2022年2月11日(金)シンガポール・インドアスタジアムにて「ONE: BAD BLOOD」が開催され、ONEストロー級(※水抜き禁止の56.7kg)で、猿田洋祐(和術慧舟會HEARTS)とグスタボ・バラート(キューバ)が対戦する。
猿田は、半年ぶりの再起戦。2017年10月に修斗世界ストロー級王者となった猿田は、2018年12月からONEに参戦。いきなり元ONE世界ストロー級王者アレックス・シウバを判定で破ると、2019年1月に王者パシオと初対戦。猿田がスプリット判定で勝利、ONE世界ストロー級王座を獲得した。
しかし、3カ月後の2019年4月のダイレクトリマッチで、パシオに4R KO負けで王座陥落。その後、2019年10月にPANCRASE王者・北方大地に2R TKO勝ち。2020年9月に内藤のび太に判定勝ちで2連勝。2021年9月にパシオとの3度目の対戦も、1Rに右ストレートを浴び、左右ラッシュからパウンド連打でTKO負け。戴冠はならなかった。MMA21勝10敗3分。
対するバラートは、MMA9勝4敗。グレコローマンレスリングのオリンピアで、2012年のロンドン五輪グレコローマンレスリング55kg級準々決勝進出、パンアメリカン・グレコローマン・レスリング3度王者の戦績を持つ。ONE参戦後、和田竜光、チャン・ロタナ、ロビン・カタランと強豪相手に3連敗を喫したが、ATTに所属し、2021年7月に澤田龍人に判定勝利。ONE初白星を掴んでいる。
自身より10cm低い相手と戦う猿田は、グレコのみならずダブルレッグテイクダウンや、サウスポー構えからの左の強打も持つバラートを相手に、いかに持ち味を出せるか。進境著しいバラートは難敵となりそうだが、ONEのインタビューで、「オリンピックレベルの選手と戦えるのは光栄だし、自分を試したいなって気持ちがあります」と語っている。
なお、同大会で予定されていた長谷川賢vs.ムラット・ラマザノフ戦は長谷川の負傷により中止、あらたに山口芽生が出場し、ジヒン・ラズワンと対戦することが発表されている。
試合の模様は、2022年2月11日(金)の午後7時(日本時間)よりABEMA格闘チャンネルおよびONE公式アプリにて配信される。
パシオ戦は戦略をイメージした分、闘争心が少なかった。今回はそれを全面的に出していく
──あらためて、20219月の前戦ジョシュア・パシオ戦を振り返ってどのように総括していますか。
「試合自体は、1ラウンドでフィニッシュされてしまったけど、試合結果以外については後悔していなくて、試合に向けた準備とかの面については充実したものでしたし、自信もありました。でも、勝負っていうのは一瞬で決まってしまいますし、勝ち負けが必ず着くものですので、しっかりこの結果を受け止めてという気持ちでした。さらに、次の目標をどこにしようかなって思っていました。前回は1年ぶりの試合、海外に行くのは約2年半ぶりでした。入場前に久しぶりに帰ってきたなっていう気持ちと、逆にどうやって自分は試合前にスイッチを入れていたかなって感覚をとり取り戻せない部分もあった。今回は間隔が空かずに試合のオファーをもらえたのは嬉しかったですね」
──「試合結果以外については後悔していない」という取り組みのなかで学んだことはどんなことでしょうか。
「試合前のスイッチが中々入らなかった点で、戦略だったり戦術の部分を意識しすぎたなと。もうちょっと戦う気持ち、闘争心が割合的に多かったらよかったのかなって思いました。セコンドの大沢(ケンジ)さんからも言われました。長い時間かけて研究してきたので、頭の中でやることをイメージしていたので、相手をフィニッシュするとか、倒しに行くっていう闘争心が割合的には少なかったのかなって思います。今回はその部分を全面的に出していこうと思います」
──ある種、落ち着き過ぎていたかもしれないと。今回のグスタボ・バラート戦のオファーを聞いた時はどのように感じましたか。
「一番最初は、リト・アディワンとの試合でオファーがあったんです。また、チームラカイってことで厳しい戦いになるなって予想していました。アディワンも、ジャレッド・ブルックスには負けてしまいましたけど、自分の中ではすごく強い選手でトップレベルの選手だと思っていたので楽しみでもあって、勝負したいと思っていたけど、怪我で流れてしまいました。その後すぐにグスタボ・バラートで話がきました。彼のスタイルは、他の選手と全然違うのですが、リト・アディワンより強いんじゃないかっていう感覚もあり、喜んで試合のオファーを受けました」
──ロンドン五輪グレコローマンレスリング55kg級ベスト8という今回の対戦相手バラートの印象を教えてください。
