MMA
インタビュー

【追記あり】日本人がUFCのベルトを巻く日のために──6.27 佐藤天 & 8.22 魅津希がオクタゴン出陣

2020/06/25 23:06
 いまUFCでは、2人の日本人選手が戦っている。  1人はウェルター級の佐藤天(ハードノックス365/TRIBE TOKYO M.M.A)。もう1人は女子ストロー級の魅津希(SERRA LONGO FIGHT TEAM)だ。  佐藤はUFC1勝1敗。2020年6月27日(日本時間28日・日曜)米国ネヴァダ州ラスベガス「UFC APEX」にて開催される『UFCファイトナイト・ラスベガス 4』で、米国のラミズ・ブラヒメジと対戦する。  そして、8月22日には、魅津希のUFC2戦目も決定。前回は緊急オファーを受け、一階級上であるフライ級で中国のウー・ヤナンに勝利したが、今回は本来のストロー級でブラジルのアマンダ・レモスと対戦する(※追記 8月22日大会に佐藤天の出場も決定。米国のダニエル・ロドリゲスと対戦)。  佐藤・魅津希ともに、コロナ禍の厳しい状況のなか、米国を拠点に試合機会を探って来た。両選手をマネージメントしているOn The Road Managementのシュウ・ヒラタ氏に、その軌跡を聞いた。(※追記 佐藤天と対戦予定だった米国のラミズ・ブラヒメジのセコンドが新型コロナウィルスの検査で2度に渡り陽性と診断されたため、ブラヒメジも出場不可能に。佐藤の対戦相手は同じく米国のジェイソン・ウイット(17勝5敗)に変更された。ウイットの詳細は下記にて) ──6月27日(日本時間28日・日曜)米国ネヴァダ州ラスベガス「UFC APEX」にて開催される『UFCファイトナイト・ラスベガス 4』に佐藤天(ハードノックス365/TRIBE TOKYO M.M.A)選手が出場し、ラミズ・ブラヒメジ(米国)と対戦します。そして、8月22日には、魅津希(SERRA LONGO FIGHT TEAM)選手のUFC2戦目も決定しました。  いまUFCに出場している2人の日本人の両選手をマネージメントしているのが、On The Road Managementのシュウ・ヒラタさんです。そんなシュウさんに、佐藤選手と魅津希のUFCでの試合が決まるまでの経緯をお聞きします。  このコロナ禍のなか、UFCは米国で、まずは5月9日に無観客大会が許可されたフロリダ州のジャクソンビル・ヴィアスター・ベテランズ・メモリアル・アリーナにて「無観客」で大会を再開。「UFC249」から3大会をフロリダで行い、5月30日からラスベガスのUFC本社に隣接する「UFC APEX」に場所を移し、「UFC250」を含む4大会を実施してきました。そして、今回の6.27大会を最後にラスベガスをいったん離れ、7月11日の「UFC251」からはアブダビ・ヤス島の「ファイトアイランド」で大会を開催します。  そのラスベガス大会に、佐藤天選手が出場するまでに紆余曲折があったようですね。 「前回のニュージーランドでの試合(2月22日にマキ・ピトロとの対戦が決定もピトロが体重超過で中止。その後ピロトは6.6「UFC250」でチャールズ・バードにTKO勝ち)が飛んだ時に、『数週間後の大会で試合を組める』と言われていたんですが、中途半端な準備期間で試合をしたくなかったですし、しっかりとファイトキャンプをしてから試合をしたいという陣営の考えがありました。  さらに、佐藤選手はニュージーランドでの試合に向けたファイトキャンプの最中に父親が他界したのですが、『日本に帰らずに試合に向けて練習するように』とのお父様の言葉もあり、帰国せずに練習に取り組んでいました。だから、ニュージーランドから一度日本に戻らないといけない、という理由で『数週間後の大会』を断ったんです。ただ、ニュージーランドでの試合が飛んだのは佐藤選手のせいじゃないんだから、彼が希望する6月に試合を組むという確約を取りつけたんです。  それ以来、毎週のようにショーン・シェルビー(マッチメーカー)とやりとりをしてきたんですが、大会が延期になったりして、フロリダで再開されるまでショーンも確実なマッチメーキングに動けなかったという事もあり、なかなか試合が決まらなかったんです。それでも佐藤選手には『6月に試合という約束は守ってもらうから、そのつもりで準備をするように』と話しながら、毎週のようにやりとりして、やっと6月12日大会の出場のオファーをもらいました。  でもそれは試合の10日前の出場要請で、相手はダニエル・ロドリゲス(MMA12勝1敗、UFC2連勝中。