7月28日、『RIZIN.17』さいたまスーパーアリーナ大会・第7試合にて、ライト級相当の71.0kg契約で北岡悟(ロータス世田谷/パンクラスイズム横浜)とジョニー・ケース(米国/MMA LAB)が対戦。
元UFCファイターのケースが1R終了時・TKOで北岡を破り、10月12日に大阪で開幕予定のライト級GPに名乗りを上げた。
しかし、激闘の代償は両者に深く、ケースは右ヒジ骨折の疑い。担架で運ばれた北岡は病院に搬送され、CT検査の結果「異常なし」も、パンクラスイズム横浜の松嶋こよみのコーナー(8月2日・ONE)としてのマニラ入りを大事をとって2日遅らせることになった。
ライト級GPについては、榊原信行CEOが大会後、現時点での出場当確選手としてジョニー・ケース、廣田瑞人をTKOで破ったホベルト・サトシ・ソウザの名を挙げたが、ケースは今回の試合でヒジを骨折した疑いがあるため、検査の結果を待つことに。
アリ・アブドゥルカリコフから執念の判定勝ちをもぎ取った川尻達也については「首の皮一枚つながり」候補の1人に。アブドゥルカリコフの前蹴りを受け噛み合わせがズレていた川尻の顎は「手術は回避」という状況だ。
また、サトシにTKO負けを喫した廣田は「今はやられたばかりであまり頭が回らないですが、『もういいかな』とは思っています」と引退を示唆している。なお、既報通り、Bellatorからパトリッキー・“ピットブル”・フレイレのライト級GP出場は発表済みだ。
この項では、ライト級GP優勝候補の1人と目されるケースと北岡による今回の試合で、何が起きていたのか。あらためて試合の動きを紹介し、ケースの強さと北岡の仕掛けを振り返りたい。
元DEEP&戦極ライト級王者の北岡はMMA70戦を超えるベテランファイター。RIZINでは元UFCファイターのダロン・クルックシャンク、川尻達也に勝利し、矢地祐介、ストラッサー起一(75kg契約)、ディエゴ・ブランダオン、ホベルト・サトシ・ソウザに敗れている。対戦相手のケースはUFC4勝2敗。2014年9月のUFC JAPANで徳留一樹にギロチンチョークで一本勝ち、2018年年末のRIZINデビュー戦では矢地祐介の右目尻をパンチでカットしてレフェリーストップ勝ち。これまでに北岡が敗れている徳留と矢地という2人の強豪選手に勝利している。25勝のうち17勝が打撃による勝利、さらに1Rでの打撃の勝利が14勝と、決定力のある打撃を誇る。また、レスリングベースらしく重い腰を持ち、ダブル・シングルレッグのみならず長い手足を活かした四つからのテイクダウンも得意とする。
1R、サウスポー構えの北岡、オーソドックス構えのケース。身長差は9cm。遠い間合いを取る北岡。ケースは左ロー、長いワンツーを当てずとも牽制。
遠い距離から滑り込むようにヒザを着いてのダブルレッグに入る北岡。足を後方に飛ばしてスプロールするケースだが、北岡はヒザを立てスタンドでの左足へのシングルレッグに移行し、ロープに詰める。
その頭に右でヒジを落とすケース。北岡は再びダブルレッグへ。ケースの右足がロープ外に出るため、ケージと異なり足を投げ出して踏ん張ることが可能に。なおも右ヒジを落とすケース。ヒジをもらわないよう頭を内側に入れるように再び左足へのシングルに変える北岡。
手足の長いケースは北岡の揃った足の右踵を左手で掴み、手前に引いてテイクダウン。右足を掴まれたまま北岡はシングルレッグは外さず。ケースは右足を大きく外に出して踏ん張り、腹の下に北岡を潰し、右手でヒジを側頭部に叩き込んでいく。
片足を掴みながらヒジを連打で受ける北岡。ケースは鉄槌に切り替え、ハンマーフィストを頭部に連続で叩き込む。北岡は左足を手前に引き寄せるが、右足を掴まれて畳まれているため、前にドライブが難しい。右ヒジを連打しながら、レフェリーにストップをうながすケース。しかし北岡もテイクダウントライの動きは止めない。
ついにケースの左手のクラッチを切って右足を外に出した北岡。ヒザ立ちから両足を立ててスタンドに戻すと前方にドライブし、ロープまで押し込む北岡はダブルレッグを狙うが、その左手を掴んでクラッチさせないケース。コーナー際で右足を掴む北岡は左手をダブルレッグで尻下に回そうとするが、ケースは左手を掴む。
左で小手に巻いて差し上げるケースに北岡はついに胸を合わせて両差しに。ケースの上体を立たせて万全の状態でボディロックするが、ケースは長い手足で右手で内無双から北岡の右足を掴み、左足で小外刈で、さらに左の小手を絞り、左側に回してテイクダウン!
ハーフガードで両腕はダブルアンダーフックで胴に回す北岡。左足で二重がらみにするケースに、胸の下についてスイープを狙う北岡。バランスを保つケースに北岡は前方に煽って足を狙いにいく。上体を戻すケース。
背中ごしのクラッチを解き、ケースの脇下を持ち上げて外にある右足をケースの左足に巻こうとする北岡。しかし、そのリフトしたスペースを使って右のパウンドを当てるケース。その際で北岡も左ヒザをニーシールドで内側に滑り込ませ腹に当てフックするとケースの左足首をキャッチ。
右足を巻くためにスペースが必要な北岡はケースの上体を突き放すと、そのスペースでケースは右の拳を4発連打! それを受けながらセットアップを続ける北岡はついに右足を巻くとサドルロックからヒールフック狙い!
それを察知しているケースはすぐに右に身体をよじり背中を見せて足を抜きに。サドルロックは組めなかった北岡。ケースは左足をつかまれながらも右に回転し北岡をまたぐと正面に回って右のパウンド!
足関節を潰された北岡はパウンドを受けながらシングルレッグに切り替え、内藤のび太のように片足を抱えて両足で挟み、股下に入り込みスイープを狙うが、左手のパウンドが長いケースの拳が北岡の顔面に入る。北岡は腕を伸ばしてケースの左腕を手繰りに行くが、そこに合わせてケースは右回転してマウントへ!
強いパウンドを浴びる北岡は背中を預ける形で上体を立てていくとケースはバックに。連打を浴びダメージの激しい北岡だが、ケースの右手を両手で掴んで凌ぐ。しかし、左手の内側からのリストコントロールを外してパウンドに切り替えたケースは左手で鉄槌&パウンド!
ここで正対しハーフガードに戻す北岡は左足を両手で組んで手繰りに行くが、ケースも左肩で北岡の潜りを剥がそうとしてからパウンドに切り替え、連打! なおも足を引き寄せながら、左ヒザを腹に差し込んだ北岡はケースの左足を伸ばそうとするが足が外れうつ伏せに。
背後からケースはパウンド。北岡はケースの左足を掴んだまま、右足はハーフに入れ、仰向けに左足でケースの脇下から刈ろうとするがケースも足は伸ばされず。ゴング。
ダメージの色濃く、疲労困憊の北岡はそのまま起き上がることができず。セコンドに立たされ、肩を借りて自陣に戻るも、コーナーの川村の問いかけにも虚ろで首が座らず後ろのアイスが落ちる。その様子を見て川村と八隅孝平ロータス世田谷代表がストップを決め、タオル替わりのバトンをリングに投げ入れた。
試合後、北岡はSNSで「シバかれまして病院送りになってCT撮りましたが、脳味噌も頭蓋骨も問題無しでした。脳震盪&たん瘤です。諸々沢山本当にありがとうございました。お疲れ様でした!」と検査結果を報告。「頭は異常無しでしたが、RIZINからご心配をいただき明日マニラへの出国は控えて、水曜出国をお願いしました。諸々関係者の方々申し訳ありません」とフライトの身体への影響を考慮し、マニラ入りを延期したことを記した。
また、大会当日の夜はロッキー川村が付き添い。「心配していろんなことをやってくれて、今夜は独りにならないようにしてくれました。薄給で尽くしてくれる、見た目の割に良いヤツです」と感謝の言葉をツィートしている。
あらためて試合を確認すると、際の動きでのケースの判断、その強さが様々な局面で浮かび上がる。そして北岡のセットアップへのトライも。パウンドを受けず足関節を極める距離を作れなかった北岡、作らせなかったケース。そこからのトランジッションも許さなかった。もとよりスタンドでの強さがこの展開を生んだともいえる。
北岡の今回の検査結果は「異常なし」もヒジ打ちも含め、頭部への打撃攻撃が許されるMMAのダメージはその歴史が浅いため、データもエビデンスもこれから蓄積されていくものだ。
ファイターたちは常にそのリスクのなかで、得られるものとの秤にかけて、覚悟を決めて戦っている。今回、コーナーからタオルが投入されたように、願わくは、そのリスクがファイターのその後の人生の豊かさも損なわれないものになるよう周囲は働きかけ、ファイター自身も様々な選択肢を視野に入れてほしい。その選択が次世代のファイターの道を開き、それまで鍛錬を怠らず結果を残しリスクを取り続けてきた者が報われるような環境を、業界は構築すべきだ。
試合後のジョニー・ケースとの一問一答は以下の通り。
ケース「戦わなくてはならないから、骨折しても殴り続けた」
──(三角巾で腕をつって会見)右腕はどのような状態ですか?
「ヒジを骨折しているみたいだ。MRI、CT検査など精密検査をラスベガスに帰ってからするけど、とりあえず今の医師の診断では骨折の可能性があると言うことだった」
──試合のどの場面で痛めたのでしょうか。
「よく覚えているけど、まず、僕はあまりにも鉄槌・ヒジをクリーンヒットしすぎた。彼(北岡)の頭部にまともに当て続けたことに本当に驚いていて、それから最初に思ったことは、『なんでこれで彼は意識を失わないのか?』という不思議な気持ちと、2番目に思ったことは、次第にヒジに痛みを感じ始め、『これは相当マズいな』ということだった」
──北岡選手に勝利してどんな気分ですか。
「勝利したこと自体は最高だよ。僕の対戦相手は最高の選手で70戦以上戦い、何人も素晴らしい選手と戦って打ち破ってきたレジェンドだ。勝てて非常に良い気分だけど、正直に言えばああいった勝ち方で自分がフィニッシュできることも予想できたこと。良い試合だったとは思うよ」
──試合展開としてはどのように感じましたか。
「思っていた通りで、勝てることは予測できていたので良かったけど、僕の対戦相手は本当にタフで“ウォリアー”と言ってもいいような選手で、ほんとうにあそこまで耐えると思っていなかった。あまり僕が彼に言える相応しい言葉はないけど、彼の状態があまり悪いものではないことを祈っているよ」
──あなたも骨折しても殴り続けていたのですか?
「もちろん。戦わなくてはならないから。何があろうと、合計15分の試合時間は戦い続けなくてはいけないので、そういった中でダメージを受けた箇所であっても、どう感じていても、どう動いていても、それが有効ならやり続けて、たとえ100%じゃなくても止めてはいけない。その武器が使えるポジションだったから、いい意味で自分の武器を投げ出さず続けていたよ」
──ライト級GP出場は確実だと思います。どう考えていますか。
「望むところだよ。RIZINと契約した時から、その直後くらいに70kgトーナメントの話は持ち上がっていたので、GPに出てライト級チャンピオンになることは運命的なことだと思っていた。チャンピオンになることがゴールだ」
──10月大会に向けて、今回の怪我から復帰できそうでしょうか。
「準備できるようにするさ。チャンピオンになりたいから、何がなんでもそれに向けて調整するよ」
──ベルトを獲得するまでのトーナメントで、まず誰と戦いたい?
「トーナメントに誰が出てくるか分からないけど、いくつかのマッチアップの中で自分が最高だと思う相手はBellatorのパトリッキー・”ピットブル”(・フレイレ)だ。ただ、彼とであれば、願わくば決勝で当たりたい。誰とでも戦いたいとは思ってるし、RIZINはみんなタフな選手ばかりだから、対戦相手が誰であれ厳しい戦いにはなる。僕がただ望んでいることは、最高の選手と戦うことであり、その点で彼(パトリッキー)を倒すことだ」