「唯一無二の選手。彼みたいな選手は世界に1人しかいないと思います。自分もストロー級で言えば小さい方なのですが、自分よりも骨格が小さい選手を見たことなかったですね。あとは気持ちの部分が強いなって。以前、タイでの大会を見に行った時にフライ級で彼が戦っていて、20cm以上リーチの差があるような選手と戦っていて、最後まで打撃を振り回してタックルして、会場が盛り上がる試合をしていたので、前から気になっていました。ストロー級に落としてくるんじゃないかなって思いましたし、戦うことがあるんじゃないかなとも思っていました。戦ってみたいなって。彼は見ていても応援したくなっちゃうというか、試合を見るとファンになっちゃうような選手、そんな魅力のある選手だなって思います。
それに彼は、元オリンピックのレスラーじゃないですか。自分は格闘技を始める前に、世界レベルのアスリートになること、例えば、オリンピック選手に憧れていました。この歳になって、オリンピックレベルの選手と戦えるっていうのは光栄だし、自分を試したいなって気持ちがあります」
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オリンピアンをテイクダウンする自信は「ある」
──元五輪レスラーに対して、自身のテイクダウンには自信がありますか。
「あります。あの位の身長で、あのレスリング力のある練習パートナーを見つけるのは難しいじゃないですか。だから、そこは本当に向かい合ってみないと分からない。ただ、MMAの経験値というのは、僕は15年やってきましたし、色々な選手と戦ってきました。戦略もパターンも色々と考えているんですが、試合ってその通りに、うまく行かないことが多いので、試合の中で修正して勝ってきたことの方が自分は多い。その部分が活かせるかなって思います」──バラートの強み、弱みはどう分析していますか。
「強みは振り回してくるパンチとタックル、レスリング力。自分のタックルを生かした動き。タックルを混ぜたコンビネーション。あとは打撃をもらっても退かない精神が印象に残っています。あの振り回してくるパンチとレスリング力は、自分の体格を活かした攻撃をしっかり理解している。例えば、頭をしっかり下げながら、タックルフェイントのような意識を下に散らしながらの攻撃。それと、タックルを混ぜたコンビネーション、突進力。打撃をもらっても後退しないっていう、前に出続ける精神力。ただ、一つひとつのパワーはあれど、パンチの種類や攻撃のパターンが少ないのが弱みかなと思います。その中でも、それをやり通す力がありますが」
──得意な動きを「やり通す力」、フィジカル、メンタルが強いと。
「一番気をつけなければならないのは、気持ちの部分ですね。もちろんパンチとか組技も大切なんですけど、自分が彼のプレッシャーに下がるような展開になってしまうと、5分3R、ずっとそれをやり続けられて負けてしまうので、逆に自分から仕掛けて相手を下がらせるような策を見せたいなって思います」
──グラウンドでの戦いになったらどんな攻防になると想像していますか。
「今まで自分が戦ってきた中で、自分にタックルで入ってくる選手ってあまりいなかったです。逆に自分が打撃メインの相手に対して、タックルしていくというのが多かった。15年格闘技をやってきて、自分が背中を着けるっていうのはほぼないので、キープされないとかグラウンドでやられるっていうイメージは僕の中にはないです。(相手のグラウンドでの)技術はそんなにないと思うんですが、身体が小さくボールみたいな、丸い感じなので押さえ込むのは結構難しいと思います。隙間から抜けられるというか。それが彼の強みでもある。ただ、それを研究して彼をグラウンドでコントロールするテクニックはあります」
──猿田選手のアドバンテージはどこにあると思いますか。
「経験値と、バリエーションの多さですね。場面場面において色々な選択ができる。色々な攻撃に臨機応変に対応しながら戦えることだと思います」
──猿田選手より10cm小柄という体格差は、どう捉えていますか。
「打撃でいうとリーチ差があった方が有利。ただ、あの体格の小ささは彼しかいないっていうのが一番大きいです。低いって言っても5cmとかだったら良いですけど、彼は向かい合ってみないと分からない怖さがあります。スパーリングパートナーが中々用意できないのが難しいところでした」
──想定練習が大変だったと。バラート戦に向けて特に練習してきたことはありますか。
「自分と体格が変わらないくらいのサウスポーと練習しました。それで、スパーリングやテクニック練習をしてきました」
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無理に面白い試合をするのではなく、自分が勝ちにこだわって必死な姿を見せる
──どんな自分をこの試合で見せたいですか。
