2005年6月にプロデビュー、69戦のキャリアを持つ日菜太(C)KNOCK OUT
2022年3月12日(土)東京・後楽園ホール『KNOCK OUT 2022 vol.2』にて、KNOCK OUT-BLACK -72.0kg契約3分3R延長1Rで対戦する日菜太(クロスポイント吉祥寺)とサッシス(カンボジア)のインタビューが主催者を通じて届いた。
日菜太は2005年6月にRISEでプロデビューし、満15周年を迎えた大ベテラン選手。2008年7月に初代RISEミドル級王座、2013年4月にREBELS初代王座を獲得。K-1 WORLD MAXや新生K-1 WORLD GPにも出場し、アンディ・サワー、ジョルジオ・ペトロシアン、アンディ・リスティー、アルバート・クラウスら世界トップクラスと拳を交えてきた。
2021年2月、REBELS最終興行で海人との世代交代を懸けたREBELS-BLACKスーパーウェルター級タイトルマッチで敗れて「今日で区切り付けます」と引退を示唆していたが、11月に練習を再開。自身のSNSにて「来年で闘うことを終わりにします! コロナ禍もあり色々な人が見に来れなかった試合で辞めるのはやっぱり良くないって思いました」と2022年を最後の年にすると宣言していた。
サッシスは元カンボジア・ウェルター級王者の肩書きを持つ35歳で、戦績は55勝(23KO)20敗。2015年1月の日本初ファイトではTOMOYUKIに判定で敗れたが、同年に行った2試合は勝利、2019年9月にも勝利を収めている。2021年7月にKNOCK OUTに初参戦したが中島弘貴に初回KO負け。北海道在住ファイターだ。
日菜太「今年はいい緊張感を持ってやり抜きたい」
──先日のカード発表会見では、日菜太選手の発言が意外な方向に進んでましたね。
「そうですか?」
──「僕がこんなことを言うようになるとは……」の連発だったじゃないですか。面白かったんですが(笑)。話しているうちに気付いたことがあったんですか?
「『年取ったんだな……』ということに気付きましたよね。18歳でデビューしてずっとやってきて、選手をやってると自分の年齢が分からなくなってくるんですよ。それで、子どもが生まれて自分の時間が取れなくなって忙しくなってきた時に、ふと『ああ俺、36歳になるんだ』と思って。そしたら一緒に練習してる子の中には18歳とか16歳という子もいるわけじゃないですか。その時に、『あー、年取ったなあ…』って思いましたね(笑)」
──まあ、人間だから年は取りますよね。ただ、日菜太選手の場合は若い選手にも体力的に勝てないとか、そういうことはないように思えるんですが。
「昔とは違うんだという切り替えは、今はすごくできてるんですよ。練習とか追い込みで、1回1回の強度は全然昔と変わらずできるんですけど、それが続けてできなくなってるんですね。昔は週6でやれたけど、今は週5だったり4日半にしたりして、休む日を作らないと体がもたなくなってきたというか。でもその分、経験値だとか、単純なパワーとかは若い時よりもついてきてるんじゃないかとも感じてます。そういうところで成長も見えるので、そこを差し引きして、最終的に過去最高の自分を作り上げて、すげえ強いヤツともう一回だけやりたいなっていう思いはありますね」
──そこを見据えて、今の段階ではどこまでできるかというのを見据える試合でもあるわけですね。
「はい。この1年間、今までのような練習をやらなかった中で、試合でどれだけ動けるかっていうのは、正直やってみないと分からないですからね。だから毎日、できることを練習しているという感じです」
──ちょっと気になったのは、気持ち的には一度、ほとんど切れたわけですよね。
「そうなんですよ。海人戦が終わって山口会長から『今までおつかれさん』って言われて、『俺はもうこれで終わりなんだな。次は引退試合か引退セレモニーだな』と思ったんです。そこで、キックをやる気は完全になくなって、最後のけじめだけ声がかかったら出ようかというぐらいで。それから1カ月ぐらいは何もやらなかったですね。近所をランニングしたり、体が落ちるのがイヤだったから軽い筋トレぐらいはしてましたけど」
──気になったというのは、その状態から、リングに上がるテンションまでまた戻せるものなのかなということです。
「ずーっと同じことを繰り返してきたというのが練習での僕の強みだと思ってたんですけど、「そういう生活って楽しかったんだな』って、一回離れてみてまた戻ってきて、思ってますね。やっぱり俺は練習が好きだったし、キツい思いをするのが好き…だったのかはよく分からないですけど、格闘技をやってる時は楽しいんですよ。そういう意味では、今はまた楽しく練習できてます」
──また新鮮な気持ちに?
「そうですね。離れてた時は、ガラにもないことをちょっとだけやったりもしてたので」
──というと?
