2020年8月23日(日)東京・ニューピアホールにて、『skyticket Presents DEEP 96 IMPACT』が開催され、メインイベントで「DEEPストロー級(52.2kg)タイトルマッチ」として、王者・越智晴雄(パラエストラ愛媛)と、挑戦者・川原波輝(Team Alpha male)が対戦した。
2019年3月の前戦「DEEP 88 IMAPACT」では、挑戦者・川原が右ストレートで王者・越智からダウンを奪うなど、ストロー級王座まであと一歩という場面を作りながら、リカバリーした越智が強みであるテイクダウンを決めて反撃。川原をドミネートして王座防衛に成功している。
1年5カ月ぶりの再戦に向けて、挑戦者の川原は、米国チームアルファメールで石原夜叉坊とキャンプを組み、自身の足りない部分を強化。さらに身体能力を高めるなど、コロナ禍のなかでも王座奪取に向け、濃密な時間を過ごしてきた。
伝統派空手ベースの打撃に加え、強いテイクダウンデフェンスとケージレスリングの成長。最後は、組み技強者の越智から2R4分43秒、リアネイキドチョークで一本を獲って、悲願のベルトを手にした。
「世界を獲る」という川原に、勝敗を決めたもの、試合中のセコンドの夜叉坊とのアクシデント、そして今後について聞いた。
越智選手は真っすぐな人。不器用に戦えるのが強みというのも分かっていました
──DEEPストロー級のベルトを巻きました。率直な感想からお願いします。
「ひと安心ですね。安心感が強いです。勝てると思ってやってきたし、この1年半で成長したっていうのは感じていて、事前の取材で言ったのも全部事実で、ただ、今日というこの瞬間はやってみないと分からんことやし、やってみた結果、その思っていた通りと言うか……コレ、確信ですよ。すごい自信が爆発したんですよね、いま。いける、世界で絶対やっていけるって。世界、獲れるっていう気持ちですね」
──試合展開をどうとらえていますか。
「(越智が)ああやってくることは分かっていたし、『スタミナとパワーで勝負する』って言っていて、ホンマ、言っていた通りのことをやってきたッスね。ほんとう、真っすぐな人です。あの人は心の部分がそういう人やから、真っすぐ、不器用に戦える選手。そこが強みというのも分かっていました。でもそこでやられんようには練習はしてきたから。それを試合前にどんだけ口で言ったところで、実際、試合でやってみて証明しないと分からんところやったから、前日『はっきり証明します』と言って証明できたし」
──フィニッシュは越智選手のアゴの上から絞めて、スラムされても、相手の生命線だった手首のクラッチを切って、チョークを極めました。
「あの人、一本負け・KO負けは無いですよね。でも、一本で仕留めれたってデカくないですか。『打撃の選手』って言われていたのに。僕は寝技、出来るんですよ。隠してただけで、これまであんまりそういう展開にならんかったし、そうなっても寝技で取れる自信もあったから。それは日本の選手は誰も分からんことですよ。僕はアメリカ(チームアルファメール)でそれを磨いてきたから。一本で取れたことは練習通りですよね」
──相手がしてくることは分かっていたなかで、予想以外のことはありましたか。スタンドでの打撃とか。
「打ち合ってはいないですからね。向こうはあくまでテイクダウン取るための打撃で。前回と変わらないですよね。一応、『イチ』で当てにくるという感覚。真っすぐを『イチ』で振って、(相手を)のけぞらせたところをタックルっていう展開の作り方は分かっていたんで、そのままでしたね。ただ、テイクダウン取られたけど、別に取られてもいいと思ってましたね。そこからの展開はパスされるか、バック取ってきたりとか、いろいろ展開はあったけど、僕はそれをさせへん練習を、柴田“MONKEY”(有哉)選手と──僕とMONKEY、2人とも負けてますからね、越智選手に(笑)。そら、もう材料、いっぱいあるっスよね。それに真っすぐな人だから、それしかせえへんというのも分かっていました」