「もちろん、前回見せられなかった部分を見せたいし、前回よりも良い試合を見せたいとは毎回思っています。子どもが生まれて、家族のために頑張ろうという気持ちになるのかなって思っていたのですが、意外と変わらなくて。まだ赤ちゃんと一緒には住んでいないんですが、毎日写真見たりして可愛いなって思います。今奥さんが実家に帰っていて、自分は一人暮らしなんですね。それが1カ月くらい経ちました。
それで初心に帰ったというか、結婚する前に似た気持ち、格闘技だけを考えていた時の気持ちになっていて、狂った部分というか、狂気が目覚めてきた。研ぎ澄まされてきたなって感じています。家族のことを考えることはもちろんですが、今は格闘技のことを考える時間が増えたし、集中できている。勝利に飢えている。ずっと観客を楽しませるというか、勝ちにこだわってONEにきたので、その気持ちに戻って、自分の気持ちを見せられる試合にしたい。そうすれば、自然と周りが楽しんでくれる。無理に面白い試合をするっていうのではなく、自分が勝ちにこだわって必死な姿を見せる、そんな試合をバラート選手とできれば面白い試合になると思います」
──どんな展開を想定していますか。
「もちろん良いイメージは持っているんですけど、激闘になると思っています。シーソーゲームになるのかなって。向こうが攻め込んで、自分が我慢する展開もあるし、逆にバラート選手が疲れてきたところで自分がグッと攻める展開もあるだろうし。激しい試合になると思いますね。苦しい試合になるという覚悟はあります。最後は、フィニッシュですね。打撃かサブミッションでフィニッシュする。そうすれば、自分の次の目標とか、ゴールに向かって良いアピールになると思いますので、狙っています」
──王者がジョシュア・パシオ、1位がボカン・マスンヤネ、2位がジャレッド・ブルックス、3位に猿田選手、4位が箕輪ひろば選手、5位にアレックス・シウバという、現在のONEストロー級についてどう感じていますか。
「盛り上がってきましたよね。ジャレッド・ブルックスが来て。彼のことは、5、6年くらい前から注目していたんです。HEARSで練習したことがあって、その時に自分がストロー級に階級を落として間もない時、修斗のチャンピオンにもなっていない時でした。本当に衝撃を受けましたし、練習してこんなに強い奴が同じ階級にいるんだって思いました。そんな風に思ったのは初めてでしたね。去年ONEに来るって聞いて、運命を感じました。約5年前に衝撃を受けて、あんな奴がいるんだってターゲットにしてきた相手だったので、彼とやるチャンスがあるんだったら、やらないと終われないなって気持ちがありますね」
──今の目標は……。
「前回の試合が終わってずっと考えていたんです。ベルトを目指すのか、またパシオと戦うのか。4回目ってあるのかなって、本当にそれを自分がやりたいのかなって。あとは、最後は日本に帰ってきた方が良いのかなとか。周りに色々な意見を聞いたりしながら過ごしていました。今の気持ちとしては、前回がああいう負け方だったので、すぐにタイトルマッチとは言えないですし、勝ってすぐにアピールする気もないです。でも、やっぱりONEに来た目的って、日本じゃ戦えない世界の強い選手たちと戦ってみたいっていう気持ちが強かったからONEと契約した。まだ戦っていない、ランキング内の選手、ランキング外の選手もたくさんいるので、そういう選手を一人ずつ倒していきたいなって気持ちがあります。
それを勝っていくことによって、またタイトルマッチが見えてくるのかなって、違う目標が見えてくるのかなって思います。ストロー級のワールドグランプリをやって欲しいなって思います。ストロー級の層が厚くなってきたと思うので、グランプリをやったら面白くなると思いますし、ジャレッド・ブルックスが来たことによって、さらに注目度も上がってきたなって思うので、面白いんじゃないかなと思います」
──ONEでは5万ドル(約570万円)ボーナス制度が新たに出来ました。
「5万ドルって大きいですよね。モチベーションにも良い影響を与えていると思います。ストロー級でそれだけのファイトマネーをもらえる団体って他にないと思いますし、この一番軽い階級で。夢があるし、それによって日本人選手もそこを目指したいとか、そういう舞台で戦いたいっていう夢が生まれてくると思うので、すごく嬉しいですね」
──最後に、ファンに向けてメッセージをお願いします。
「前回の試合が自分のやりたいことがなかなか出せずに良い結果も出せなかったんですけど、引き続き、こういう良いオファーをもらったので、気持ちを切らすことなく全力で準備をしてきました。見てくださる方の中にも、年齢的に、もう引退した方が良いんじゃないかっていう方もいると思うんですけど、自分の中ではまだ選手として終わっていないですし、何も諦めていないです。このバラート戦に勝って新しい始まりにしたいと思っています。気持ちの込もった激闘になると思うので見てくれたら嬉しいですし、応援してくれたら嬉しいです」