2020年12月4日(金)シンガポール・インドアスタジアムにて「ONE:BING BANG」が開催される。コ・メインである第5試合のフェザー級戦で、ランキング2位の松嶋こよみ(パンクラスイズム横浜)に挑む、MMA5連勝中の5位ゲイリー・トノン(米国)のインタビューが主催者より届いた。
新型コロナウイルスの影響について、トノンは「試合に向けての練習ではない時は、集中の度合いが全く違うからその影響もあった。その反面、全てのスキルを磨く事ができた。1人の対戦相手に対しての戦略にこだわることなく、技を習得するために時間を自由に使えたことは貴重だった」と、対戦相手を想定せずに、MMAのスキルアップができたと語っている。同時に「かなりストレスもあった。練習環境のことや、練習相手となかなか会うことが出来なかったり、練習時間の調整などもかなり難しかった」と吐露もしている。
米国ニューヨークのヘンゾ・グレイシーアカデミーでジョン・ダナハーコーチとともにレッグロックシステムを磨いてきたトノン。
拠点とするニューヨークは、深刻なパンデミックの影響下にあり、ダナハーは11月末に、練習環境の改善と今後の選手たちの生活とキャリアのためにビッグアップルからプエルトリコへの移住を発表している。すでに、クレイグ・ジョーンズ、ゴードン&ニッキー・ライアン、イーサン・クレリンステンらがプエルトリコ入りを果たしており、トノンも追随するされている。
そんな中、シンガポール入りしたトノンは「Evolve MMA」とも連携し、現地での隔離生活を経て、松島こよみという上位ランカーを相手にいかに戦うか。同階級で戦う高橋遼伍(KRAZY BEE)と中原由貴(マッハ道場)による試合予想とともに、トノンの言葉を紹介したい。
トノン「青木真也とのMMでも今なら勝てるチャンスはある」
──シンガポールに到着してからの調子はいかがですか。
「いい感じだよ。(新型コロナウィルス対策など)色んなことをしなくてはならなかったのは、ストレスだったし、大変だったけど、ここに来ることが出来て、戻ってくることが出来て嬉しいね」
──松嶋こよみ選手との試合に向け、今回、誰とどんな練習をして来ましたか。
「基本的には、ジョン・ダナハーが僕のMMA(総合格闘技)の指導をしてくれた。ストライキング、グラップリングからレスリングまで全体を見てくれたよ。その他にもボクシング、キックボクシングなどを練習してきた。全てMMAに適応できるようにしているけど、その中で、柔術だけは今まで通り練習している。どうやってパンチやキックなどの打撃をするか、というよりもそれらのスキルをMMAにどう適応させるか、ということを鍛えて来た。ボクサー、キックボクサーになるように練習するのではなく、MMAファイターに向けての練習であり、最初から持っていたスキルを上手く活かせる事を意識している。既に持っている柔術、グラップリングのスキルに加えて、実際にMMAの試合で使えるようにそれぞれを練習して来たよ。
ジョンは常に融合というアイデアを推し進めてきた。トレーニングの初日から追求してきたこと。そのアイデアはこうだ。自分は柔術のスキルは持っているが、“MMAには柔術は存在しない”──純粋な柔術のあり方、という意味でだ。違うことなんだ。だから、柔術と他のスキルを融合させて、より良いファイターになろうとしてきたよ」
──新型コロナウイルスのパンデミックはファイターとしてのキャリアにどんな影響がありましたか。
「まあ、みんな共通して影響を受けたと思う。それでもトレーニングはするし、自分のスキルは磨かれて良くなって来ている。試合に向けての練習が無ければ、やはり練習での集中の度合いが全く違うから、その影響もあったね。その反面、こういうオフの時期もあることで、自分の全てのスキルを磨く事ができた。1人の対戦相手に対しての戦略にこだわることなく、技を習得するために時間を自由に使えたことは貴重だったよ。同時にかなりストレスもあった。練習環境のことや、練習相手となかなか会うことが出来なかったり、練習時間の調整などもかなり難しかった。とは言え、自分の成長には満足しているよ」
──タン・リー選手がフェザー級タイトルマッチでマーティン・ニューイェン選手に勝利したことについて、どう感じていますか。
「タン・リーの勝利には驚かなかったよ。むしろそれを期待していた。圧勝になるとは思っていなかったけど、マーティンより彼の打撃の方が上で、より鋭いと思っていたんだ。試合はその通りの展開になり、両選手が行ったり来たりしていた感じだったね。自分にとって、そのうち対戦する選手たちだと思うし、両選手が試されていた試合であり、2人の弱点も明らかだった。おかげで2人と戦う自信は前より強くなっているよ」
──これまでのMMAキャリアで松嶋選手との対戦は最大の挑戦と言えますか?
