2019年6月30日、東京・新木場のスタジオコーストにて「PANCRASE 306」が開催され、試合直前にセミファイナルの試合の中止が発表された。
当初、瀧澤謙太(リバーサルジム東京スタンドアウト)と対戦予定だったリッキー・キャンプ(グアム)が「親族に不幸があり」試合を辞退。急遽、瀧澤の相手がキルギスのダスタン・オムルザコフに変更されていた。
しかし、前日計量で瀧澤謙太は62.85kg、オムルザコフは69.8kgと6.95kg差があり、試合は無差別級戦に。危険な体重差と物議を醸していた。
さらに大会当日、セミファイナルの「2試合前」に瀧澤に「オムルザコフが血液検査をパスしなかった」ことが告げられ、試合が中止に。バンテージチェックまで済ませていた瀧澤は茫然とした表情で、齊藤直人ドクター、酒井正和代表と共にマットに上がり、試合が中止になったことについて下記の通り語った。
まず、ドクターはオムルザコフが「メディカルチェック(血液検査)を通過せず、選手が安心して安全に試合ができる環境が担保できなかったため試合は中止となりました」と説明。
続いて酒井代表が、「選手が急きょ2日前に変更になりまして、前日の計量問題とか色々あったのですが、瀧澤選手はそれでも試合を決行したいという意志、それもパンクラスとしては尊重しながら、しかしながら今日の血液検査がパスできなかったということはスポーツMMAをやっているPANCRASEとしては、これ以上試合をやることはできないと。で、ウチは選手を守ることが仕事なので。そういった意味では瀧澤選手の応援に期待を込めてご来場いただいたファンの皆様にここはちょっと、この場を借りてお詫びを申し上げたいのと、このあと瀧澤選手にコメントもいただきますが、PANCRASEとしては次の瀧澤選手の試合、チケットを購入いただいたファンの皆様には無料でご招待いたします」とコメント。
続いて瀧澤が泣きながら、「今回、僕のために忙しい中、応援に来ていただいた皆さん、スポンサーの皆さん、ほんとうに申し訳ございませんでした。……計量前日の夕方の5時半にリッキー・キャンプ選手が来日しないという連絡が入り、『71kgの契約で、10kg重い契約だったら、キルギスのダスタン選手を用意できる』と言われ、急遽、試合を飛ばすわけにはいかないし、応援してくれているファンの皆さん、スポンサーしてくれている皆さんの気持ちを裏切るわけにはいかないので試合を受けることにしました。
でも今回、計量で7kg差というので、僕はもう関係ないと思って、どうなろうが必ず倒してやろうと思っていたんですけど、血液検査を通っていないと、今の試合の2試合前に聞いて、もうバンテージも巻いて準備万端に備えてきたのにすごい悔しいです。次、僕のランキング上の選手、やってない選手、やったか。チャンピオンのハファエル・シウバと金太郎選手が7月タイトルマッチが決まっていますけど、次、勝った方と組んでもらえたらと思います。社長、チャンピオンとやらさせてください」とマイクで語った。
最後に酒井代表は「裏切る形で申し訳ございません……でも、PANCRASEを続けていかなくてはいけないので、選手を守らなくてはいけないので、本当にすみません」と、試合中止への理解を求めた。
「世界標準」を掲げるPANCRASEでは、7月大会より王座戦にドーピングチェックを実施予定で、今回の「血液検査」は2017年に改変された「試合出場選手の試合前提出書類」の「B型肝炎に関する血液検査結果及び検査実施免除希望者は誓約書(※どちらか選択可能で必須)」の提出がなかったものとされる。関係者によれば、オムルザコフは現地コミッションに検査を提出も日本では最終確認が取れなかったのだという。
また、前日計量の時点での体重差に関しては、PANCRASEルールでは、「お互いの体重が異なる階級にある場合」は、「2.2kg(5パウンド相当)を超える差があってはならない。両選手の体重差が2.2kg(5パウンド相当)を超える場合には、計量に合格できなかった競技者を失格とし、試合は行われない。再計量時の体重超過が2.2kg以下であれば、相手の競技者が承認した場合に限り、キャッチウェイトにより試合は行われる」とされ、「契約体重で行われる試合においては許容重量、キャッチウェイトは一切許容されない」と記されている。
今回、瀧澤は当初バンタム級(61.2kg以下 ※+0.45kg=1ポンドオーバーの61.65kgまではOK)でキャンプとの試合が予定されていたが、キャンプが緊急欠場。代替選手を探した結果、「無差別級」戦に変更され、上記の体重超過の際の2.2kgルールが適用されなかったと考えられる。
新体制下において、試合当日の戻し体重で6kg以上の差がある試合はこれまでも実施されているが、前日計量の時点では、上記ルールにのっとりイコールコンディションに近い形で試合に臨む形が徹底されてきただけに、バンタム級の選手による体重差約7キロの「無差別級」戦が組まれたことは、再考すべき課題といえる。
手間と時間と資金をかけて入念な準備を積んできた選手にとっては、周囲やスポンサーの期待もあり、試合キャンセルの選択をすることは困難なものだ。興行としてもセミファイナルの試合が無くなることは避けたいことだろう。しかし、安全面の強化についての理解がファンの間で深まることで、その姿勢が支持され、よりビジネスとしても発展していくことは、MMAの歴史が証明している。
今回、PANCRASEがオムルザコフを急遽来日させるも、「血液検査」の確認ができていないことで試合を中止とした判断が評価され、3月にシウバに一本負けしている瀧澤があらためて王者に挑むに相応しいと認められる実績を積んでいくこと──そのプロセスを格闘技ファンが支持することを願ってやまない。
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