2025年3月8日(日本時間9日)、米国ラスベガスのT-モバイル・アリーナにて『UFC 313: Pereira vs. Ankalaev』(U-NEXT配信)開催され、プレリミナリーの最後には、日本の鶴屋怜(THE BLACKBELT JAPAN・22歳)と、UFCフライ級2連勝中のジョシュア・ヴァン(ミャンマー・23歳)のフライ級戦が組まれた。
(C)Zuffa LLC/UFC
UFC史上初となる、2000年生まれ同士の試合は、ヴァンがフルマークの判定3-0(30-27×3)で勝利。MMA13勝2敗・UFC戦績を6勝1敗とし、鶴屋はMMA初黒星の10勝1敗。UFC戦績を1勝1敗とした。
試合後、鶴屋はインスタグラムに「負けました。負けたら全て無くなるんじゃないかって怖かった。自分に驕ってた部分もあった。負けを知り周りの愛を感じる事ができた。反省点もみえた。もう2度と同じ失敗はしない。必ず強くなってまた戻ってきます。応援ありがとうございました」と投稿。再起を誓っている。
ストライカーのヴァンとグラップラーの鶴屋という構図のなか、両者はMMAのなかでいかに戦ったか。
MMA10勝無敗だった鶴屋は、2023年の『ROAD TO UFC』で優勝し、2024年6月のカルロス・ヘルナンデス戦でUFCデビューし判定3-0で勝利。オクタゴン初陣を飾っている。UFCフライ級最年少の22歳。
対するヴァンは、フライ級では鶴屋に次いで2番目に若い23歳で、UFC5勝1敗で、MMA12勝中6つのKO・TKO勝ちを誇るストライカー。朝倉海がパントージャに挑戦した12月のラスベガス大会では、当時14位のレスリング出身のダーデンを相手に、2R以降を打撃で圧倒して勝利している。
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当初、鶴屋は2月9日の『UFC 312』豪州大会で地元のスチュワート・ニコルと対戦予定だったが、ニコルが負傷欠場。陣営はフライ級ランカーの欠場があった場合のバックファイターとして出場する準備があることをUFC側に伝えていた。
そんななか、3月8日にジョシュア・ヴァンと対戦予定だった13位のブルーノ・シウバが欠場。当時15位のヴァンの相手として、無敗でランキング外の鶴屋との対戦が決定した。
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鶴屋にとっては、グラップラーから危険なストライカーに対戦相手変更も、スタックしているフライ級ランキングにおいて、ランカーと対戦できるチャンスととらえ、勝負に出た試合。
ヴァンにとってはケイプに敗れるまで4連続フィニッシュ勝利中だった上位ランカーのシウバとの試合に代わり、同世代のヤングプロスペクトの挑戦を受ける形となった。
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鶴屋は外無双、一本背負いを決めるもヴァンは背中を譲らず
(C)Zuffa LLC/UFC
試合は、鶴屋の組みのプレッシャーのなか、序盤からシングルレッグを切ってバックにも回らせなかったヴァンが攻勢に。鶴屋の見切りはいいが後ろ重心の怖さに欠ける打撃に対し、ヴァンは三日月蹴りを腹に効かせて、外を取ってのジャブ・ストレートの右の打撃で前に。
鶴屋にとっては喧嘩四つで受けたローブローが不運であったが、下がらされたなかでのシングルレッグを頭を下げられ切られたこと、レスリング時代からの得意技である外無双、一本背負いで投げたものの押さえ込めず、極めにも繋げられなかったことで厳しい展開となっていった。
【写真】三日月蹴りのみならず再三のローブローは鶴屋の体力を削った (C)Zuffa LLC/UFC
1Rの外無双は、ヴァンに背中をつけさせたものの、ヴァンは巧みに足を効かせてフックガードから左を差して背中を譲らず立ち上がりに成功。
