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【ボクシング】フューリーに惜敗のガヌー「この判定はボクシング界の恥」「グローブを合わせたとき、彼は言ったんだ。『さあ、学校に行こうぜ。教えてやるよ』って。誰が誰に教えた?」「今でもMMAが好きなんだ」

2023/10/30 13:10
「あの試合は僕が勝った。疑問の余地はない。だが、ここに来る前から、もしこの試合が判定になったら、僕は勝てないと思っていた」「あれはボクシング界の恥だ。彼らは正当なジャッジをする責任がある」──フランシス・ガヌーが、タイソン・フューリー戦後の会見とSNSで、スプリット判定で敗れたことへの不満を明かし、真の勝者は自分だと語った。 「元UFC世界王者だが、ボクシングは素人。それが短時間のトレーニングで世界王者を追い詰めた」──こう報道された、WBC世界ヘビー級王者タイソン・フューリー(35=英国)と、元UFC世界ヘビー級王者フランシス・ガヌー(36=カメルーン)のボクシングマッチ。  しかし、ガヌーはボクシングにおいても決して「素人」ではなく、「僕はMMAを始める前からボクシングをやっていた。ボクシングからMMAに転向し、時間をかけて自分のボクシングをMMAへアジャストする必要があった」と語っている。その背景には、ガヌーのここまでの軌跡を知る必要がある。  カメルーン・バティエ村の貧しい家庭に生まれたガヌーは、家計を助けるためほとんど学校に行かず、9歳から1日2ドルの日当で危険が伴う砂の採取場で働き生計を立てると、22歳の時に、地元でボクシングトレーニングを開始。病気により1年ほどで止めているが、5年後の27歳で一旗揚げようとフランスに渡り、ボクシングを再開している。  その5年の旅路で、生死の間を彷徨った。 (C)Francis Ngannou  2012年4月にカメルーンを出たガヌー。3,000マイルの道のりをブローカーの車両と徒歩で、ナイジェリア、ニジェール、アルジェリアを通り、飢えと渇きのなか危険なサハラ砂漠を越えてモロッコに到着した。  自伝によれば、「森に隠れ、プラスチックの廃材で雨風をしのぎ、ゴミ箱を漁って食料を手に入れる」も幾度もスペインへの国境超えに失敗。  2013年3月、7度目の挑戦で、モロッコとスペインを隔てるジブラルタル海峡の越境に成功。2カ月後に難民として認められ収容センターから解放され、2013年6月にフランスのパリに到着している。カメルーンから、実に4800kmの旅路だった。  パリでは路上のホームレスとして生活し、ボクシングジムと交渉し、無料でトレーニングを始めるが、ジムが閉まる週末も練習できる場所を探し、「MMAファクトリー」に足を踏み入れた。  オーナーのフェルナンド・ロペス(※元カメルーンのMMAファイターで修斗ベルギー大会にも出場)がガヌーの素質を見込み、ガヌーにジムで寝泊まりすることを許可。2013年から2018年までロペスの下でトレーニングを積んだガヌーは、その後、現在もコーチを務めるエリック・ニックシックがいる米国ラスベガスのエクストリーム・クートゥアーに移籍している。  29歳の誕生日にUFCと契約し、2021年3月の『UFC 260』で、34歳にしてヘビー級王者のスティーペ・ミオシッチから王座奪取。そして、今回37歳でWBC王者のタイソン・フューリーとボクシングで戦った。 [nextpage] ダウン奪取でなぜダンスを踊ったか? グローブを合わせたとき、彼は言ったんだ。『さあ、学校に行こうぜ。教えてやるよ』って。だから── (C)Francis Ngannou  試合は、オーソからサウスポー構えにスイッチも見せるガヌーが、3Rに左フックでダウンを奪い先制。フューリーのクリンチに削られることもなく後半戦に。7Rにもフューリーの入りにガヌーが右フックを合わせて、フューリーをスリップさせる場面を作り、8Rにも再び左ストレートから、近距離での左右フック、アッパーとガヌーは攻勢に。しかし、フューリーも左右にスイッチしてのジャブ、巧みなクリンチでポイントアウトした。  