2025年6月28日(日本時間29日朝8時~)米国ネヴァダ州ラスベガスのT-モバイル・アリーナにて『UFC 317: Topuria vs. Oliveira 速報』(U-NEXT配信)が開催される。
コメインは「UFC世界フライ級タイトルマッチ」(5分5R)。王者アレッシャンドレ・パントージャ(ブラジル)が4度目の王座防衛戦で、同級4位のカイ・カラ・フランス(ニュージーランド)と対戦する。
▼UFC世界フライ級選手権試合 5分5Rアレッシャンドレ・パントージャ(ブラジル)王者 29勝5敗(UFC13勝3敗)カイ・カラ・フランス(ニュージーランド)挑戦者・4位 25勝11敗(UFC8勝4敗)
パントージャは23年7月にブランドン・モレノと再戦。1Rに左フックでダウンを奪い、5Rスプリット判定で勝利し、王座獲得。2023年12月にブランドン・ロイバルを判定で下し、初防衛に成功すると、24年5月にスティーブ・エルセグにも判定勝ちで2度目の防衛。24年12月、朝倉海を2R リアネイキドチョークで極めて、3度目の王座防衛を果たした。今回は半年ぶりの防衛戦。35歳。
挑戦者カラフランスは、5連勝後の16年12月に兄が暮らす日本のRIZINに参戦。和田竜光に判定負けも、その後は怒涛の8連勝。UFCには18年から参戦し、22年にブランドン・モレノと暫定フライ級王座を争うも3R TKO負け。23年6月にはアミル・アルバジとの物議を醸すスプリット判定で敗れ2連敗も、24年8月にスティーブ・エルセグを右の強打で1R TKO。再起を果たしている。24年12月の朝倉海の王座戦前には「タイトルショットを与えるカイを間違ってる」と王座挑戦をアピールしていた。32歳。
両者は、2016年の『TUF24』の16人トーナメントの2回戦で対戦し、パントージャがスタンドでは左の蹴りを駆使して、カラフランスの右のパンチを封じ込め、テイクダウンから組み技にも持ち込み、判定勝ちしている。果たして9年ごしの再戦で勝利するのは? U-NEXTから届いた試合前会見の両者の言葉を紹介したい。
パントージャ「家族のために戦うことがカラフランスをさらに危険にしてる。それは自分も同じ」
──昨年末の『UFC 296』でペイパービューのメインイベントを務め、リオではヘッドライナー、そして今回はインターナショナル・ファイトウィークのコーメインに抜擢されています。UFCの後押しをこれまで以上に感じているのでは?
「UFCが俺や家族のためにしてくれてることには、本当に感謝してる。オクタゴンで戦うのが大好きなんだ。世界最高の舞台で戦えてると感じてるし、何千人もの観客、何百万人もの視聴者が俺の戦いを見てくれてる。たまらなく嬉しいよ。俺は17歳で初めて戦って、今は35歳。それでもハイレベルで戦えてる。自分のスキルを世界に見せるっていうのが、俺がファイトを始めた理由だからね。俺にとってこれは“アート”なんだ。
SNSはそんなに好きじゃないけど、戦ってる姿を見てもらうのは大好きなんだよ。オクタゴンに入った瞬間が、真の“ザ・カニバル(=人喰い。パントージャの愛称)”、つまりパントージャが現れる時なんだ。でもオクタゴンの外では、俺はただの普通の男だ。だけどオクタゴンの中に入ったら、自由になれる。相手を倒すためなら何をやってもいい、その自由が好きなんだ。それがUFCに出る理由だし、ファンが金を払って俺を見る理由でもある」
──メディアやファンはどうしても過去のストーリーを結びつけたがります。特に『ジ・アルティメット・ファイター』(2016年のTUF24)でのカイ・カラ・フランスとの試合はよく話題になります。カイは「9年前の話だし、当時は減量もまともにできなかった。でもあなたが第1シードだったのはよく覚えている」と言っていました。当時から彼がここまで来るとは思っていましたか?
