三重県伊賀市で一から練習環境を作り、トーナメントに臨むKING強介
2020年2月29日(土)東京・後楽園ホール『REBELS.64』で開幕する「55.5kg級王座決定トーナメント」(REDルール=ヒジあり)。「リーグ戦にして、いろいろな組み合わせが見てみたいと思うほど楽しみなメンバーが揃った」と山口元気REBELS代表。REBELSらしく「強さ+倒す力+個性派」の8選手が集結する中、1回戦から注目の倒し屋対決が実現した。元REBELS王者「爆腕ビッグダディ」KING強介と「リトルサイボーグ」タネヨシホである。
30代、新しい仕事で悪戦苦闘しながらも家族を養い、育児や介護に追われながら、なおかつ「キックボクシングジム」のない三重県伊賀市で1から練習環境を作って、このトーナメントのオファーを受けたKING強介。彼が「REBELSで戦い続ける理由」とは。
■『求められてること』自体はいいこと
2018年2月、REBELS初参戦に際して、KING強介はこう宣戦布告した。
「西からREBELSを荒らしに来ました」
その言葉通り、KINGはREBELS軽量級の「台風の目」となった。「門番」炎出丸(クロスポイント吉祥寺)に勝利すると、2戦目で王者KOUMA(ウィラサクレックフェアテックスジム)をKOしてREBELS王座獲得。宮元啓介(橋本道場)とは5ラウンドフルに激闘を演じてドロー、小笠原瑛作(クロスポイント吉祥寺)には判定負け。しかし、2019年2月の「パンクラスレベルスリング」はTOKYO MXの生中継枠に登場すると「破天荒な天才児」栗秋祥梧(クロスポイント吉祥寺)の一撃必殺の左フックで目を負傷しながらも徐々に盛り返し、延長で見事に判定勝利を収めた。
「あの頃は純粋に、山口代表が作ってくださったストーリーを楽しんでました(笑)。地方にいて交わることのなかった世界チャンピオンや団体のエース級を当てていただくので、毎回『どうやって勝とう?』『どうやってぶっ倒したろう?』と考えて準備して、試合に臨むのが本当に楽しかったです」
REBELSを主戦場にして、小笠原瑛作や宮元啓介らトップ選手たちと戦うようになると、周囲の反響も変わったという。
「地方のアマチュアの試合会場とか、どこに行っても声を掛けられるようになりましたね。REBELSさんは試合映像をYouTubeに上げてくれるので、みんなが見てくれて、僕のことを知っていただける人が本当に増えました」
REBELSで格闘家として充実した日々を過ごす一方で、プライベートでは一家の大黒柱として厳しい状況に直面していた。
「妻の両親が倒れてしまい、介護のために妻は子供たちを連れて実家に帰ることになって、僕は神戸で大工の仕事を続けながら単身赴任でした。ずっとにぎやかに暮らしていたので、家族と離れた1年半で心がだいぶ滅入りましたね……」
KINGは、昨年6月のREBELS.61で大野貴志(士道館新座ジム)との「KNOCKOUT初代スーパーバンタム級王座決定トーナメント出場者決定戦」に臨むも判定負け。その直後にREBELS王座を返還し、同年9月、背水の陣で臨んだ新日本キックでHIROYUKI(藤本ジム)に判定負けを喫した。
「もう全部辞めて、家族のいる三重県に帰ろう、と」
KINGは三重県伊賀市に移住して妻の実家で家族との生活と新たな仕事をスタートさせた。「宮大工」の世界に飛び込んだのである。一般の住宅を建ててきた経験がまったく活かせない、一からのスタートだった。
「僕が勝手に思ってることですけど、どうせするなら『本物』を知りたいんです。大工の世界では『一番は宮大工』と言われるので、一度飛び込んでみようかと。これまでの経験はまったく活きません(苦笑)。社寺建築なので、建築方法が一般の住宅とまったく違うので完全な別ものですね。ペーペーですから毎日怒られてばかりですし、キックボクシングと同じでこちらの道も険しくて、修業時代の方が長い世界です。だけど、この年齢になっても受け入れてくれる環境があることに感謝しながらやってます。何に対してもそうですけど『求められてること』自体はいいことやな、と思うんです」
■周囲の山やいろんな場所で走りこんで『忍トレ』してます
新しい環境に慣れてきた頃、山口代表から「REBELS RED 55.5kg王座決定トーナメント」のオファーが届く。KINGは「出ます」と即決だった。
三重県伊賀市に移住を決めた時は引退も覚悟していたが、自然と練習する仲間が集まり、キックの練習を続けることができたのだ。
「僕が伊賀市に来たことを知って『チャンピオンに教えて欲しい』と20代の若い子らが集まってきてくれたんです。『REBELSで頑張ってよかったな』って思いましたね。三重県にも『格闘技をやりたい』という人は多いです。でも格闘技のジムがなくて、愛好会はあるんですけど選手がいるわけではないので」
だから今、練習環境を一から作っている。
「今はボクシングジムを間借りして週1回集まって練習してますけど、近々、体育館を借りてもう1日練習日を増やそうかと話してます。みんなで考えながらやっているのですごく楽しいですよ。僕自身は週6で練習してます。一人でも走ったりはできるので、周囲の山やいろんな場所で走りこんで『忍トレ』(伊賀市=忍者、にちなんでKINGが命名)してます(笑)」
トーナメント出場が決まると、親戚の石原夜叉坊が練習に参加しに来てくれたり、KING自身、休日や年末年始の休暇を利用して、山口道場や京都野口ジムに出稽古に赴き、戦う準備を整えてきた。
2月29日、トーナメント1回戦の相手は「リトルサイボーグ」タネヨシホと決まった。
「激しい試合をするメンバーが揃ったトーナメントなので誰と当たっても倒し合いになると思ってましたけど、タネヨシホ選手なら100パーセント、倒し合いですね(笑)。最後まで立っているのはどちらか。ぜひ楽しみにしてほしいです。
負けていいことはないんですけど、2連敗して色々と気づかされたことがありました。HIROYUKI戦の途中で『楽しいな』と思ったんです。大野戦は『REBELSチャンピオンとして、他団体のチャンピオンには負けられない。勝たなあかん、勝たなあかん』ばかりで視野も狭くなってて、楽しむことを忘れていたんですね。勝つことが大事ですけど、その大前提として自分が楽しまないと。
あと、僕が戦う上で一番大事にしてるのが『気持ち』を見せることです。REBELSに参戦し始めた頃は、熱いファイトをして、勝っても負けても見てる人の心に残る試合を、と思ってたのが、最近はちょっと迷いが出て、大事にしてた気持ちを忘れかけてたな、と。
タネヨシホ選手との試合では必ず『熱いファイト』をしますし、このトーナメントを勝っていって、今、僕についてきてくれる若い子らに『今の環境でも頑張ればやれるんや』って教えたいですし、見せたいです。
2月29日のREBELS.64、ぜひ会場でKING強介の応援をよろしくお願いします!」
文・撮影 茂田浩司
撮影(コスチューム) 阪本勇