「引退後、ジムを開いたりした時に、格闘技だけじゃ心もとないなと思ったので、サポートを受けていたストレッチ店で3カ月ぐらい働いてたんですよ。ストレッチを習って、お客さんに施術もしてて」
──そうだったんですか!
「ストレッチ店を自分のジムで並行してやれたら、若い選手のちょうどいいバイトになるかなと思って。俺が教えたりもできますしね。自分の体のケアという意味でもちょっと勉強したくて、その目的もあったんですけど、自分でやってみないと、将来人に『やれ』とも言えないなと思って。まあ、楽しかったし、いい切り替えにもなりました」
──そういう経験も経て、また新たな気持ちで試合に臨むと。
「俺の中では、今年1年で区切ってやろうと思っています。でもこの試合をやってみて、『動けないな』とか『いい試合できなかったな』となったら、『応援してください』とも言いづらいじゃないですか。もしかしたらそうなるかもしれないですけど、『もう一回見たい』と言ってくれた人もたくさんいたし、いい感じで伸びてる部分も感じているので」
──では以前よりもさらに、一つひとつの試合が大事になってきますね。
「そうですね。僕は練習が仕事で試合が給料日という感覚で、年間3~4試合をノルマに何年も何年もずっと戦ってきたので、それが1年間なくなった時に、『あー、仕事してねえな!』っていう思いがすごくあったんですよ。だから今回は久しぶりに『これから仕事するな』っていう気持ちがありますね」
──そんな中でのサッシス戦ですが、試合の中でのテーマみたいなものはありますか?
「今回は相手が誰だろうが関係ないんですよね。自分がどれだけ動けて、どれだけ自分のスタイルの戦い方ができるかということなので。いい勝ち方で、当然のごとく勝てるようにやるだけですね。アンディ・サワーが去年のONEでマラット・グレゴリアンとやって引退したみたいに、あんな試合を最後に俺もやりたいなと思ったんですよ。あんな、200戦近くやった超名選手が、最後に一番強い選手とやるっていうストーリーはいいですよね。俺も69戦やってきたので、最後に強い、いい選手とやりたいなと思って。格闘技って、中途半端に残ろうと思えば、レベルを落として残れる面もあるじゃないですか」
──確かに、名を成した選手なら特にそうですね。
「そういうのはよくないなと、俺はずっと思ってたんですよ。最後の最後までトップどころとやれる状態で終わりたいなという思いがすごくあるので、そこはブレずにいきたいですね」
──「自分がどこまで動けるか」という話がありましたが、ご自分の中で、動けているかどうかのバロメーターみたいなものはありますか?
「やっぱり、しっかり蹴れているかどうかじゃないですかね。これまでも、蹴れない試合は内容も結果もよくないことが多かったので。でもホントに、僕は1年も試合をしなかったことがなかったし、試合はフタを開けてみないと分からないので、不安な部分もたくさんあって。SNSで、『1年前の思い出』みたいなのが表示されるじゃないですか。つい先日、それで『あ、1年前の今日は海人選手とやってたんだ』と思って。でも僕にとってあの試合は、数多くある試合の一つとしかとらえてなかったんですよ。特別な思いというのは何もなくて」
「ホントにたくさんある試合の一つとして、特別感もなくやってしまって。モチベーション的にも特別に高いというわけではなかったんですよね。試合をやりすぎて、一つひとつの試合に対するモチベーションを高く保つのが難しくなっているなとも思えて。だから今年はいい緊張感を持ってやり抜きたいですね」
──リミットを決めて、そこまで走っていくという決意がいい効果を生んでいそうですね。
「ホントにダラダラやっちゃダメなんですよね。って、俺が言っちゃいけないんでしょうけど(笑)」
──いえいえ、日菜太選手の場合は年数と試合数に中身も伴っているわけですから。
「いや、俺はいつも大事なところで勝てなくて、ここぞというところで落としてきましたからね。でもこの10年間以上、本当に世界のトップとやり続けてきた日本人は俺だって自分で信じてるので、最後の最後までそこに噛みついていきたいなと思ってます」
──そして、今年の2~3戦で、最後に特別な試合を実現できるだけのものを見せないといけないと。
「まさにそうですね。2~3試合でそういう試合を見せて、最後の試合を組んでもらえるように、強い相手を呼んでもらえるように、周りの人たちに認めてもらいたいなっていう、『査定』ですよね。『僕の最後のわがままなので、応援してください』って言ってるぐらいなので(笑)」
──では最後に、今のお話も全部引っくるめて、今回の試合で一番注目してほしいポイントはどこでしょう?
「1年ぶりの試合でどれだけ動けるのか、『この1年、日菜太の試合は全部見たいな』と思ってもらえるような試合をするつもりなので、1年間追っかけるきっかけになってもらえればと思います」