2021年4月15日、ONE Championshipが米国のTNT(ターナー・ネットワーク・テレビジョン)とジョイントして試合を放送する「ONE on TNT」シリーズ第2週の「ONE on TNT 2」が配信された。
同大会では、日本から中原由貴(マッハ道場)と上久保周哉(TRI.H studio/頂柔術)が参戦。ともに勝利を挙げている。
しかし、中原の場合は相手の「反則」による勝利と、ほろ苦いものだった。
中原は、ONEデビュー戦でエミリオ・ウルティアにTKO勝ち後、2戦目でゲイリー・トノンの足関節に一本負けし、ニューヨークでトノンが所属するヘンゾ・グレイシーのジムに出稽古。トノンの師匠ジョン・ダナハーのレッグロックシステムを学んできた。
帰国後、2020年12月の前戦では、12勝無敗のラスラン・エミルベクを見事1R TKOに下し、ONE戦績を2勝1敗としている。
今回の試合前に、本誌のインタビューで中原は、「いままで取っておいたものを見せるかもしれないというのと同時に、そろそろ本番でテストしておかないと、いざってときに使えないんじゃないかな」と、封印していた寝技を解禁する可能性があることを語っていた。
予告通り、そのチャンスは訪れた。
モンゴルでボクシング代表としても活躍する4連勝中のシネチャツガ・ゼルトセトセグを相手に、ノーモーションかつパワフルな打撃を掻い潜り、中原はダブルレッグを金網までドライブしてテイクダウン。
しっかり背中を着かせてマウントを奪取すると、パウンド・ヒジを打ち込み、ダメージを与えてから、相手の左の差しに合わせて外がけから内ヒールフックへ。前転して股の間に潜ると、パウンドを狙うゼルトセトセグに尻餅を着かせ、ヒザ・踵をさらに絞っていく。
中原が左足を脇に挟み直したところで、ゼルトセトセグは右足を振り抜いて寝ている中原の顔面をキック。
ルールを把握したうえで足を極めに行った中原は、思わずレフェリーを見やると、すぐにオリヴィエ・コスタレフェリーも間に入って試合をストップした。
グラウンドポジションでの頭部へのヒザ蹴りが認められているONE Championshipだが、寝た状態での蹴り、サッカーキックは禁止。しばしの中断を経て、中原のダメージを確認したレフェリーが試合続行不可能と判断、ゼルトセトセグにレッドカードが提示され、中原の反則勝ちとなった。
この裁定を受けてゼルトセトセグは「回転して足を抜こうとしたときに起きてしまった」と説明したが、明らかに顔面に右足を振り抜いており、弁明は通らず。
対する中原は試合後、「ルールが違えば負けていた。ただ、ルールが違えば、レッグロックのトライもやり方を変えていたので、そこは深く考える必要がないのかも知れません」と複雑な気持ちを吐露。
さらに、再戦の可能性を問われると、「負けている展開での出来事だとは思っていない。ノーコンテストになっていたり、負けている状況で(反則の攻撃が)あったなら、やらなければならないというか、やりたいと思っていたと思いますが」と、否定している。
試合後のホテルでは、PCR検査を受ける時にゼルトセトセグと遭遇し、反則攻撃に対して、本人とコーチから謝罪を受けたという。
中原は「ここで足踏みはしたくないです。それに、この試合で色々と分かった事や掴めた物がある。それを持ってランカーに挑みたい」と、前進したい思いを語っている。
一方、ゼルトセトセグは、試合後にコスタレフェリーとのやりとりを公開。
敗戦を「大きな経験でした」と記すゼルトセトセグに、コスタが「君があんな風に負けるのを見たくなかった。しかし、私はルールに従わなければならなかった」とコメント。その言葉に敗者は、「あなたは最高の審判です」と、返答している。
知名度は高くないものの、予想通りの打撃巧者ぶりを見せたモンゴルの強打者を退けた中原は、これでONE3勝1敗。ランカーとの試合を望んでいる。
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中原「ホテルで謝罪され、『お互いここからだな』と」
──この試合を終えての率直な気持ちをお聞かせください
「なんか、複雑な気持ちです。ルールが違えば負けていた。ただ、ルールが違えば、レッグロックのトライもやり方を変えていたので、そこは深く考える必要がないのかも知れませんが」
──あの位置で蹴られないことを想定して足関節に入っていたと。この試合で出せたこと、出せなかったことはどんなことでしょうか。
「この試合は、出せていない事も多かったけれど、試せた事も多かったです。組技に関しては不細工ではありましたが、本番の緊張感の中で試運転できてよかったと思っています」
──相手の選手と対峙してみての感想を教えてください。
「思いっきりの良い選手でした。ハンドスピードとパンチの重さがすごく、プレッシャーを感じました。そのプレッシャーで、思ったようにいかない事もいくつかありました」
───リマッチを望みますか? それとも次に戦いたい選手はいますか?
「正直すぐに再戦といわれてもピンとこないですね。負けている展開での出来事だとは思っていないし、確かに歯切れは悪いけれど、ここで足踏みはしたくないです。それに、この試合で色々と分かった事や掴めた物がある。それを持ってランカーに挑みたいのが率直な意見です。再戦はお互いが上に登ってからでもいいかなって感じです。ノーコンテストになっていたり、負けている状況で(反則の攻撃が)あったなら、やらなければならないというか、やりたいと思っていたと思います」
──試合後に対戦相手との会話はありましたか?
「ホテルでPCRを受ける時に、会話をしました。イリーガルショットに対して、コーチ、相手から謝罪を受け、その他に関しては『お互いここからだな』的な感じの会話でした。お互いにカタコトなんで、深い話はできてないです(苦笑)」