全日本キックの立嶋(左)vsMA日本キックの山崎の一戦は、まさしく両団体の看板を懸けた頂上決戦だった
1986年10月に創刊され、30年以上の歴史を誇る格闘技雑誌『ゴング格闘技』が、秘蔵写真と共に過去5月にあった歴史的な試合や様々な出来事を振り返る。11回目は1992年5月30日、東京・後楽園ホールで開催された全日本キックボクシング連盟『One Truth 3rd』より、全日本キックとMA日本キックのエース同士の一騎打ち。
(写真)山崎の放った左ストレートに立嶋がバックスピンエルボー弾
1992年はキックボクシングがアツかった。日本キックボクシング界で勢力を二分していた、全日本キックボクシング連盟とMA日本キックボクシング連盟が1月に団体対抗戦の火ぶたを切ったのである。
5月30日には早くも両団体のエース同士が対決するという最大のクライマックスを迎えた。全日本フェザー級王者・立嶋篤史(習志野ジム)vsMA日本ライト級1位・山崎路晃(東金ジム)のファン待望の一戦だった。
立嶋は巧みなヒジ打ちと重いローキック、何よりも旺盛な闘争心で早くから頭角を現し、この年の3月に清水隆広をKOして全日本キック頂上対決を制したばかり。そのアツい試合に熱狂的なファンが多くついていた。
対する山崎はMA日本フェザー級王者として活躍後、ライト級に転向したベテラン選手。左右の回転の速いフックとバックスピンキックで国内外の強豪としのぎを削り、そのアグレッシブなファイトスタイルで人気を得ていた。
(写真)山崎の強力な左ストレートが立嶋にヒット
当日朝の計量時、山崎は契約ウェイトを58kgと勘違いしていた(正しくは57.61kg)というハプニングがあった。そのため1回目の計量は250グラムオーバーしたものの、約10分間のシャドーボクシングでリミットちょうどに落として無事計量をパス。注目の一戦は実現に至った。
大歓声の中、死闘開始のゴングが鳴った。いつものように上体を左右に振り、フットワークを駆使して接近する山崎に立嶋は左ローから左ヒジを飛ばす。山崎の右前蹴りに立嶋が左ローを返すと、これが山崎の急所に当たってしまい30秒間のインターバル。試合再開になると立嶋は待ちかねたように右ローを連射。サウスポーの山崎も右ジャブから左アッパーを放つが、まだ動きがギクシャクとして固い。
(写真)立嶋のバックスピンエルボーに対し、山崎は得意のバックスピンキック。スリリングな攻防が続いた
2R、山崎がアグレッシブに動き出す。頭を下げて左右のフックを放ち、さらに右前蹴りを立嶋の顔面へヒットさせる。一気に前へ出て左ストレートを放つ山崎。だが、立嶋はここで意表を突く右バックスピンエルボー弾をさく裂させた。山崎の左目上から鮮血が少量流れ出し、形勢は逆転。立嶋は山崎を首相撲に捕え、回転の速いヒザ蹴りを見舞う。
山崎は左フック、右ストレートで挽回を図るが、左フックに今度は右バックスピンエルボーをカウンターされ後退。以後も左右フックを放つと立嶋に左ヒジを上から被せられるという展開に。
(写真)得意のヒジ打ちを見舞っていく立嶋に山崎もヒザ蹴り
しかし3R、右ストレートをカウンターで当てたのを皮切りに、山崎のパンチがヒットし始める。左右フック、さらに左ミドル。立嶋は一瞬グラつき、ピンチに追い込まれるも曲げた腕を側頭部に当て、自分のヒジを目の高さに持ってくるディフェンス。これでパンチを防ぐと同時に、前へ出てそのヒジを山崎の額に突き立てる。
ピンチをしのいだ立嶋は、右ローからワンツー、これがきれいに山崎の顔面を捉えた。それでも前進する山崎に、立嶋は左ストレートから左アッパー。“俺はヒジだけの選手じゃない”と言わんばかりのパンチラッシュを見せる。山崎はこれに対し、得意の左バックスピンキック。立嶋は右バックスピンエルボーを出すと、山崎はすかさず同じ技を返す。スリリングな一進一退の攻防に後楽園ホールを埋めた超満員の観客も大熱狂だ。
満足しているのは観客だけではなかった。3Rが終了すると、山崎は顔をクシャクシャにして笑みを浮かべ、両手を上げて立嶋に抱き着こうとしたのである。試合中に山崎がこんなことをしたのは初めてだった。
(写真)破壊力を誇る山崎のフックに立嶋はヒジを被せに行く
4R、山崎は左ミドルから右ストレート、ワンツーを決めて立嶋も右アッパーを返すが、試合のリズムは山崎のものだった。立嶋はパンチを中心にヒジ弾を繰り出すが、このラウンドは山崎のパンチに押され気味。
最終5Rも両者は激しく打ち合った。山崎がカウンターの左ストレート、右フックを放ち前へ出れば、立嶋は左アッパー、左フックで山崎の前進を止める。試合終了のゴングが鳴ると、立嶋は深く頭を下げ、山崎は笑顔でそれに応えた。
(写真)試合が終了すると、立嶋は頭を深く下げて敬意を表する。全力を尽くした山崎も笑顔で応えた
判定は50-49、50-48、49-49の2-0で立嶋が勝利。しかし、ラウンド終了ごとに万雷の拍手が鳴り響いた、勝敗を超越した激闘にファンは力の限り両者に拍手を送った。
「スタミナがなかった。機会があればもう一度やりたい」と語った山崎。「お客と僕らのいい試合というのは意味が違う。全てにおいて納得がいかない。同じ失敗をしてしまった」と自分に怒った立嶋。だが、両者がどう思うと、日本キック界に新たな歴史が刻み込まれた名勝負だった。