるギリギリ前でした。ビサ無しで短期間の渡泰でしたので、帰れなくなる前に帰ろうと。
──では、今回の試合に向けては日本で練習されていたということですね。
「はい。試合が無かった期間は、10月の最初まで実家がある岩手県で過ごしていました。先が見えなかったですし、コロナ禍のこともあり、知り合いの会社で少し働いたり、身体を動かすときは一人でやっていました」
──MMAの練習が出来たのはいつ頃からどちらで行ってきたのでしょうか。
「試合が決まって……10月の初めくらいですかね。群馬県のインファイト・ジャパンで練習をしてきました」
──インファイトといえば柔術の強豪チームですよね。
「はい。日系ブラジリアンが9割という強豪チームで、すごくいい練習が出来ました。MMAでも、DEEPに出ている大山釼呑助選手とか、若い子も結構いますので、一緒に練習をしてきました」
──東京ではなく、群馬のインファイトで練習をすることを選んだのは?
「試合間隔がものすごく空いた(2019年5月のマラット・ガフロフ戦以来)ので、何というか……自分にとって大きな刺激になるような、ほんとうやられまくるような練習をして、(格闘技の)感覚を取り戻すようなところが良かったですね」
──山田選手が「やられまくる」というのがあまり想像できないのですが、その練習は……。
「ギ(柔術衣)を着た練習をあまりやっていなかったので、そういう知らないテクニックでぐちゃぐちゃにされました」
──えっ、MMAの試合前にわざわざ柔術衣を着た練習を望んだのですか。
「そうですね。ノーギだとそこそこやれるのは分かっていたので、あえてその、やられまくるように衣を着てやりました。余計な力が入ってしまうので、身体力が向上したように思います」
──いったん格闘技から離れたことで「やられまくる」感覚が必要だったと。
「余計な力を使うことは、いことではないのかもしれませんが、逆にそれが自分にとってはプラスに働いたように思います」
──なるほど。どんな選手と練習してきたのですか。
「代表がヘナート・シウバ先生なんですが、とても親切でテクニックなども出し惜しみ無く教えていただきましたし、本当に良くしていただきました。黒帯は10人以上いますし、柔術衣のほかにも、自分のために黒帯トップ選手のボブソン・タンノさんがノーギ(柔術衣無し)でも練習してくれて、かなりいい練習になりました」
──打撃パートは出稽古などもされたのでしょうか。
「それに関しては、太田市にタイ人4人でやっているポン・ムエタイ・ジムがあって、そこに週3回から4回、行かせていただいていました」
──そこもやはり「ムエタイ」なんですね。
「そうですね。練習に行っていたムエタイジムのポーン・センモラコット先生は、OPBFやWBCで世界タイトルマッチを3度経験していますし、ラジャとルンピニーで1位でした。元ルンピニーフライ級王者のトュー・タイレック先生、ボクシングのWBCやIBFで16歳で世界王者になったワンディー・シンワンチャー先生もいて、凄い実績を持っていました。タイガームエタイとあまり変わらない環境でやれたと思います」
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ダゲスタン人との練習が怖すぎて、試合が前ほど怖くなくなりました(笑)
──凄いトレーナー陣ですね。タイガームエタイといい日本でも在日外国人たちと練習するのは、山田選手の独特なスタイルに結び付いているようにも感じます。そして、今回、対戦相手が韓国のキム・ジェウォンと聞いたときには、どう感じましたか。
「うーん、これは厳しい試合にはなるなと思いました。あまり得意なタイプじゃないんですよね。彼のことは」
──それはどういったところでしょうか。
「キツい場面になってもどんどん前に出て、プレッシャーをかけてくる気持ちの強さです。それに対する体力と気持ちを作らないといけないなと思ってきました」
──その気持ちと体力は作れましたか。
「もうバッチリです。試合間隔が1年半空いてしまったので、少し不安もありますが楽しみの方が勝っています。スタミナとパワーの強化に重点を置いてきたので、後半になっても攻め続けられる体力がついたと思います」
──確かにあの圧力は脅威ですが、オーソドックス構えのジェウォンに対し、サウスポー構えの山田選手は相性が悪くないようにも感じます。