判定は、最初のコールは95-94でガヌーも、2者は96-93, 95-94でフューリーを支持。判定2-1のスプリットでフューリーが辛勝している。  試合前のオッズは、フューリーの1.07倍に比べ、ガヌーは9.20倍と大差のアンダードッグだった。  以前、UFCパフォーマンス・インスティテュートでパンチ力を計測したガヌーは、ファミリーカーが衝突する威力に等しい96馬力を記録し、それまでの最高記録を更新している。そのパワーハンドに注目がいきがちだったが、今回のダウンを奪ったそれは、オーソに戻したフューリーの2度目のワンツーに、ガヌーが左前手のフックをカウンターでシャープに打ち抜いたものだった。  試合後の『CompuBox』のパンチ統計によれば、3Rにダウンを奪われた後、フューリーはジャブで試合を組み立て直し、4R以降、フューリーは28発のジャブと24発のパワーパンチをヒット。トータルではフューリーが223発を放ち71発をヒット、ガヌーは231発を放ち、59発のヒットだった。フューリーはガヌーよりも17本多くのジャブをヒットさせている。しかし、パワーパンチに限ればフューリーが86発中32発を着弾、ガヌーが116発37発が着弾とフューリーよりも5発多くのパワーパンチを打ち込でいた。  試合前のインタビューでガヌーは、「僕は実際MMAを始める前からボクシングをやっていた。だからボクシングからMMAに転向した形だ。時間をかけて自分のボクシングをMMAへアジャストする必要があった。ボクシングは難しい。本当に難しい。距離を作らなくちゃいけない。今はジャブで空間を作ることを勉強していて、反射神経と前進する力を強化してる最中だ。でも次の数カ月でそれらを身につける自信がある。僕には改善の余地がまだまだたくさんあるけど、それをする自信もあるよ」と語っている通り、ボクシングのバックボーンをMMAに活かし、再びボクシングにアジャストをしてきた。  同じタイミングでワンツーを高さを変えて打ってきたフューリーに対して、MMAでも培った近い距離での左を打ち抜いたガヌー。  その左はUFCでもミオシッチから王座を奪ったオーソからのカウンターの左前手の一撃だった。  年間ベストMMAコーチに選出されたエリック・ニックシック、K-1でも活躍した元プロボクサーのデューウィー・クーパーから指導を受け、今回の試合の花道では、マイク・タイソンに加え、同じアフリカ出身の元UFC世界王者カマル・ウスマンとイズラエル・アデサニヤが脇を固めていた。  ガヌーは試合後、自身のYouTubeチャンネルを更新。試合直前のリング上での出来事を明かした。グローブタッチ時、フューリーはガヌーに話しかけてきたという。 「グローブを合わせると、彼は『さあ、学校に行こうぜ。教えてやるよ』って言った。僕は、“このクソ野郎、学校になんか連れて行かれるものか”と。だからこそ、僕が彼をダウンさせたとき、僕は踊っていたんだ。“あんたは悪い教師だよ”って。“誰が誰を学校に連れて行く”って?」  試合後、左目を大きく腫らした顔を見せたフューリー。次のステップとして、12月23日にオレクサンドル・ウシクとの4団体統一戦が行われる予定だが、ガヌーとの試合で傷ついたため、日程が変更になる可能性がある。  フューリーは試合後、「全く予想通りにはいかなかった。フランシスは素晴らしいファイターだ。彼は強く、パンチ力もあり、予想以上に素晴らしいボクサーだ。(ダウンは)ボクシングにはつきものだ。また後頭部をとられた。まあ大丈夫だと思う。前回の試合から11カ月、それだけの長い間リングから離れていた。その影響が見てとれたと思う。錆びついていたことは否めない。しかし、彼は偉大なファイターだったし、いいパンチを貰った。左目の上には傷がある。それがヘッドバットによるものなのかは分からないけれど」と、淡々と語った。 [nextpage] 今でもMMAが好きなんだ。MMAの試合もやるかもしれないけど、ボクシングをやることに変わりはない  ガヌーは判定でも自身が勝利したと感じており、黒星をつけられたことを「これが現実だが、ボクシング界の恥だ」と語っている。 