「彼はすごくいいファイターだよ。あの拳にはとんでもないパワーがある。全人類、いや宇宙中の人間をノックアウトできるんじゃないかってくらい(笑)。それがあいつに神様が与えた特別なギフトなんだ。テイクダウンディフェンスもかなり高いレベルにあるし、トップファイターのひとりだって言えると思う。俺はこれまで、世界中の強豪たちと戦ってきた。メキシコのリアルファイターたち――ブランドン・モレノ(フライ級2位)やブランドン・ロイバル(フライ級1位)とも戦ったし、オーストラリアの選手(スティーブ・エルセグ)、日本のサムライ(朝倉海)ともやった。そして今回はマオリの戦士と戦う。
ブラジルから遠く離れた国のファイターと戦えるってのは、すごくクールだよ。フライ級はほんとに“ワールドチャンピオンシップ”なんだ。ランキングのトップ10を見れば分かる。同じ国や文化の選手が2人、3人いるわけじゃなくて、アフリカ、アジア、ブラジル、アメリカ、いろんな国の選手が集まってる。そんな中で戦えることに、心から感謝してるよ」
──カイ・カラ・フランスとはSNSで連絡を取っていたと聞きました。
「朝倉海と戦ったあと、カイからInstagramにメッセージが来たんだ。“次は俺だ”ってね。カイ・カラ・フランスはほんとにいいヤツだよ。すごく謙虚な人間だ。俺は彼に言ったんだ。“今のお前はもっと危険だ”って。初めて戦ったとき、彼には家族がいなかった。でも今は子どもがいて、家族がいる。それがファイターを強くする。俺もそうだからよく分かる。家族のために戦うっていうのは、ものすごい力になるんだ。今のカイは、自分のためだけじゃなく家族のために戦ってる。それが彼をさらに危険にしてるんだよ」
──フライ級は今とても活気があります。堀口恭司が戻ってきて、ブランドン・ロイバル(フライ級1位)も勝って、ジョシュア・ヴァン(フライ級12位)は連続でペイパービューに出場します。今後の展望についてどう感じていますか?
「めちゃくちゃ楽しみだよ。“バンタム級に行けよ”なんて言われるけど、行くわけない。こっちには面白い試合が山ほどあるんだ。ジョシュア・ヴァンはヤバいね。あいつは“ウィリー・ウォンカの工場からゴールデンチケットを引き当てた”みたいな存在だよ(笑)。もし今回ロイバルに勝ったら、次の挑戦者かもしれない。それに堀口恭司もいるし、マネル・ケイプ(フライ級6位)もいる。ケイプはちょっと気の毒なくらいだ。何度もチャンスを逃してるけど、すごくいいファイターだ。いつかまた戦いたいね。
2024年はフライ級にとって最高の年だったと思う。みんなこの階級の価値を再認識してくれた。フライ級の中から10人、いや15人はすぐ名前が出てくる。それって素晴らしいことだろ? 俺はこの階級の王者として、その全部を誇りに思ってる。みんなが俺の名前を呼ぶのは、俺がチャンスを与えられる側じゃなく、“与える側”になった証拠だ。今まで全部と戦ってきてベルトを獲った。だからみんな“次は自分かも”って希望を持てるんだ。最近だと、朝倉が来て、次はカイ・カラ・フランス。ジョシュア・ヴァンも来るし、堀口恭司も控えてる。素晴らしい時代だよ」
──ファンの中には、いつかメラブ・ドバリシビリ(バンタム級王者)との対戦を見たいという声もあります。その声についてどう思いますか? またBMFのような“軽量級スーパーファイト”的な試合については?