──テイクダウンをされても足を越えさせずにヒジを突き、立ち際にギロチンを狙ってくることも想定していたように見えました。
「はい。もちろん、ギロチンを誘った部分もあったし、ギロチン取らせる動きで上を取ってバックに回った部分もあったし、本当に練習通りでまったく疲れなかったです。向こうはゼーゼー言いだしてたから。もう全然、余裕でした」
──試合展開は余裕だったのに、試合の途中でセコンドの石原夜叉坊選手が注意を受けて(マスクを外してアドバイス)試合が中断したときは、集中力が切れたりしませんでしたか。
「あのー……毎日、アイツと居るんスよ。で、予想通りですよね(苦笑)。そういうことは日常茶飯事であるんで“コイツ、マジで気が触れてるやろ”って。『マスク、せえよ』って言ったやん。もう(イエロー)カード出えへんかっただけありがたい。もう“コイツ、はよ着けろや”って思いながら、で、次、ズラしてたでしょ?(苦笑) でも、彼も必死だから。セコンドで。でもそれがルールである以上、(マスクを)しないといけないですけど、別に集中、切れるとかはないです。それが彼の良さなんですよ。だから、彼を試合中、見守るのも僕の仕事。戦ってるけど、それが日常であるから、別に集中切れるとかはなくて、その間も一緒に戦っているから」
──ああ、なるほど。夜叉坊選手とは米国のチームアルファメールでも一緒でしたね。夜叉坊選手は、今回の試合後、駆け寄ったのは失神した越智選手のもとでした。
「……去年、自分が負けた後に、越智選手のもとに挨拶に行ったんですよね。『必ずリヴェンジします』って言って。今回は自分が勝ったんです、勝った方から挨拶に行くっていうのは、あんまり僕は出来なくて、でも(越智が)来てくれて、何か感慨深かったですよね。1年半、ほんとうに感謝の気持ちでいっぱいです。昨日の試合前にも言った通り、ほんとうに心から感謝してる。あの人のおかげで強くなれたし、ほんとうに悔しかった。だから、ありがとうという思いしかないですよね、越智さんには」
──1年半かけてリヴェンジするために強化してきた。ただ、これがもしかしたら究極の“対越智スペシャル”だとしたら、対世界を考えたときに底上げされているという手応えもありますか。
「もちろんですよ。あの人は強い。あの人が猿田(洋佑)、(内藤)のび太(9月10日『ROAD to ONE 3rd』で対戦)とやってもどうなるか分からんと思うけど、僕も負ける気、しないですね。猿田にものび太にも。機会さえ与えてもらえれば。でもいろんなことがあるからなかなか出来ないことは多い。さっさとやらせてくれよって。52kgで世界を獲って、DEEPでも戦って、俺、世界にDEEPの名前を広めるから。RIZINも59kg(征矢貴戦)は強いヤツとやるためのチャレンジだったから。RIZINもいい選手は居るんスよ。今日、俺は証明できたと思うし、あとは(周囲が)どう判断してくれるか、ですよね……ここまでビッグマウス・大口叩いて、いろんな人がいろんなことを思ったと思うんですよ。心から応援してくれる人もいれば、“なんだアイツ、憎たらしい負けろ”って言う人もいっぱいおったと思うんスよ。僕自身もあんだけ吐いたから退かれへん気持ちあるし、プレッシャーも多少はあったっスね。でもプレッシャーはあったけど、それは心から出た言葉だったから」
──ご両親にも感謝していましたね。
「オカン、オトンに感謝ですよ……。僕、『これ(格闘技)一本でやる』って言って実家に住んでいて、日本じゃこれ一本で生活出来ないっスよ。スポンサーがいてようやく練習出来てる状態で。そのスポンサーも『宣伝せえ』とは言わないスポンサーで。そんな中でオカンとかも飯を玄米にしてくれて、食事の勉強から始めてくれて。そんなん、ほんとうにありがたかったですね……。勝って、コレ(肩のベルトを叩いて)見せるしかないって。泣いてたっスね、おかん。去年、負けて泣いて、今日勝って泣いてたっスね(笑)」
──最高の親孝行じゃないですか。
「いえいえ、まだこれからですけど、感謝の気持ちでいっぱいです」