「もし彼が正直者なら、あの試合は僕が勝ったと言うだろうね。あの試合は僕が勝った。疑問の余地はない。でも、ここに来る前から、もしこの試合が判定になったら、僕は勝てないと思っていた。僕が良くなかったからじゃない。僕は新参者だからね。僕はここに来て、人のビジネスを蹴落としたいんだ。世の中には構造化されたビジネスがあり、それを破壊するには多くのことをする必要がある。だからアップセットなんだ。判定で勝てるとは思っていなかった。しょうがない。これが現実なんだ。しかし、あれはボクシング界の恥だ。僕は自分の仕事をする。やれることはすべてやった。ベストは尽くした。彼らは正当なジャッジをする責任がある。次はみんなを納得させられるような試合をしたいね」  2021年3月にウスマン、アデサニヤに続く3人目のアフリカ出身、UFC世界王者に輝いたとき、ガヌーは「ベルトはカメルーンの子ども達のために、どこか公共の場所に掲げて置けたら」と、母国のキッズの希望となることを願った。  着るもの、食べるもの、寝る場所さえもままならなかったMMA初心者時代。国境を越えてチャンスを掴んだガヌーは、カメルーンにガヌーファンデーションを設立、格闘技ジムも建設しており、恵まれない子供たちが格闘技に携わることで、自分自身の人生に責任を持てるようにしたい、と語っていた。  UFC王座戴冠時に、難民であるために様々な機会を得られずも自ら動き、栄光を掴んだ経験から、ガヌーは子供たちに向け、以下のように語っていたことを紹介したい。 「多くの人が自分が経験したのと同じような苦境にいて、つらい思いをしていて、世の中の最低水準に達しない幼少時代を送っている。すべての子どもたちに、せめて、幼少期を楽しめるような機会が与えられてしかるべきであるし、それで大人になったときに、自分自身の人生に責任を持つことができるようになって、自分の人生に自分でちゃんと責任感を持って行動することができるようになる。  だけど……(口を結ぶ)こういう境遇の人はみんな同じ状況であり、それに対して自分は、実際のところ何もしてあげられはしない。でももし、誰かに伝える機会があるのなら言いたいことは、“人生はフェアじゃない”って僕も分かってる、でも信じて行動し続けてほしい。人生がフェアじゃないのは、君のせいじゃないんだ。これもよく分かるんだけど、きっと、時として君は、このフェアじゃない人生を“自分がいけないんじゃないか”って思う時があると思う。でもそうじゃない。  子ども時代に叶わないいろんなこと、たとえばあるスカラシップ(奨学金制度)に応募して落選したからといって、それは君のせいじゃない。君が果たすべき使命なのではなく、そこは両親がきちんとチャンスを与えられないことが問題なのであって、君に責任はない。履く靴がない、それは君のせいじゃない。ペンだとか、いろんなものを持ってない、それも君のせいじゃない。とにかく今の自分にできるベストを尽くして行動するしかない。そうすることで、自分自身にとっての責任を自分が認識することができるんだ」──。  カメルーン人初のUFC世界王者から、最初に始めた格闘技であるボクシングで、世界王者とわたりあったガヌーは、フューリー戦後、MMAの試合の可能性も語っている。  MMA団体のPFLとも契約をかわしているガヌーは、「PFL PPVスーパーファイト」を戦うと見られており、ボクシングとMMAのどちらかを選ぶつもりはないようだ。会見では「またMMAを戦うつもりだ」と語った。 「“コンビネーションさ”。(ボクシングもMMAも)両方できる。両方やることを止めるものは何もない。僕には両方のスキルがある。今はPFLと契約しているし、またMMAを戦うつもりだ。MMAは好きだよ。より快適になった。今でも好きなんだ。MMAの試合もやるかもしれないけど、ボクシングをやることに変わりはない。跨がって1試合だけやって、そのまま出て行くつもりはなかった。そんなつもりはまったくなかった。プランは変わらないよ」。
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