「メラブのことはすごくリスペクトしてるよ。ショーン・オマリー(バンタム級1位)が“大麻をやめた”とか“いろいろ我慢した”って言ってたけど、関係ないね。メラブは本物の戦士だ。苦労も乗り越えてきたし、俺自身も同じ道を通ってきたから分かる。リスペクトしてるよ。オマリーにはメラブを倒せないと思ってる。メラブは違うレベルだよ。オマリーが勝てるなんて思ってるなら、それは勘違いだな。もちろん、もしメラブとの試合のチャンスがあるなら喜んで受けるよ。でも正直、今はそこまで求めてない。俺にはこのフライ級があるし、まだまだ新しい名前も出てくる。ジョシュア・ヴァンがブルーノ・シウバ(フライ級15位)と素晴らしい試合をしたばかりだし、次の挑戦者になるかもしれない。だから今はこの階級をしっかり楽しみたい。やりがいがあるし、誰が来ても受けて立つよ」
──メラブとの試合が将来的に組まれるかもしれませんが、彼とのスタイルマッチアップについてはどう考えていますか? あなたは5ラウンドの経験も豊富ですし、かなり面白い試合になるのでは?
「負けから多くを学んできたし、それで今の俺は以前より強くなってる。メラブがテイクダウンを狙ってきたら、それを逆に利用できる。俺は柔術も得意だし、アメリカン・トップチームには強いバンタム級の選手がたくさんいるから、いいキャンプも組める。ただ、135ポンドで戦うには体重も増やさなきゃいけないし、今はそのことを考えてない。俺には守るべき階級がある。フライ級は今めちゃくちゃ面白い階級だし、UFCの中でも一番スタミナが試される階級だ。ストライキングもグラップリングもできなきゃ勝てない。だから俺はこの階級が好きなんだ」
──ロイバル(フライ級1位)とジョシュア・ヴァン(フライ級12位)の試合はどうなると思いますか? あなたはロイバルとも戦ってますし、ヴァンのことも高く評価していますよね。
「面白い試合になるよ。あまり知られてないかもしれないけど、ロイバルは打撃のスキルもすごいんだ。ジョシュアがあのプレッシャーに耐えられるかは分からないけど、ナンバー1コンテンダーとの試合のチャンスを掴んだのはすごいと思う。俺も試合前のウォームアップ中だからリアルタイムでは見られないかもしれないけど、どっちにも勝つチャンスはある。ジョシュアはすごいテイクダウンディフェンスを見せてるし、もしかしたらロイバルも今回は打撃で勝負しなきゃいけなくなるかもな。どっちが勝つかは予想できない。ただ、こういう試合を観られるのは本当に嬉しいよ」
──長年のチームメイト、ダスティン・ポイエー(ライト級5位)が次で引退します。あなたにとって一番の思い出は何ですか?
「ジムでのダスティンの姿だな。今回の試合に向けて、めちゃくちゃハードに練習してた。『ラストダンス』なんて言葉はあまり好きじゃないけど、たぶん本人もそう思ってるはず。俺のキャンプの前から、2、3カ月ずっとジムに通ってた。あんなに一生懸命練習してるダスティンを見たのは初めてだったよ。100%ベストな状態のポイエーが見られるはずだ。もしかしたら、試合が終わったあとも『まだやれる』って思うかもしれないな。俺の家はフロリダのココナッツクリークにあるんだけど、車で帰ってるときに、ダスティンが道端を狂ったように走ってるのを見かけたんだ。本当に最高のチームメイトだよ。あれはレジェンドだ」
──もう1人のレジェンド、ジョゼ・アルドとも『UFC 301』で一緒に勝利しました。彼の引退についてはどう思いましたか?
「アルドがインスタに引退後の写真を上げてて、サッカーやったり好きなことしてるのを見たんだ。それを見て思ったよ――“めちゃくちゃいい人生だな”って。マナウスの貧しい地区出身で、世界のトップまで登りつめて、大金も手に入れて、今は引退して自由に生きてる。俺たちはオクタゴンに上がったとき、自分のために戦ってるけど、その裏には大きな責任がある。家族、チームメイト、コーチ……みんなの期待を背負ってる。でも引退したら、自分のために自由に生きられる。アルドが今まさにそれを楽しんでるのを見ると、すごく嬉しくなるよ」
──イリア・トプリアとチャールズ・オリベイラの試合について、どう予想しますか?