2月にティム・ミーンズに一本勝ち、5月にゲイブ・グリーンに判定勝ち)が提示されたんですが、佐藤選手的には6月27日大会の方が良かったので、これを受けるか否か悩んだ末、『これしかないのなら受ける』という決断を下したんです。  しかし、ダニエルは5月30日に試合したばかりだから無理ではないか? と思い、ロドリゲスのコーチとマネジメントに確認したら、『とても試合が出来る状態ではない』と確認が取れ、こちらからショーンに連絡して、『ダニエルは無理だから、やっぱり6月27日で試合を組んで欲しい』と話したんです。  その時点ではアブダビのファイトアイランドの大会が6月27日からの予定だったので、『フロリダにいるサトウはアメリカの大会に出したい』という事で、次は『6月12日にフィリップ・ロウでどうか?』と連絡がUFCから来ました。これも『それしかないのなら、仕方ないけど受ける』と言ったんですが、このロウがのらりくらりと1週間近く答えを出さずに待たせた挙句、断ってきたんです。  この時点で、ファイトアイランドがアブダビになるという情報を掴んだので、『アブダビなら日本人の就労ビザは簡単に取れるだから、ファイトアイランドでの試合でもいいんじゃないか?』とUFCに言ったんですが、ファイトアイランドでの大会が7月11日から開始になったので、それなら当初から望んだ6月27日大会で、という事で再度プッシュしました。それで『6月27日でティム・ミーンズ戦でどうか?』と打診されたのでこれも受けたんですけど、結局、ミーンズも『準備が間に合わない』という理由で断ってきたんです。  いまはコロナの影響で練習が出来ていない選手が多く、『もうウェルター級の選手がいないから、キャッチウェイトでライト級の選手にオファーする手はあるけどどうする?』と提案されたんですが、佐藤選手はキャッチウェイトでの試合は考えていなかったので、それならコンテンダーズに入れる予定のウェルター級選手から選べばいいのでは? と提案して、ラミズ・ブラヒメジに決定しました」 (※追記 佐藤天と対戦予定だった米国のラミズ・ブラヒメジのセコンドが新型コロナウィルスの検査で2度に渡り陽性と診断されたため、ブラヒメジも出場不可能に。佐藤の対戦相手は同じく米国のジェイソン・ウイット(17勝5敗)に変更された。  ウイットはLFAで2勝、Bellatorでは現LFAファイターのジャスティン・パターソンにTKO負けも、現在4連勝中で今回がUFCデビュー戦となる。Titan FC時代には、UFCで五味隆典に判定負けしたアイザック・ヴァリーフラッグに反則勝ちの記録も持つ。基本はオーソドックス構えだがスイッチしての左も強く、“ヴァニラ・ゴリラ”の異名を持つ力強さからダブルレッグテイクダウンを決めるなど、パワーが際立つ。サウスポー構えの佐藤にとっては、スタンドの長い距離で制したい相手だ。4度目の対戦相手変更に佐藤は「とても良い経験させてもらってます!笑笑 」とツイートしている) 【写真】6月23日にラスベガスに入り、検温とPCR検査後「陰性」の結果を得て「UFC Performance Institute」で過ごす佐藤天。 ──ブラヒメジは2019年3月にLFAで勝利して以来の試合になりますが、すでに「ダナ・ホワイト・チューズデーナイト・コンテンダー・シリーズ」(DWTNCS)に出場が決まっていたのですね。MMA8勝2敗、前戦で肩固めで勝利し、その前の勝利もギロチンチョーク、ほかにもリアネイキドチョーク、キムラと一本勝ちのフィニッシュが多い選手です。 「6月にコンテンダーシリーズに出場することが決まっていたようです。多くの試合でフィニッシュしていますし、2週間前からラスベガス入りもしているそうなので、コンディションも良さそうです」 ──佐藤選手は、基本的にフロリダのサンフォードMMAで練習を続けていたのですよね。 「UFCが再開できたようにフロリダは結構アバウトで、ジムを使って練習できなかったのは正味1カ月ぐらいなんです。その間もコーチがファイターズハウスにきて指導してましたし、ファイターズハウスには他にも選手が住んでるので、屋外でマススパーリングやミットとかが出来ていました。ジムが一般公開する前からプロ選手はジムで練習していたので、佐藤選手は5月は練習をちゃんとできていたんです」 ──なるほど。しかし、この試合までにそこまでの二転三転があったとは、佐藤選手が気持ちを切らさず試合にたどり着くのが大変だったと想像できます。