「勝ち続けている限り、試合のレベルが上がっていくのは当然だ。だから今回は一番の挑戦だと思うし、また異なった挑戦だとも思うよ。前回の相手(中原由貴)もタフなチャレンジだった。なぜなら、相手は柔道のバックグラウンドがあって、ボクシングスタイルも持っていたから。そして今回の相手、松嶋で言えば、レスリングのバックグラウンド、そして打撃は空手スタイルだよね。だから前回とは扱い方がかなり違うし、脅威も異なる。MMAに移行している柔術家としての僕のチャレンジは、タフなレスラーに対してどう適応するかが問題だ。例えばテイクダウンを狙い、止められたらどうするか、どう寝技でコントロールするか、極めに行ったらどうフィニッシュするか、といったことさ」
──MMA5戦無敗でここまできました。MMAを始めた時からどのくらい進化して、最大の変化はなんでしょうか。
「ここ数年、どれだけ進化したのかは、数字でなかなか言えない。キャリア3年ぐらいしか経っていないので、停滞することはしばらくないし、MMAを始めて5年間は進歩し続けることが保証できる。何でも始めてから5年間は必ず成長し続けるものさ。完璧じゃなくても、続けている以上、強くなっていく。これは自分の階級の他の選手にも伝えたいことさ。タイトルマッチに近づけば、近づくほど強くなっていくから、今のうちは試合した方がいい、ということ。
僕の改善率はますます高くなっていき、それをキープしたい。前に進めばそのうち停滞してしまい、技術を習得しづらくなったり、自分が既にできる技を磨いていくだけになることはある。僕にとっては柔術がそういう感じだ。だから、毎回の練習においてどんなことを革新できるのか、どこまで自分の実力を進化させるかがタスクになっている。正直、前の自分と比べてどう上手くなっているかは言えないけど、強くなっているのは確かさ」
──MMAの試合が無かったこの期間もサブミッション・グラップリングの試合に参戦し続けていたと思いますが、これからもグラップリングに出続けるのか、そのうちMMAだけに集中するのでしょうか。
「自分は初めからMMAに集中したかった。グラップリングマッチは、MMAの試合がない時に時間を埋めるためさ。優先しているのはMMAで、グラップリングはその次。グラップリングを優先するとしたら、とんでも無い条件があった場合だけさ。例えば、(ハビブ)ヌルマゴメドフが相手だったら、とかかな」
──松嶋選手のストロングポイントをどうとらえていますか。
「松嶋のスタイルは研究してきたよ。彼は面白いスタイルを持ち、他の選手にはあまりない、空手とレスリングの組み合わせだ。この組み合わせは難しいよね。なぜなら、片方は距離を取らなければならなくて、そしてもう片方のスタイルは、その距離を縮めければいけないから。このスキルのミックスはとてもユニークだと思うよ。
その2つのスタイルは互いに補完し合い、例えばレスリングの距離感を測るのを誤ったら、空手の距離感で適応できる。しかし、彼は不思議ながら、最初から距離をとり、そこから爆発的なテイクダウンを狙ってくる。僕はそのやり方はしないけど、彼はこれまでの試合で成功してきたようだ。
かつてタイトルホルダー(ニューイェン)と戦って、かなりいいところまで行った相手(松嶋)だ。彼はフィニッシュされたが接戦だった。マーティンはある時点で苦戦していたように思う。彼(松嶋)がやったことを注意して見た。キックを蹴りまくって出入りする。距離をとって戦い、前に出て行ってテイクダウンを狙う。反応が早く、いいテイクダウンを持っている。こうしたことは全部気を付けるつもりだ。脅威だとは言いたくないが、解決すべき問題だろう。
僕の得意技は極め技で、誰が相手でも極められる。現時点では、自分のグラップリング力は世界最高レベルだと思うし、ライバルと言える者はいない。それは松嶋にとっては弱点だろう。その反面、彼は距離を正確にとる事が強みで、個人的に見たことのない面白いスタイルだと思っているよ」
