2020年9月12日(日本時間13日)米国ネバダ州ラスベガス「UFC APEX」にて、「UFC Fight Night: Waterson vs. Hill」が無観客&ライブ配信で開催され、ライト級でアラン・パトリック(ブラジル)を判定3-0(30-27×3)で破り、UFC3連勝を飾ったボビー・グリーン(米国)が、レスリング選手の死刑を執行したイランの対応に抗議した。
このコロナ禍、2020年6月からの4カ月で3試合となるハイペースを戦い抜いたグリーン。6月にクレイ・グイダに判定勝ち、8月にはランド・バンナータとの再戦でダウンを奪いファイト・オブ・ザ・ナイトを受賞する完勝。そして、この日も得意のボディロックからのテイクダウンを決めるレスリングの強さを見せて、15勝2敗の強豪を下した。
「誰かが、抗議活動をしたために命を奪われるなんて」
試合後、カメラの前でマイケル・ビスピンの勝利者インタビューを受けたグリーンは、「今夜は最悪の日だ」と語った。
同日イランでは、2018年に起きた反政府デモの際に警備員を刺殺したとして死刑判決を受けたレスリング選手ナビド・アフカリ氏の刑が執行されたことが報道されていた。
ロイターによると、家族や活動家はアフカリ氏は拷問を受けて虚偽の自白をしたと主張。弁護人も有罪の証拠はないと話していたが、イランの司法当局はアフカリ氏側の訴えを否定し、刑が執行されたとされる。アムネスティインターナショナルは、アフカリ氏が犯罪を自白するために拷問を受けており、無実であるとの声明を出していた。
グリーンは、「自分が勝ったことで励みになればと、と思ってた。そうしたら処刑されたって知った。彼のために力になれると思ったのに亡くなったなんて……傷ついた。誰かが、抗議活動をしたために命を奪われるなんて。俺はもうめちゃくちゃだ。このことは本当に俺の心を吹き飛ばした。もうこれ以上、話せない。ごめんなさい」と語り、カメラを離れた。
アフカリ氏の死刑判決に対しては、UFCのダナ・ホワイト代表も公式に批判。トランプ米大統領や、IOC、世界の主要プロスポーツ選手の組織である世界選手協会などが刑の執行停止を求めていた。また、刑の執行に、世界レスリング連盟(UWW)は「レスリング・コミュニティー全体で彼の死を悼みます」との哀悼の声明をウェブサイトに掲載している。
養護施設で生まれたグリーンは、ブラック・ライヴズ・マターの運動にも参加。UFCのインタビューに「俺は誰に対しても肌の色で判断したりしない。大事なのは人間性だ。俺たちは愛し合うためにここにいる。憎悪で憎悪を倒すことはできない。憎悪を倒すのは愛だ。だから、みんな争いをやめてくれ。そんなことをしても憎しみは無くならない」と訴えていた。
米国カリフォルニア州ダスティンサクストンのフォンタナ統一学区にあるABミラー高校でレスリングを学び、フォンタナ、カリフォルニア州の大会で2度入賞経験のあるグリーン。大学進学はできず、プロファイターになる前は「倉庫で作業をしていた」という。
ニック&ネイト・ディアズ兄弟との交流もあり、2008年にプロデビューし、KOTC時代には、後のRIZINファイターであるチャールズ・ベネット、ダロン・クルックシャンクにも勝利し、2013年にオクタゴンデビュー。「俺にとってUFCは、自分の夢をかなえることができる場所」とコロナ禍のなかもハードトレーニングを絶やすことはなかった。
新型コロナウイルスの影響で、ラスベガスで無観客で行われた今大会で、ホドリゴ・バルガスの負傷により、わずか10日前に代役出場を受けた上での判定勝利でグリーンは、MMA戦績を27勝10敗1分とした。