MMA
インタビュー

【ONE】デメトリアス・ジョンソン、練習方法と食事、心構えを語る

2020/06/17 02:06
【ONE】デメトリアス・ジョンソン、練習方法と食事、心構えを語る

協力(C)ONE Championship

 ONE Championship世界フライ級グランプリ王者、“DJ”ことデメトリアス・ジョンソン(米国)は、ハードワークとスマートワークを組み合わせることで、MMAのトップに君臨してきた。

 DJは努力家で、それが彼を史上最高の格闘家の1人にした理由だ。だが彼はまた「適切なバランス」を取ることが、長く続ける秘訣だと知っている。

 米国MMAの“レジェンド”ジョンソンにとって、それは次の試合に向けたトレーニングをすること、1年を通して健康を維持すること、そして最も重要なこととして、父親と夫としての役割を果たすことである。

 今回はジョンソンが、トレーニング・キャンプでの典型的な火曜日のメニューを紹介しながら、トップに上り詰めたいと願うアスリートに向けてアドバイスを送る。

家族第一

 

 トレーニング・キャンプが始まる時、ジョンソンはすぐに全力で取り掛かる。

「試合の約6週間前の火曜日は最もきつい。午前8時頃に起きて、まず妻と子どもたちのために朝食を用意する。僕はいつも、卵2つと卵白だけもう1つ分、それにターキーソーセージみたいなたんぱく質と、炭水化物。ブラウンシュガーとシナモンが少し入っているグルテンフリーのオートミールが好きで、栄養的にもいい」

 みんなが食事を終えて準備が整うと、ジョンソンは次の仕事に取り掛かる。

「子どもたちは通常、午前9時までに学校に着かないといけないので、子どもたちを学校に送り、それからその日の最初のトレーニングに行く」

朝の有酸素運動

 33歳のジョンソンの最初のセッションは、午前9時半頃に地元のプールで泳ぐこと。

 スイミングはDJにとって、全身の有酸素運動ができる、負荷の少ない方法だ。

「水泳で朝の有酸素運動を始めるのが好きなんだ。血液と酸素を体や筋肉に行きわたらせることができる。以前は5分のラウンドを5回やっていたけど、肩の負担が非常に大きいから、今ではだいたい3回にしている。1回目と3回目は普通の平泳ぎ。2回目はインターバル。その後に最大酸素摂取量を鍛えるために潜水をして終えるんだ」

燃料補給

 泳いだ後は、ジョンソンは栄養補給と残りの仕事のために家に向かう。

「セッションが終わった後の2番目の食事はリンゴとピーナッツバター。それから、家に帰った時に摂る3度目の食事はたんぱく質、炭水化物、それに野菜。通常は、サーモンにホウレンソウのソテー、玄米にする」

 そして、今度は父親としての務めだ。

「子ども1人を迎えに行く。次のセッションに移る前に少しの間、一緒に遊べる」

 2つ目のセッションでは、車で1時間かけてMMAジムである「AMCパンクレイション」に行き、2時間の激しいトレーニングを受ける。

「午後4時半頃にジムに着いて、みんなに挨拶する。そしてウォームアップしてギアを入れる。セッションが始まる前にスナックとして、グラノーラバーを食べる。5時にトレーニングを始めて7時までやるから、2時間の集中したセッションだね」

 火曜日のメニューは立ち技だ。

「火曜日はムエタイのスパーリングの日だ。体が温まってから7ラウンドやる。5分を5ラウンド、その後に3分を2ラウンドだ」

「そこからすぐに縄跳びをして、それからテクニックのトレーニングを1時間やる。新しいテクニックを学び、練習して、正しいポジションでできるようにする」

1日の終わり

 2時間の激しいトレーニングが終わると、再び1時間かけて自宅に戻る。そしてようやく、妻のデスティニーと過ごす時間だ。

「全部が終わって、シャワーを浴びて、その日の最後の食事をする。通常はサーモン、サツマイモ、青菜のようなものを食べる。そして、妻とソファーで過ごす時間だ。10時半から11時頃に就寝して、再び練習を繰り返す準備をする!」

自分の状況に適したトレーニング

 DJはプロのMMAファイターとして13年、34試合を経験している。最も重要なアドバイスは、自分の身体とコーチの声に耳を傾けること。そして自分の状況に適したトレーニングをすることだ。