──過去に青木真也選手を相手に、グラップリングマッチで一本勝ちを収めました。もし彼とMMAの試合があればどのような展開になると思いますか。また、一度は試合してみたいと思いますか。
「もちろんさ。そのマッチアップはとても楽しみにしている。まずは、自分の階級でベルトを取ることに集中しているから、世界王者になってから、そういう試合にチャレンジしたい気持ちはある。青木真也次第ではあるけどね。ONEでその試合が実現したら、自分の中で最もタフな試合になると思う。でも、それを否定する人も多いと思う。“グラップリングだから、どうせまた(トノンが)極める”と思っている人もいるだろう。もしかしたらその展開になるかもしれないけど、彼のコントロールと圧力、そしてMMAルールでの打撃を加えたら、僕にとってはかなり難しいのではないかと思うね。MMAを始めたばかりの頃は、青木真也との対戦には自信はあまりなかったけど、今なら勝てるチャンスはある。いずれにしても彼はトリッキーな選手だ」
──フェザー級のトップコンテンダーを全員研究していると聞きました。自分以外は、誰が最も優秀なグラップラーだと思いますか。
「ONEの中で誰かを選ぶとしたら(マラット)ガフロフだけど、よりレスラー系だよね。マーティンもグラップリングを上手く統合している。クリスチャン・リーもフェザー級としてとても上手い。サブミッションと言うよりかは、MMAの面でこの選手たちはとても強いと思う」
──松嶋戦の話に戻りますが、TKOかサブミッションのどちらで勝つ予定ですか。
「正直、どっちもいいと思うよ。TKOは時間も必要だしダメージを与えないといけない、そしてもう一つのサブミッションは自分に有利なポジションを取れるかが問題だ。今まではどちらかに限って勝ってきたけど、どちらでも自信はある。サブミッションの方が楽かもしれないけど、そうでない可能性もあるから、まあ両方ということで頑張るよ」
【動画】シンガポールでの隔離生活でレンジが使用できずお湯で肉を温めるトノン
高橋遼伍「戦術を遂行出来る方が勝つ」
「松嶋選手は身体能力が高く、試合の組み立ての引き出しも多いと思います。ゲイリー・トノン選手は、寝技の技術は世界最高レベルです、バックポジションを取ればどんな強い選手にも極めて勝ちうる可能性のある選手だと思います。
武器が全く異なるファイター同士なので、戦術を遂行出来る選手が勝つと思います、松嶋選手はストライキング、トノン選手はグラップリングをしたい。(勝者は)松嶋選手と予想しています。寝技でバックポジションを取られてしまうと厳しいと思いますが、そのポジションを取るまでが困難で、松嶋選手はレスリングも打撃も強いので、トノン選手がグラウンドポジションに持ち込むのは難しいと思います。打撃で松嶋選手が優勢に試合を進めるような気がします」
中原由貴「松嶋選手をちゃんと研究しているなら、慎重になるのはトノンの方」
「松嶋選手は、打撃・組みともにアグレッシブに戦うファイター。攻撃し続けるイメージがあります。対するゲイリー・トノン選手は、打撃ははっきり言って未知です。当然MMAの戦績的に打撃は始めたばかりなので、伸びしろの面を考慮すると、この1年半がどんな影響を与えたか気になります。寝技はちょっとレベルが違いますね。
試合が動き出したら、かなりハイペースな展開で進むと思います。立ちの展開も多くなりそうな気がします。松嶋選手の破壊力、パンチ・蹴りをちゃんと研究しているなら、慎重になるのはトノンの方かなと思います。松嶋選手がペースを乱せたら(前回の)ジェウォン戦のような展開になると思います。キッチリ捕まえるとトノンのペースになるかなと。
(勝敗については)純粋に興味があります。予想してしまうと、試合を観るときに肩入れしちゃうというか視線が偏っちゃうので、純粋に試合を楽しみたいです。どっちが勝ってもおかしくない、そんな試合です」