現役生活にピリオドを打つ松崎(C)KNOCK OUT
2022年9月23日(金・祝)東京・後楽園ホール『KNOCK OUT 2022 vol.5』にて、引退セレモニーを行う四冠王・松崎公則(STRUGGLE)のインタビューが主催者を通じて届いた。
松崎は特にスポーツ歴もなく、25歳でキックボクシングを始めてアマチュアで試合を経験し、2007年2月に33歳でプロデビュー。様々な団体に上がって勝ったり負けたりを繰り返しながらも2012年4月、WPMF日本スーパーフライ級王座決定戦を得意のヒジ打ちによるTKOで制し、初のタイトルを獲得した。
同タイトルは2度目の防衛戦で失ったが、2015年にREBELS-MUAYTHAIフライ級王座、2016年に同スーパーフライ級王座、そして2017年にはJ-NETWORKスーパーフライ級王座を獲得して“四冠王”に。江幡睦、小笠原瑛作、安本晴翔、大﨑孔稀、花岡竜といった現在トップクラスの選手たちとも拳を交えてきた。今年3月の松崎公則戦が最後の試合となった。
若い選手に伝えたいのは、『とにかく続けるのが大事』ということ
(写真)最後の試合となった阿部晴翔戦
──9・23後楽園ホールで引退セレモニーが行われるわけですが、キックボクシングを始めてから現役生活までは、最後の試合となった3月の阿部晴翔戦の時にも振り返っていただきました。あの試合を終えてからは、どんな変化がありましたか?
「気持ちの切り替えは、あまりうまくいってないかもしれないですね。今イチどうしていいかよく分からないというか(笑)」
──では、気持ちはまだ現役ファイターの部分が残っている?
「ちょっと中途半端ですね。やめきれてないというか、今の状態になれてないというか。それをちょっと、今度のセレモニーで切り替えようかなと思います」
──現役としてリングに上がっている間は、日々緊張感だったり、日常生活とは違ったさまざまな感情があったと思います。それがなくなって寂しい、物足りないといった気持ちはありますか?
「やっぱりありますね。普段の生活に目標がないというか、今イチやる気が出ないというか。すぐ練習をやめちゃうと太ったりして体によくないので、一応やってるんですけど、それもモチベーションがあまり上がらないですね」
──そうですよね。今はストラッグルジムでインストラクターをやられているということですが、それは現役の時からのことなんですよね?
「はい、もう5年ぐらいはやってますね。今は、現役の時よりは入る時間を増やしました。やることは特に変わらないんですが、教えるのにより集中できて、指導する相手のことも以前よりよく見えるようになったような気はします。これからはパーソナルとかもやっていけたらいいなとも思っています」
──松﨑さんの場合はキックボクシングを始めた年齢が遅くて、そこから4本もベルトを巻くまでに至ったということで、かなり特殊な現役生活だったと思います。トレーナーとしては、早くから始める選手たちも見ていらっしゃると思いますが、そこで思うこととは?
「彼らが続けてくれるかどうかというのが一番心配ではありますね。若い方が体は元気なんですけど、教えたことがすぐにやれる人もいれば、やれない人もいますよね。うまくやれない時に、若いからすぐやめちゃうという人も多いんですよ。そういうところをうまくフォローして伸ばしていけたらと思います」
──ジェネレーションギャップを感じたりも?
「まあ、話してるとよく分からない話題が出てきたりもしますけど(笑)、ずっとそうだったので、こっちはそんなに気にならないですけどね。相手は気になってるかもしれないですけど」
──「最近の若いヤツは」みたいなことを思うこともありますか?
「いや、自分も若い時がありましたからね(笑)。そこは若い、若くないじゃなくて、人としてダメなことはダメというか。若い時は『最近の若いヤツは』って言われがちなものですけど、ひどくなければ大丈夫ですよ(笑)」
──トレーナーとしての目標みたいなものはありますか?
「チャンピオンを育てようとかよりも、いろんな人にキックボクシングを楽しんでほしいという気持ちの方が強いですね。いろんな立場の人がいるし、自分の周りには同年代とかもっと上の年代の方もいらっしゃるんですけど、楽しんでもらうことを一番に考えています」
──松﨑さんのように続けていくには、何が必要なんでしょうか?
「目標を細かく立てすぎると、ちょっと崩れたらすぐに諦めることになるので、目の前の目標をコツコツやっていって、まずそこを見るというのが一番いいのかなあと思います。僕は年齢も年齢だったので、目の前の目標、つまり次の試合しか見てなかったんですが、そうしていたから続けられたという部分もあるとは思います」
──ただその中でも、結果が出ない、調子が悪い時期が続くこともあったと思います。その時はどう対処されたんですか?
「そうですねえ。そういう時はつらかったし、それでイライラすることもありましたけど、それも全部練習にぶつけた感じですね。練習すらハマらなくて困ったこともありましたけど、その時も頭を真っ白にしてとにかく練習すると。そしたらよくなることもあったので、とにかくやること、とりあえず続けるということも大事かなと思いますね。その中で見つかることもあると思うので」
「自分の場合は、キックボクシング以前には何かをやり始めても続かないことも多かったので、キックボクシングだけは続けようという思いもあったんです。うつ病とかもあって、うまくいかない時期もいろいろとあったから、逆にキックは続けられたんじゃないかなと思います」
──多くの選手は若くから始めて、一般的にはその方が絶対的にいいと思われがちですが、そうと決まったわけでもないよということを示した現役生活でしたよね。
「若くから始めた方が、結果は残しやすいとは思うんですけど、いろんな経験があるからこそ続けられる部分というのもあって、それだけに自分の中に得られるものは多いのかなとも思います」
──今、改めて現役生活を振り返るとすると、どういうものでしたか?
「ひと言で言えば、本当に『続けられてよかった』『やってよかった』ということに尽きると思います。今、ツイッターで現役時代のことを順に書いていってるんですが、そのために振り返っていると、やっぱりいろいろ思い出しますね」
──さて、後楽園ホールではいよいよ引退セレモニーとなります。最後のリングにあたって思うことは?
「やっぱり自分の区切りということと、みんなへの感謝ですね。自分はそんな派手な選手ではないですが、多くの方がコツコツと応援してくださって、本当に損得とかそういうのは抜きだったと思うんですよ。その皆さんには本当に感謝しかないですね。これからもよろしくお願いしますと」
──では最後に、今の選手、これからの選手たちに改めて伝えたいことは?
「今は強い選手がたくさん出てきていますから、その中で戦っていくのは大変だとは思いますけども、今はそんなに注目されていなくても、続けていけば必ずチャンスが巡ってくると思うので、とにかく諦めずに頑張って続けてほしいと思います」
「つらいこともたくさんありましたけど、今、トータルで考えると、楽しかったと思いますね」
──それは何よりです。ありがとうございました。お疲れ様でした!