そして最大のチャンスだった2Rの一本背負いは、袈裟固めから得意のVクロスに繋げられる展開だったが、上半身寄りの鶴屋の押さえに、ケージ際のヴァンは、左足でケージを蹴って一気に内側を向いて首をずらして立ち上がりに。
その際で鶴屋はすぐにバック狙いに移行したが、左腕で差し上げていたヴァンは腰を金網につけながら立ち上がり、鶴屋に足をかけさせずに正対。鶴屋の顔を剥がしてクラッチも組ませずに突き放している。
それでも鶴屋は組み続けることを止めず。3Rのローブロー後にシングルレッグからドライブ。頭を出してヴァンに尻まで着かせて右足まではかけているが、左の小手も強いヴァンは鶴屋のボディロックにも脇を潜らせず、右を差し上げて突き放している。
すでに体力を使っているなか、スタンドでヴァンの前手を触り、必死に右に回り左ストレートを振って、カウンターをもらったものの前に出られたことは今後に繋がる動きだった。
この試合でテイクダウンディフェンス85%を記録したヴァンは鶴屋について、「投げについては驚いてないよ。まだ僕の柔術も見せていない。驚いたのは彼が決して諦めない選手だったということ。それは分かっていたんだけど。同じアジア人選手として誇らしいと思ったよ」と、気持ちを折ることなく、組み続けた姿を称えている。
(C)Zuffa LLC/UFC
打撃巧者であるヴァンを相手に大きな被弾をせずに3Rを戦った鶴屋。しかし、レスラーが組むためには立ち合いで圧力をかけることが必須だ。今後、サウスポー構えのスタンドでどう作るか。
そして、鶴屋の強みであるグラップリングでいかに押さえ込んで削り、極めに至るか。今回決めた投げ技も今後、研究されて引き手を簡単には取らせない状況も出て来るだろう。押さえ込まれずバックも取らせない──それはフライ級のストライカーと呼ばれたヴァンの進化でもあった。
「負けたら全て無くなるんじゃないかって怖かった」と吐露した初の敗北の味は苦かったが、心配は杞憂だった。課題は明確だが、そこを積み上げるのが難しいのもMMAだ。6月に23歳になる鶴屋にとって、世界最高峰の舞台で戦いながら進化していく姿に注目だ。
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UFCフライ級ランキングと今後の試合(2025年3月9日付)
(C)Zuffa LLC/UFC
王者 アレシャンドリ・パントージャ(ロイバルに判定勝ち。12.7 朝倉海に2R 一本勝ち)1 ブランドン・ ロイバル(10.12 平良にスプリット判定勝ち、3.1 ケイプ戦を負傷欠場)2 ブランドン・ モレノ(11.2 アルバジに判定勝ち、3.29 エルセグと対戦)3 アミル・ アルバジ(11.2 モレノに判定負け)4 カイ・カラ・フランス(8.17 エルセグに1R TKO勝ち)5 平良達郎(10.12 ロイバルにスプリット判定負け)6 マネル・ケイプ(7.27 モカエフに判定負け後、12.14 シウバに3R TKO勝ち、3.1 アルマバイエフに3R TKO勝ち)7 アレックス・ ペレス(6.15 平良に2R TKO負け)8 スティーブ・エルセグ(8.17 カラフランスに1R TKO負け、3.29 モレノと対戦)9 アスー・ アルマバイエフ(10.19 マテウス・ニコラウに判定勝ち、3.1 ケイプにTKO負け)10 ティム・エリオット(2023.12.9 スムダルジに肩固めで一本勝ち)11 タギル・ウランベコフ(2023.12.9 ダーデンにRNCで一本勝ち、1.18 クレイトン・カーパンターに判定勝ち)12 ブルーノ・シウバ(7.20 ダーデンに2R TKO勝ち、12.14 ケイプに3R TKO負け、3.8 ヴァン戦を欠場)13 ラマザン・テミロフ(3.1 ジョンソンに判定勝ち)14 朝倉 海(12.7 パントージャに2R RNC一本負け)15 チャールズ・ジョンソン(10.19 スムダルジに判定勝ち、3.1 テミロフに判定負け)▼ジョシュア・ヴァン(12.7 ダーデンに判定勝ち、3.8 鶴屋怜に判定勝ち)※元15位