「トプリアは俺のお気に入りのファイターの一人だよ。そんなに多くの選手にそういうこと言わないけど、2年前に初めて見た時に『マジでヤバいな』って思った。で、今度はチャールズと戦うんだろ? チャールズはブラジルの象徴さ。彼はファベーラ(ブラジルのスラム街)からのし上がって、自分の人生だけじゃなくて、周りの人間の人生も変えたんだ。みんなにチャンスを与えてきた。チャールズがトプリアをフィニッシュすると思う」──試合翌日、あなたの応援しているフラメンゴが、クラブW杯でバイエルン・ミュンヘンとマイアミで対戦しますが、観戦は間に合いますか? 予想もお願いします。
「それ最高だね! 俺はサッカーが大好きで、フラメンゴの試合は全部見てるんだ。今回は父と義母にチケットをプレゼントしたよ。誕生日プレゼントとしてね。俺たちは行けないから、代わりに行ってもらうんだ。フラメンゴが決勝に行くなら、俺も一緒に行くよ。彼らは本当に強いから。試合も勝てると思う。2-1とか、2-0とか。あの大会は、ヨーロッパの超金持ちクラブと、ブラジルの小さなクラブが戦う大会なんだよ。でもブラジルのクラブは全部勝ってきてる。フラメンゴ、行こうぜ!」
──堀口恭司のことについて聞かせて下さい。彼も同じフライ級で同じATT所属ですが、ジム内での関係性は気まずくありませんか?
「いや、堀口恭司は俺がこのベルトを取るのを助けてくれた存在なんだ。彼がいなかったら、ここまで高いレベルに到達できなかったかもしれない。もし俺が悪い日だったら、恭司にジムでやられる。だから彼には本当に感謝してる。でも、もし本当にオクタゴンで戦うことになったら、話は別。ジムでは彼を傷つけないようにしているけど、オクタゴンでは容赦しないよ。思いっきり痛めつけてやる(微笑)」
──現在、アメリカン・トップチームの雰囲気はどうですか? ケイラ・ハリソン(女子バンタム級王者)もベルトを獲得して、ジムには2人の王者がいます。
「ATTに足を踏み入れたら、勝利の匂いがするよ。犠牲の匂いもする。毎日100人くらいのプロがスパーしてる。ケイラがベルトを取ったのも最高だった。彼女は本当に努力家で、みんなのインスピレーションだ。このジムは世界一だと思ってる。全員が成功に取り憑かれてる。みんな1日3、4回トレーニングしてる。たとえば俺の仲間のビクトル・ディアス(Combat FCバンタム級王者)なんて、練習して、柔術を教えて、他の仕事もして、それでもジムに戻ってまた練習してる。そんな姿を見ると、“自分ももっと頑張ろう”って思える。デイナ・ホワイトもそうだけど、ATTの創設者ダン・ランバートには、MMA界全体が感謝すべき存在だよ。彼がいたから、今のこの場所があるんだ」
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カラ・フランス「マオリの血が俺のスーパーパワーの源」
──前回パースで勝ったとき「タイトルショットを与えるカイ(朝倉海)を間違ってる」と言って話題になりましたが、あれからどう過ごしていましたか? また、今回の試合はいつから決まっていたんでしょう? 多くの人がマイアミでのイベントに出ると予想していたと思いますが、結果的にインターナショナル・ファイトウィークでの参戦になりました。
「ラスベガスに戻ってこられて最高の気分だよ。ずっと辛抱強く待ってきたけど、それが報われたね。UFCから『マイアミには出さない、少し先にしよう』って言われたとき、これは何か大きな話になるなって感じてたんだ。そしたら案の定、インターナショナル・ファイトウィークで、アレシャンドレ・パントージャ(フライ級王者)とのコーメインイベント。ファンにとっても大きなカードのひとつになるはず。俺たちなら盛り上げられるってUFCも分かってる。パントージャにはリスペクトしてるけど、俺はあいつの首を獲りにいく。ベルトを持たずにラスベガスを出るつもりはないよ」
──堀口恭司とUFCの再契約の噂が出ていたとき、「また誰かに自分のタイトルショットを奪われるんじゃないか」と感じたりしましたか?