 1日にもっと多くのことをこなすアスリートもいるかもしれないが、ジョンソンのやり方が結果としてもたらしたものには反論できないし、彼は長年にわたって素晴らしい身体の状態を保ってきた。

「非常に高いレベルでのトレーニングや試合に関しては、それが適切な量かどうかは決して分からない。僕は自分が十分だと思うことをやるだけで、変更を加える必要があるかどうかをコーチが決める」

「一生懸命トレーニングして、翌日に気分が悪い時があったら、内容を変えて別のことをしてもいい。僕にとっては、それは“日々の一貫性を保つ”こと。身体を酷使してしまい、長くキャリアを続けられないアスリートもいる」

健康で幸せに

 もちろん、激しいトレーニングと忙しい家庭生活、さらにはYouTubeの公式チャンネル「Mighty Gaming」など他のプロジェクトとのバランスを取るのは難しい。だがDJは、健康でケガのない体を維持するために、いくつかの提案をしている。

「(米フィットネス系ブランドの)Onnitのサプリメントを使っている。グルタミン、植物性タンパク質、ビタミンD、MCTオイル(中鎖脂肪酸)を摂取している。朝と夜のグルタミンは筋肉と腸の健康をサポートし、次のセッションのために燃料補給するのに役立つ」

「ビタミンDは、摂取した栄養素を腸が吸収するのを助ける。MCTオイルは、僕はコーヒーが得意ではないから、朝に摂取したいクリーンなエネルギーのようなものさ。丸1日活動し続けて神経が昂っているかもしれないから、リラックスさせるために『New Mood』というサプリメントも使っている」

「大人になったDJへ」

 DJは、2019年の日本大会前に「かつての自分を思い出し、もしあの頃の自分に話をすることができたら何をアドバイスするか」について、以下のように記している。世界の頂点に立つMMAファイターの哲学が見えてくるはずだ。

「親愛なるDJへ

覚えてほしいのは、この言葉だ。「Punch in, punch out(打って入り、打って出ろ)」。

打撃の「パンチ」の話じゃない。トレーニングを必死に頑張っているのはわかっている。自分が話しているのは、9時に出勤(Punch in)して5時に退勤(Punch out)する1日8時間労働のスケジュールのことだ。それを受け入れるんだ。

そうだ。受け入れるんだ。1日8時間働くことが君のスタンダードになり、そこから世界チャンピオンへの道が開かれるのだから。それが君にとっての現実だ。そのおかげで自分を見失わずにいられる。

アスリートとしての暮らしは楽じゃない。格闘技界で生きていくには困難がつきものだ。だから、1日8時間の他の仕事と同じように考える。出勤し、トレーニングをし、退勤し、シャワーを浴びる。また同じことを繰り返す。それで完璧だ。

母さんと55番のバスに乗ったことを覚えているだろうか。「レッドロブスター」と「スポーツオーソリティ」を通り過ぎて、新しいクリート靴を買うためだけに遠出をした。裕福な家庭ではなかったが、母さんは9時から5時まで必死に働いて家族を養い、格闘家になりたいという夢を支えてくれた。

母さんの仕事に対するクレイジーな生真面目さを、君は受け継いでいる。義父は軍人で、彼の家で彼のルールの下で暮らす羽目になったけれど、それは君を強くした。運動はいつだって得意だったはずだ。君はもう世界チャンピオンになる下準備ができている。

今はまだ、将来の全貌は見えないだろう。それでいい。ただ、覚えておいてほしい。今は1日8時間しっかり働くんだ。自分がそうしたいからじゃない、そうしないといけないからだ。夢を追いかけて仕事を辞めないでほしい。少なくとも、今はまだ。格闘技は夢じゃない。自分の能力と人格すべてを試される、身を削るような単調な日々の連続だ。

今、目の前のやるべきことに集中するんだ。きっと驚くことになる。毎日8時間働き続けることが、君が想像もしなかった場所へと連れて行ってくれるだろう。良い時も悪い時もある。悪い時は、自分を強く保つ必要がある。

「レッドロブスター」のシェフの仕事も、そう悪いものじゃない。信じてほしい。新鮮なズワイガニよりも素敵な出会いがすぐに訪れる。君はそこで恋に落ち、母さんと義父の厳しい教育方針が役に立つ日もそう遠くないだろう…きっとね。