「結構、綺麗なボクシングをやってきますよね。気持ちも強いですが、足を止めての打ち合いは一切やるつもりはありませんが、そこは相手に分があると思います。ただ、攻撃の選択肢は自分のほうが多いと思います。自分の距離で戦おうと思っています」
──どこで優位に立たなくてはならならないと考えていますか。
「最初からプレッシャーをかけてくるのは想定済みなので、過度に恐れ過ぎずにしっかり組んでグラップリングで圧倒するつもりです。弱みは組み技の面にあると思っています。自分は1つ上の階級での経験も豊富なので、やはり組み技とパワーは相手より確実に上です」
──2018年6月に山田選手が巧みな寝技とヒジ打ちで2Rドクターストップに追い込んだハファエル・ヌネスと、ジェウォンも2019年11月に戦っています。テイクダウンディフェンスとスクランブルで強さを見せたうえで、3Rにボディへのパンチとヒザ蹴りで勝利しました。あの試合をどうとらえていますか
「それでもハファエル・ヌネスにジェウォンは何回かバックを取られかけていたんですよね。自分なら確実にバックを取って極めれると思いました」
──おおっ、それこそインファイトでの成果が出そうですね。山田選手は前戦では、元王者のマラット・ガフロフを相手に、ヒザ蹴りを当てながらも下から仕掛ける時間が長かったと思うのですが、その辺りは今回どのように考えていますか。
「ガフロフ戦は調整ミスで力が入らず、全然動けなかったです。それで下から攻めることを選択しました。今回はとても順調で、当日は相手より一回りくらい相手より大きいと思いますし、組んだときのフィジカルや体格に差があると思うので、しっかり組んでテイクダウンして攻めていきます」
──下になってしまったら?
「相手はすぐに立つと思いますが、相手が立たなければスイープやサブミッションを積極的に仕掛けていきます」
──ONEフェザー級3位の松嶋こよみ選手がジェウォンに3R TKO勝ちしているので、4位の山田選手との試合内容で比べられることもあると思います。その中でどう戦っていこうと考えていますか?
「チャンピオンを目指す上で、ギリギリ勝つような試合内容では話にならないので、しっかりと差を見せてフィニッシュすることが大事です」
──ところで、4月までいたタイガームエタイには、どんな経緯で練習することになったのでしょうか。
「タイガームエタイは、もともと海外の大きなジムで練習してみたいと思っていて、そこでトライアウトの募集に応募して、実際にトライアウトを受けて契約選手になってから4年になります。設備やトレーナーの数も多く、1つのジムで全て練習ができて全体的なレベルアップができました」
──タイガームエタイには、ダゲスタンの選手も多いですよね。ピョートル・ヤンやラファエル・フィジエフ、アサラナリエフ……彼らと練習をともにすることは、どんな部分が山田選手にとってよかったのでしょうか。
「外国人選手、とくにロシアやダゲスタンの選手はプレッシャーが全然、違うんです。ああいう人たちとやると、練習が怖すぎて試合が前ほど怖くなくなりました(笑)」
──練習の方が怖い……。先日、ビクター・ヘンリーに勝ったデニス・ラヴレンティエフもタイガームエタイに出稽古に行ってましたね。
「ああー来てましたね。レスリングが無茶苦茶強かったです。彼らはゴリゴリなんです。何か……遠慮が無いと言いますか、練習相手が怪我してもしょうがないくらいのノリでやっているので、怪我人もすごく多くて(苦笑)。僕は細かい怪我がありましたけど重症はなくて。とにかく緊張感を持って練習をするので、練習も試合のテンションで出来ていたかと思います」
──なるほど。山田選手にとって、ONEで勝つこと、格闘技を続けることにどんなモチベーションを持って取り組んでいますか。
「ランキングに入っている以上、一つひとつ勝ち続けてチャンピオンになることが、今のモチベーションです。それしか考えていないです」
──日本で練習してきた人たちに何かメッセージはありますか。
「1カ月の間でしたが、自分はこんなに人に親切にされたのは初めてでした。たくさんのサポートや励ましの言葉をくれてありがとうございます。しっかりと今回の試合に勝って、またインファイトジャパンやポンに練習にいきます」
──最後にファンにメッセージを。
「1年半くらい試合をしてなかったんですけど、結構、忘れちゃっているファンの方もいると思うんですけど、『こんなに強い選手がいるんだ』と、皆さんが思うようなインパクトのある試合をしたいと思います。必ず一本取って勝ちます。ぜひご覧になってください!」