そんなさなか、8月22日にもう1人の日本人UFCファイターの魅津希選手の試合も決まりました。魅津希選手はシュウさん夫妻の自宅があるニューヨーク在住ですから、また状況が異なりそうですね。 「ニューヨークはフロリダとは大違いで、ロックダウン以降、ジムも全部閉まり、開けたら2,000ドル(約21万円)の罰金を課すルールもあったので、ほぼ丸々2カ月ジムには行けなかったんです。ですから魅津希選手はその間、うちの庭にマットを敷いて動いたり、バイクを漕いだり、ビリーブートキャンプなどをしていたのですが……ニューヨークはまだその時期は寒かったり、雨が降ったりなどなかなか練習を定期的に行えない状態が続いていたんです。少し暖かくなってからは、チームメイトと公園で練習したりしてたんですけど。  3月の試合(テーシャ・トーレス戦)が飛んだのに、UFCは一銭も払う気が無いみたいですし、このままではマズいと思ってました。それで、5月の初めに『6月にティーシャと対戦でどう?』と話は来たんですけど、練習が出来ていないから断って、こう考えたんです。 (大会)再開を待ってからの練習開始だと、下手したら、前回の試合から、1年以上間隔が空いてしまうのでマズい。まずレイ・ロンゴにこう相談しました。私はあそこのチームにいる若手選手たちをフィーダーショーにブッキングしていますから、『魅津希選手とチームの若手数人を8月の大会で試合を組むようにしますから、このグループだけで週に2回は練習させよう』と。  ニューヨークはPCR検査と抗体検査について、色んな施設で誰でも無料で受けられますから、毎週でも検査して、その限られた数人で練習をやればいい、とレイを説得して、週2回、チームメイトと練習を開始したのが5月の第2週目でした。魅津希選手以外の若手選手たちも全員、私が8月のCFFCで試合を決めたので、いまはそのグループで練習しています。  それでも週2回では試合が出来る状態にはならないので、マンハッタンにジムがあるネスター(佐々木憂流迦、井上直樹も指導するムエタイコーチ)を説得して、週3回、魅津希選手のためだけにジムを開けてもらってマンツーマンで練習を開始しました。まずはフィジカルやミットで調子を戻し、6月から週に1回は、他のチームの選手2人を呼んでスパーリングも始めました。  ネスターはレイのチームとは関係が無いので、もちろん、それなりのエキストラフィーともし罰金を食らったら、それはこちらが支払うという約束にしています。ちなみに、このエキストラのフィーと罰金に関しては、スポンサーを説得して出してもらう手配にしました。もちろんネスターも週1で参加するスパーリング相手も、みんなPCR検査と抗体検査を毎週受けてもらっています」 ──試合のみならず、試合に悔いなく臨めるような練習環境を作ることもマネージメントの仕事なのですね。いまUFCで戦う、たった2人の日本人選手をマネージメントすることのやりがいを教えてください。 「私はどのスポーツでも、世界最高峰のメジャーは1つだと思っています。アマチュアスポーツなら五輪か世界選手権、サッカーならワールドカップ、野球ならMLB、フットボールならNFLのように、MMAならUFCが唯一の“メジャー”だと思っています。  中にはベラトールと併せて2大メジャーとか、ONEも加えて3大メジャーというメディアもありますが、売り上げ、利益、選手層、ファイトマネー、世界市場での知名度などを考えたら、二大とか三大メジャーという考えはナンセンスだと思ってます。それは、五輪や世界選手権の金メダルが、ヨーロッパ選手権とかアジア選手権の金メダルより価値が無いなんてことはあり得ない、というのと同じ感覚です。  だからこそ、私はUFCで日本人チャンピオンが見たいんです。魅津希選手の日本での師匠の白心会道場の山口(定則)会長が「MMAの世界では、UFCで勝つことに全ての説得力がある」と言っていましたが、私もその通りだと思っています。UFCチャンピオンになれば文句無し、何一つ理論武装する必要もない『世界一』です。私は、日本人がいつかあのUFCのベルトを巻く時が来ると思っていますので、その為のサポート、参考になる前例を少しでも残せれば、と思ってやっています」 ──世界最高峰の舞台での日本人選手の活躍と、日本人UFC世界王者が誕生することを楽しみにしています。まずは今週末、6月27日(日本時間28日)の佐藤選手の戦いに期待しています!
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