リサイクル現場や建設現場での仕事は、辛いトレーニングや競争のストレスを発散させてくれる。

1日8時間の労働を続ければ、誰でも疲れてくる。君も同じだ。でも、心配する必要はない。AMC Pankrationで共にトレーニングする仲間たちが、「普通」の感覚を変えてくれる。君はそこで居場所を見つけるだろう。

みんな、クールな奴らだ。警官だったり、オフィスで働いていたり、普通の仕事を持って君と同じように9時から5時のスケジュールを毎日こなそうとしている。彼らとのトレーニングは、地に足をつけ集中力を養う助けとなる。人生は、プロの格闘技の試合に出てそこで勝利を収めることよりも、ずっと大きなものだ。それに、どちらにせよ、君はその両方ともたくさん経験することになる。

そのうち、皆が君を「マイティ・マウス」と呼ぶようになるだろう。スーパーヒーローのようなパフォーマンスのためか、「小柄だけれど大きなハートを持ったやつ」を指すありがちな言い回ししか、実際のところはわからない。だが自分が思うには、顔の横から突き出ている目立った耳のせいかもしれない。

仕事を辞めてプロになるべきだとか、プロの格闘家だからこそ成功したんだと誰かがしつこく言ってきてうんざりした時には、耳を貸さないのが賢いやり方だ。君のことを本当に考えて助言をしてくれる人だけを周りに置いておくこと。彼らは、いつ動くべきかをちゃんとわかって教えてくれる。それまでは、道を逸れないように。

総合格闘技はタフな世界だ。世界チャンピオンであっても、そうでなくても。4、5試合も戦えば、疲れ切るのは時間の問題だ。だから、稼ぐために働き続けること。お金はいくらあっても困ることはないのだから。

君の大好きなテレビゲームと同じように、現実でも貯金(セーブ)を忘れないように。きちんとお金を貯め続けるんだ。できる限り、頻繁に。愛する家族を養い、将来に備えておくためだ。キャリアにおいてビジネス面もきちんと考えておくことは、君の人生で最も賢明な決断の一つとなるだろう。

みんな、チーズは大好きだ。特に「マイティ・マウス」はチーズが好物だ。貧しい環境で育ち、男ばかりに囲まれていると、金のかかる趣味を覚えるようになる。稼ぐようになれば、誘惑も増える。賞金は賢く使うように。

だいたい、男連中が大金をつぎ込む改造車より、中古のBMWの方がずっとあちこちに乗り回すのに便利だ。今日ここにあるものも、明日には消え去る。1日8時間働き続けてきたからこそ、見えることだ。自分のルーツを決して忘れるな。そして、自分の目標も覚えておくように。大切なのは、家族を養い、幸せにすることだけだ。

記者会見で、自分は普段着のスニーカーなのに、試合で負かした相手がグッチのスニーカーを履いているのに出くわしたりするだろう。それでもかまうことはない。誰もが世界チャンピオンの靴を履いて歩けるわけじゃないのだから。

ああ、それから、これは言わなくてもわかると思うが、テレビゲームと同じで勝ち負けはつきものだ。どちらも人生の一部なんだ。ラッキーなことに、トレーニングに打ち込み、地に足をつけて何年も9時から5時の仕事を続けてきた経験は、君の人格を磨く助けとなった。勝利も敗北も、君の人間性を変えることはない。そこは曲げずにいてほしい。

ここまで読めば、自分はほとんどの人が望むよりも早く1日8時間働く生活からは抜け出せるのだと気がついただろう。おめでとう。だが、やるべきことはたくさんあって現状に甘んじている暇はない。9時から5時のスケジュールは変わらない。ただ、ひとつの仕事からプロの格闘家としてのそれに変わり、新しい仕事の方が君に向いていたというだけだ。

完全にプロの格闘家としてやっていくことになった時も、有頂天にはなるな。そのかわり、努力と規律、誠実さ、謙虚さによって評価されるようになり、有名になるだろう。アメリカでの試合は物語の第1章でしかない…。だが、その先をばらすのはやめておこう。

ただ、知っておいてほしい。夢は叶う。心躍る未来が待っている。だから、今は旅路を楽しんで、自分らしく歩み続けてほしい。

愛をこめて

DJ」

MAGAZINE

ゴング格闘技 NO.335
2024年11月22日発売
年末年始の主役たちを特集。UFC世界王座に挑む朝倉海、パントージャ独占インタビュー、大晦日・鈴木千裕vs.クレベル、井上直樹、久保優太。武尊、KANA。「武の世界」でプロハースカ、石井慧も
ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリアブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリア