MMA
インタビュー

【Bellator】「船だけでは動かない」──戦地から1年8カ月ぶり復帰戦で恐るべき完封試合で王座を統一したアモソフとATTの絆

2023/02/28 18:02
 2023年2月25日(日本時間26日)、アイルランド・ダブリンの3Arena Dublinにて『Bellator 291』が開催され、メインイベントの「Bellator世界ウェルター級王座統一戦」で、ウクライナの正規王者ヤーソラフ・アモソフと、暫定王者ローガン・ストーリー(米国)が対戦。  2020年11月の『Bellator252』以来の再戦は、5Rにわたる熱戦に。NCAAディビジョン1で4度のオールアメリカンに輝いたレスリングエリートのストーリーのテイクダウンをアモソフが完封。上下左右に散りばめた打撃と逆にテイクダウンを奪うパーフェクトゲームで、フルマークの判定3-0(50-45×3)で勝利し、王座を統一した。  ロシアのウクライナ侵攻のなか、母国にとどまり防衛活動を行ってきたアモソフは、王座統一戦に向かったきっかけを、破壊された自宅の地下からBellatorのベルトを見つけ出したときに友人たちからかけられた言葉にあったという。 「『ヤロスラフ、君はこのベルトを防衛しに行かなくちゃいけない』と言われた。長い時間、考えたよ。行くべきか、行かざるべきか。でも多くの人が『行くべきだ』と。だから、僕は行く」  しかし、1年8カ月ぶりの競技復帰でどれだけアモソフがコンディションを戻せているか、疑問符がつけられた5Rの王座戦で、見事なカムバックを見せた正規王者の勝利には、同じくBellatorでミドル級のベルトを巻く同門のジョニー・エブレン(米国)のサポートがあったことが、試合前後のコメントで明らかになっている。 スポーツとして「戦う」ことと、命を守るために「戦う」ことは、全然違う(エブレン)  メインイベント直前に、アイルランド大会のケージサイドでインタビューを受けたエブレンは、大一番に向かうアメリカントップチームの盟友アモソフに向けて、次のような言葉を語っていた。 「ここ(ダブリン)には、(コーナーに入るでもなく)ただただウクライナの友人を応援するためだけに来たんだ。彼はジムでの練習で、自分を押し上げ、影響を与えてくれる存在なんだ。彼は国を守り、家族を守ってきた。それはもし自分もその状況なら同じことをしていただろうと思うけれど、毎日の練習で自分をインスパイアしてくれている彼のこの旅路の一員でありたくて、ここに来たんだよ。彼の歩んできた道のりの中の登場人物として、ここにいる、そして彼を応援するんだ。ただそれだけだ」と、フロリダから異国に駆け付けた理由を語る。  続けて、インタビュアーからアモソフが置かれた状況を聞かれたエブレンは、目頭を押さえて落涙。 「……文字通り、何の意味もないことだ。(彼の祖国では)子どもたちや、女性たち、一般市民が死んでいっているんだ。スポーツとして“戦う”ことと、命を守るために“戦う”ことは、全然違う、それは同じじゃないからだ。彼とのトレーニングは本当にアメイジングで、彼は本当に自分を次のレベルへと押し上げてくれる存在で、だからこそ自分は今、世界チャンピオンなんだ。  彼がジムに戻ってきて、最初にトレーニング再開した日のことを覚えているよ。彼は僕に『会いたかったよ』って言ったんだ。俺も『うん、俺も会いたかったよ』って返した。このウクライナの兄弟ほどに自分を上へと導いてくれた存在というのはいなくて、こうして彼が元のような日常の中で、いや、実際のところ決して普通になんて戻っていないんだけれど、とにかく一緒にトレーニングできる状況になって、彼がこうして今晩ここで、自分の国を代表して戦うということがとても嬉しい。 (アモソフへ)とにかく自分の力を出し切って、試合を楽しんで、そして相手をやっつけてくれ。君は世界一だし、世界一であることをここで見せるんだ、さあ、やるんだ!」と、後押ししていた。  試合は、前述した通り、アモソフが驚くべきMMAの強さや巧さ、勇気を見せて完勝。そこには高校・大学とレスリングを学んだエブレンの協力を含む、アメリカントップチームのサポートの成果が表れていた。 [nextpage] 僕は世界最高のウェルター級選手だと思う。UFCチャンピオンが戦いたいなら──(アモソフ)  試合後、アモソフは「長い間、この時を待っていた。ハードなトレーニングを行い、多くのモチベーションと責任を感じてきたので、試合を終えたいま、リラックスして、母国に良い一日をプレゼントできたと思うので幸せだ」と安堵の表情。  続けて、「ファイトウィークは、ウクライナの状況についてすごく聞かれるから、だんだんプレッシャーになっていったけれど、いざ試合になると、ケージの中でこれほど大きなサポートを受けたのは初めて。アメリカでも応援はあったけれど、今日のようなことはなかった。(ダブリンの会場で)見渡すばかりのウクライナ国旗と声援で、多くのウクライナ人、叔父や友人、多くの人に会った。大きなサポートがあり、とても良いエネルギーをもらった」と、欧州で行われた王座戦を振り返った。  また、Bellatorミドル級世界王者ジョニー・エブレンとのトレーニングについても、「エブレン? ブッ倒してやる! って嘘、嘘(笑)。彼とはとっても仲良しなんだ。本当にいい人でいいファイターで毎日、毎日、いつも一緒に練習した。すごくハードな練習を積んできた。彼はとても良いファイターで、本物のチャンピオンだ。僕らがスパーリングをすると、多くの人が見てくれるし、美しい瞬間だと思う」と、試合復帰に向けて充実の日々を過ごせたことを笑顔で語った。  ローガン・ストーリーを「とても強いファイターだということは分かっていた」というアモソフは、「今回の大一番を「試合前に『この試合は違う』と言っていたんだ。ファイトキャンプが変わってすごく調整が良くなった。とくに前回のローガンとの試合のときは準備期間が短かいなかで、かなり体重が重い状態から落としたからコンディションが良くなくて、今回そういった調整も、練習も、まったく変わったから全然違ったんだ。ATTは最高のチーム。(終始プレッシャーをかけていたが?)それもマイク・ブラウンからの指示に従っていた」と、チームの勝利であるとしている。  会見では、戦火のなかにいるウクライナの人々へのメッセージを問われ、「私の国のために、軍隊のために、ファンのために、2つのゴールドベルトを保持するために戦いました。応援、ありがとうございました。今日は、私の国にとってもとても良い日だったと思う」と語ったアモソフ。  プレリムで試合をした同朋のドミトリー・フリツェンコについても、「今回からBellatorと契約したけれど、昔はいつもウクライナのGermesジムで一緒に練習していた弟分なんだ。今回は一緒に練習できなかったけど、彼はコンプリートファイターでとてもスマートだからもっと伸びるよ。軍人で、前線で戦っているのだけれど、Bellatorと契約して、今や“軍人であり選手である”はウクライナスタイルになりつつある」と、後輩にも期待を寄せている。  ウェルター級のもうひとつの世界の頂きには、カマル・ウスマンを5R、左ハイキックでKOに下したUFC王者レオン・エドワーズ(英国)がいる(※2023年3月18日にウスマンと再戦)。  会見で「この惑星で自身が最高のウェルター級ファイターだと思うか?」と問われたアモソフは、「あなたはどう思いましたか? どうだろうか、自分ではそれは分からないけど、とにかく誰が相手であろうと、自分自身のことを考えている」と一度は語りながらも、「ではベストパフォーマンスだったか?」の問いに、「もちろん、僕は世界最高のウェルター級選手だと思う。僕はここにいる。UFCチャンピオンが戦いたいなら、Bellatorに来ればいい。スコット・コーカー(代表)が契約を結んで、試合をするだけだ」と、Bellator統一王者が、UFC王者に勝るとも劣らない自負を見せた。  試合後、「The ship will not float by itself(船はそれ自体では動くことは出来ない)」と記し、アメリカントップチームのセコンドの面々との写真をアップしたアモソフは、統一したベルトを腰に、再び母国ウクライナに戻ることを語っている。
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