「そこはもうコントロールできないことだから気にしてない。俺が集中するのは自分のことだけ。試合に出てなかった間も、ずっとジムには通い続けてきた。去年の終わりに朝倉海(フライ級14位)のタイトルマッチが決まったとき、“次は絶対に俺だ”って思ったし、実際に試合後にパントージャにDMして『次は俺だろ? やろうぜ』って送った。そしたら、あいつも“やろう”って返してきた。トップのファイターと戦いたいって姿勢を見せたんだよ。そして、俺がスティーブ・エルセグ(フライ級9位)を1Rで倒したことで、一気に最有力になった。『次に誰が来る?』って話が出るたびに、俺の名前が出る。俺のスキルセットはパントージャにとって厄介なはず。9年前に一度戦ったけど、あのときは俺はまだ子どもだった。今は違う。家族もいるし、家族を養うために戦ってる。メンタルも、魂も、フィジカルも、キャリアの中で今が一番いい状態なんだ」
──あなたは長年戦ってきましたが、メディアやファンは“ストーリー”に注目します。9年前にパントージャと戦ったとき、彼が将来UFC王者になると思っていましたか?
「彼はあのシーズンの“ナンバー1シード”だったしね。俺は唯一ノックアウト勝ちをして、勢いに乗ってパントージャと戦った。あのときから“こいつはしばらくUFCでやっていくだろうな”って思ってたよ。王者になったのも驚きじゃない。あいつはすごくオールラウンドだけど、一番の強みはタフさと打たれ強さ。ダメージを受けることを全然気にしてない、むしろ好きなんじゃないかって思うくらい。追い込んだと思ったら、そこからギアを上げて逆にこっちがやられる。だからしっかり準備してきたし、一度戦ったことがあるのも大きい。あのときは2Rのエキシビションマッチだったし、9年前と今を比べることはできないけどね。それに当時は、今のようにシティ・キックボクシングでは練習してなかった。タイで練習してたけど、あの試合後にニュージーランドの地元に戻って、ユージン(ベアマン ※シティ・キックボクシングの創設者)の下で本格的にやるようになった。あれが俺のキャリアの転機だった。タイでも大事な経験を積めたけど、帰国してから本格的に俺のスタイルが進化したんだ」
──今までも大きなキャンプを経験してきたとは思いますが、これまではチームメイトも同時期に試合を控えていて、コーチ陣が分担して対応しなければいけないこともありました。今回は完全にあなた中心のキャンプになったと思いますが、その変化はどう感じましたか?
「最高だよ。コーチやチームメイトが全力で俺に集中してくれた。だからこそ、逃げ場がない。俺が中心にいて、タイトル戦に向けて準備してるっていう感覚がすごく強い。シティ・キックボクシングのチームには本当に感謝してる。コーチ陣もチームメイトも、毎日俺をプッシュしてくれた。今年に入ってからずっとがむしゃらにやってきた。俺はラグビーリーグチームのレスリングコーチもしてるんだけど、今年初めにラスベガスでそのチームの試合があったのに、行かなかったんだ。自分の“タイトル”を獲ることのほうが大事だったからね。集中して準備する、それだけだった。だから今、心身ともに完璧に整ってる。悪いポジションに何度も置かれて、そこから抜け出す力もついた。
プロデビューは17歳。今は32歳で、まさにキャリアのピークに来てる。浮き沈みもあったけど、こうしてまたタイトル戦まで這い上がってきた。パントージャのことはリスペクトしてるけど、俺はベルトを持ってラスベガスを出るつもりだよ」
──別のインタビューで「試合中に自分の攻撃に見とれてしまう瞬間がある」みたいなことを言ってましたが、それって具体的にはどういうことですか? ただ、パントージャのような相手にはそういう“余裕”を持ってはいけない気もします。
「俺は自分のKOパワーを本気で信じてる。だから時々、一発か二発当てた時点で“仕留めた”って思っちゃう瞬間がある。でもパントージャ相手にはそれじゃ足りない。あいつを倒すには10発、20発の決定打が必要になる。そういう戦いになるのは分かってる。だから火の中に飛び込む覚悟でいる。下がる気は一切ない。真っ向から打ち合うつもりだし、自分の全てのスキルを見せるよ。『俺は倒れない、俺はここにいるぞ』っていう姿勢を見せる。パントージャがテイクダウンを狙ってきても、俺にはこの階級で最高のテイクダウンディフェンスがある。レスラーだろうが、グラップラーだろうが、“クリンゴン”(『スタートレック』に出てくる宇宙人)だろうが、何度も止めてきた。ファンが観たいのはノックアウトだろ? 俺はそれを届けるよ」
──あなたはマオリの文化やルーツを大事にしています。でも近年はMMAの新しいファンも増えて、その部分をまだ知らない人もいると思います。
「俺の文化、マオリの血を持つ者としてのアイデンティティ、それを世界に見せたいんだ。ニュージーランド、アオテアロア(=マオリ語でのニュージーランドの名称)の誇りでもあるし、それが俺たちをユニークにしてる。オクタゴンに上がるとき、ただ戦うだけじゃない。“俺がどこから来たか”を知ってほしいし、“俺は自分のルーツを誇りに思ってる”ってことを伝えたいんだ。 DC(ダニエル・コーミエー)から『どうしてそんなにKOが多いのか?』って聞かれたとき、“それがマオリの血なんだよ、それが俺のスーパーパワーだ”って答えた。それが俺の真実さ。だから今回の試合も、国を背負って戦いに行く。みんなを誇らしくさせてみせる」
──今回のパントージャ戦は彼にとって4度目のタイトル防衛になりますが、これまで彼が戦ってきた挑戦者と比べて、自分はどこが違うと思いますか?
「スタイル的に相性はいいと思う。あいつはタフだし前に出てくるタイプ。“テイクダウン狙い一辺倒”じゃなくて、打撃で来るはず。そういうファイターなんだよ。“やり返す”ことにこだわるタイプだと思うし、そこは俺もリスペクトしてる。5Rの激戦になるだろうけど、どこに転んでもいい。どんな展開になっても受けて立つよ」
──パントージャはこれまで一度もフィニッシュされたことがありません。それでもあなたは「仕留める」と言っていましたが、どういう場面に付け入る余地があると見ていますか?
「疲れてきたときにちょっと雑になるんだ。手が下がったり、スクランブルや打撃の間のやり取りでスキが出る。そういう瞬間を見逃さずに仕留めたい。俺にはすでに12個のKO勝利がある。『フライ級のマイク・タイソン』って呼ばれてるし、その名に恥じない戦いをするつもりさ」
──今週末はビッグカードでのコーメインイベントですね。メインイベントの予想も聞かせてください。
「コメインに選ばれたのは光栄だよ。昨夜UFC PIでイリア・トプリア(フェザー級3位)に会ったときも、『俺たちが最初にパーティーを盛り上げるから、あとはあなた達が締めてくれ』って言ったんだ。俺はチャールズ・オリベイラ(ライト級2位)が大好きで、“ピープルズ・チャンピオン”だと思ってる。でもこれはブラジル勢 vs. 俺たちって構図でもあるからね。面白くなるよ。心ではチャールズを応援してるけど、頭ではイリア。あいつのボクシングはUFCの中でもトップクラスだし、パウンド・フォー・パウンドで見ても最もパンチが重い選手の一人。どっちが勝つかは分からないけど、まあ、今のが俺の答えさ」
──あなたは子供の頃いじめられていた経験や、感情的に辛かったことについて語ったことがあります。今、世界タイトルに挑もうとしている自分を、当時の少年カイ・カラ・フランスが見たらどう思うと思いますか?
