新型コロナウイルスの影響で既存の大手プロモーションが大会開催を延期し、選手の試合間隔が空くなか、強豪プロ選手を擁する格闘技ジムが自主興行をネットメディアと組んで「無観客大会」として配信する動きが加速している。
2020年6月27日(土)に、長南亮代表率いるTRIBE TOKYO M.M.Aを母体とする「TTF CHALLENGE」が第8回大会を開催。これまでの7回の大会は観客を入れた興行として開催してきたが、今回はこのコロナ禍で、「無観客大会としてチケットぴあのライブ動画配信サービス『PIA LIVE STREAM』で有料配信」することで開催を決定(※会場は非公開)。
大道塾から、2017年の北斗旗全日本空道体力別選手権の最重量級(身体指数260以上)優勝の岩﨑大河がMMAに初挑戦するなど、全8試合がラインナップされる。
また、2020年7月31日(金)には、RIZIN、PANCRASE、DEEP等で活躍する北岡悟が、自身が主宰するパンクラスイズム横浜にて、無観客の自主興行『iSMOS.1』(イズモスワン)を開催することを6月1日、発表。ニコニコ生放送(ニコニコプロレスチャンネル/解説・水垣偉弥)で生中継を予定する同大会では、北岡自ら復帰戦に臨み、現ZSTライト級王者の小金翔と対戦するほか、同ジム所属の元PANCRASE3階級王者・近藤有己が5カ月ぶりの試合に臨むなど全4試合が決定している。
大会の発表とともに、クラウドファンディングにてサポート(支援)を募集したところ、1年ぶりの北岡の試合が行われることもあり、1日で目標金額の150万円を突破。北岡は、「一日で129%行くとは思ってなかった。画像のタオルとパンクラスイズム横浜コットンTシャツは100円だけUPして15ずつだけ追加リターンとしてお願いしました」「真ん中の冠スポンサーは入りました。残り5口のケージウォールポストカバー広告スポンサー、ご興味ある方は是非とも宜しくお願い致します!」と、スポンサー協力を募るツイートを投稿。
「TTF CHALLENGE」の長南も「6/27TTF、スポンサーがほとんど決まってません。協力頂ける方いましたら宜しくお願い致します」と、大会の反響はあるものの、スポンサーの獲得が大会成功の条件であることをSNSに記している。
無観客でも有料生配信のネットサービスとタッグを組み、スポンサーを募り、大会を開催する長南と北岡。自粛期間が続いたなか、所属ジムの選手に試合機会を作るとともに、小回りが利くジム興行の利点を活かし、停滞する業界に風穴を開けようとしている。
加速する格闘技ジムの自主興行だが、両者ともに共通するのは、「with コロナ」の時代に「無観客」であろうとも、格闘技大会として担保すべき、安全性や感染予防対策の知見や人脈が豊富であることが挙げられる。
東京都が休業要請の解除行程を3段階で示すロードマップの「ステップ2」(映画館や学習塾、スポーツジム、商業施設全般などの営業が再開)に移行したことを発表するなか、5月31日には、無観客の『ABEMA』テレビマッチとして「プロフェッショナル修斗公式戦 Supported by ONE Championship」が行われ、徹底したウイルス感染防止策がとられている。
(C)SUSUMU NAGAO/SUSTAIN
ケージサイドの中継スタッフおよびカメラマンが防護服を直用。レフェリー、コーナーマンおよび関係者もマスクを着け、試合毎にマットを消毒。控え室なども消毒を施し、メインの勝利者インタビューも距離が置かれメディアの動線が制限されるなど、4月17日の「Road to ONE:2nd」同様に『ABEMA』は、コロナ時代の大会中継のベンチマークを示した。
同大会のケージ設営や運営に関わり、所属選手のサポートにも携わった長南は、これらのノウハウを共有しており、北岡も大会を視察。また両者には、ジャッジ、ドクターら競技陣営とのパイプも強く、安全面の確保も万全だ。それらの環境を整える人脈と体力が、「with コロナ」の時代の自主興行にも求められているともいえる。
そんな中、長南は5月31日の修斗大会のケージを撤収後、すぐに翌1日の自身のジム再開に向け、「ジム内を朝から専門業者による消毒作業に入ります」「6月は検温、1人2時間以内の滞在ルールの他にこんな感じで営業します。コロナ対策しながら既存会員さんのリハビリ的な期間でもあります」と奔走。
しかし、1日には「ジム開けたばかりなのに腸閉塞で再び入院です。痛過ぎて死ぬかと思いました。家族やジムの事で頭が痛くいっぱいになりました」「CT撮ってもらってついでに肺もCTしてコロナも調べてくれましたが陰性でした」「10日以上の入院が決定。この前より長くなる。腸の中が炎症、化膿していて点滴でそれを叩くそうだ。何故自粛期間にならない?」と、緊急入院したことをツイート。コロナ検査では陰性だったことを報告している。
心労も多いなか、長南は退院後、メジャープロモーション並の試合数の大会に向け、スポンサーの獲得と大会運営の準備に向かい、北岡はメインを戦う選手として、さらに興行主催者として営業と練習を同時並行していく必要がある。それでもポスターに記した通り「生きる、戦う、そして勝つ」ために万難を排して、大会に臨む。
これまでもジム興行自体は珍しいものではなく、各ジムの持ち回りの興行の連続が団体の大会になっていった歴史もある。また、宮田和幸代表率いるBRAVEジムは、人材育成大会の「BRAVE FIGHT」を22回開催。中堅プロモーションと合同開催なども行っている。
簡単ではない「with コロナ」時代の格闘技自主興行。ネットメディアとタッグ、クラウドファンディングなどの支援は、その取り組みも問われるなか、新たな格闘技の形として今後、増えて行くだろう。