「自分のことを誇りに思うだろうね。あの頃、クラスで一番小さくて、いじめられてた無力な少年が、ファイターとしてだけじゃなく、人間としてもここまで成長したことを。今こうして世界の格闘技の中心、ラスベガスで15年目の戦いを迎えている。これは俺の使命なんだ。もし今何かに苦しんでる子がいるなら、“それは強くなるための試練なんだ”って伝えたい。俺のキャリアも決して順風満帆じゃなかった。負けても、何度でも立ち上がってきた。そして今、歴史を作る時が来た。俺は“マオリとして初のUFCフライ級世界王者”になる」
──誰もがプロファイターになるわけではないと思いますが、あなたのように辛い経験をしている若者にアドバイスはありますか?
「もちろんあるよ。アオテアロアの若者たちに伝えたい。“自分がなぜそれをやってるのか”っていう“理由”を見つけること。別に格闘技じゃなくてもいい。何でもいいから、自分が情熱を持てるものの“なぜ”を明確にするんだ。苦しくなったとき、その“理由”が支えてくれる。それがあると、進むべき道が見えてくるよ」
──長年のチームメイトであるイズラエル・アデサニヤ(ミドル級4位)が、ケルヴィン・ガステラムとの試合での功績で殿堂入りします。あの試合をチームメイトとして見ていたとき、どんな気持ちでしたか?
「イジー(イズラエル・アデサニヤ)のキャリアが花開いていくのを見てきた。UFCの“GOAT”のひとりで、格闘技界のレジェンド。彼の友人として、チームメイトとして、誇りに思ってる。あのときの試合も覚えてるよ。ガステラムとの戦いは、絶対に後退しないイジーの姿勢が見えた試合だった。あれは歴史に残る名勝負だし、彼のレガシーを確固たるものにした。誇りに思ってるよ」
──マオリの文化や伝統を世界に示すことで、ファンにもその一端を教育してくれているように感じます。そこで聞きたいのですが、今回のタイトル戦に向けたキャンプにおいて、マナ(精神的力)やカハ(強さ)といったマオリの価値観が、あなた自身にどれほど力を与えてくれましたか?
「この試合は、俺ひとりのためのものじゃないんだ。今回のキャンプ全体を通して、ずっとそれを意識してきた。UFCの事前番組『カウントダウン』で“何を撮りたいか”と聞かれたとき、俺はすでにカパハカ(マオリの伝統舞踊・儀式)のグループの一員として活動してた。ジェフとニティの指導の下で、ただ“強くなる”ためだけじゃなく、自分のルーツであるマオリ語や、古来の戦いに備える儀式を体験していたんだ。そういった文化に身を置くことで、土地や家族とのつながりがより深くなった。UFCファイターである前に、俺はカイであり、マオリの男であるというアイデンティティを強く感じた。
だから『カウントダウン』で“何を見せたいか”と聞かれたときに、以前学んだハカを披露することを選んだ。これは俺の“舞台”、俺の“世界タイトル挑戦”にふさわしい形になると思った。そして実際、あのハカを披露した後は涙が出たよ。俺の先祖も、きっと誇りに思ってくれているはずだ。ファイターとしてだけでなく、マオリの男としてここまで来たことを。この試合は特別な瞬間だし、そのエネルギーを受けて、自分のすべてをぶつけたい。俺は他の誰にもなれないし、俺は俺なんだ。世界に向けて話してるんじゃない。俺が話したいのは、自分の“人たち”に対してなんだ。どこから来たのか、誇りを持って生きること。謝らずに、堂々とマオリとして生きること。それが大事だ。今のこの時代、特にアオテアロアでは、そのマナに立ち返って、受け入れることが本当に重要なんだよ」