2019年12月15日(日)「DEEP 93 IMPACT」大田区総合体育館大会で、16歳の現役女子高生であるさくら(フリー)がMMAデビューを果たした。
柔術でたしかな実績を持ち、DEEP JEWELSアマチュアグラップリングでも4戦4勝と負け無しのさくらは、第8試合の49kg以下契約(5分2R)で、MMAでアマチュア1戦プロ2戦の経験を持つ國保小枝(48.60kg/和術慧舟會船橋道場)を相手に、初めてケージのなかでオープンフィンガーグローブを着けて戦った。
MMAデビューを決めた理由を、「DEEPのアマチュアの試合(打撃無しのグラップリング)がとても楽しかったんです。あの緊張感やわくわく感をもっと感じたいと思いました。それに、DEEPやJEWELS、RIZINの浅倉カンナ選手の試合などを観戦して、なんというか、闘魂が燃えてきました」と語っていたさくら。
しかし、「怖がりだからいつも試合前にすごく怖くて泣いてしまいます。吐きそうになっちゃうから、入場前にずっと『怖くない、怖くない』って自分に言い聞かせて。でも今回は、練習のときから、お姉さま方の『泣くなよ』という言葉が一番、励みになりました」と、浅倉カンナや平田樹らMMAの先輩からのアドバイスが心強かったという。
実際の試合では、MMA用にサウスポーに変えた構えから、グラップラーながら國保の右ストレートに対し、果敢に内側から左右のストレートを当てにいった。
指導する横田一則K-Clann代表との作戦では、「当初の予定は、組みに行って寝技で勝負」というものだったが、「本番では打撃を試したい気持ちと、興奮し過ぎて不要な打撃を貰いました」と、さくらは苦笑しながら試合を振り返る。
初めての打撃での展開について、「ほんとうにいちから始めてまだ2カ月なので、ほかの選手が何年もかけてやってきた期間に比べるとすごく短いのですが、殴られて泣いていた最初の1週間の練習から、ちゃんとパンチも見えてくるようになってきました」と語っていた通り、國保のパンチに目をそらさず打ち返す場面も見せると、打撃で近距離になったところを、がぶりから首相撲&ヒザをボディに突き上げ、金網まで詰めて左で差して小外がけ気味に浴びせ倒すようにテイクダウン。そのままマウントを奪い、いつもの寝技ではなく、MMAならではのパウンドを打っていった。
「今回の試合で一番“出来たこと”はパウンドです」と語るさくらは、一度は柔術青帯の國保のスクランブルに起き上がりを許すが、すぐにパスガードからニーオン、相手に背中を着けさせると再びマウントを奪取。パウンドから得意の腕十字に行った。
ここも國保は腕をずらしながら後転してまたいでヒジを抜くと、さくらはポジションを失うことなく3度目のマウントへ。今度はいったんサイドに移行してから、キムラロック狙い、ストレートアームバー、再びキムラのクラッチから最後は2度目の腕十字へ。見事にタップを奪ってみせた。
近代MMAで腕十字を極めることが難しくなってきているなか、1度目はエスケープを許したさくらは、「これからは腕十字に限らず、どの技でも1発で極めきれる極め力をつけます」と、新たな課題を挙げる。
試合後は、「『勝ってひと安心だね』と、たくさんの人が喜んでくれましたが、作戦通りじゃなかったので悔しさが残りました。練習通りの打撃と寝技ができなかったので」と、悔しさを隠さなかったが、多くのファイターにとって試合本番で“練習通り”にできることは稀。これまでグラップリングでさくらがいかに“練習通り”に戦えていたかの表れでもある。
そして、“練習通り”ではなかった打撃で、ファイターにとって重要な部分も見せていた。父・徹夫さんは、「柔術の寝技の時からアグレッシブでしたが、MMAでさらに攻撃的になって、横田先生も僕もちょっと、ひいてしまいました」と、負けん気の強いさくらの打撃に苦笑する。
今後、いかにレスリングも含めたスタンドの攻防を身に付けるか。MMAに挑戦して、「想像してなかった練習、プロはこんなことしてたんだっていう発見が多くて。でもその発見とか、それに慣れていく自分とかがすごく充実していて楽しいです」と、さくらは語る。
柔術では数々の実績を持つが、MMAではルーキーだ。「みんなみたいに才能があるわけじゃないから、才能がついてくれたらいいなって。“お前、頑張ってるから(才能)やるよ”って。(努力すれば)自信にも繋がる、ってお父さんが言ってました」と、格闘技経験者である父の言葉を噛み締めている。
「片手間にやれるほどMMAも甘くないですし、しばらくは柔術よりもMMAで誰よりも強くなりたいので、真剣にMMAの練習に取り組みたいと思っています」
そう決意するさくらは、このデビューを機に、「JEWELSに2カ月おきに出場して、もっとスキルを磨いて、JEWELSに必要とされる、誰からも認めてもらえる選手になりたいです」と、継続参戦を望んでいる。
柔術時代から「“楽しんでもらえる試合”をしたいとずっと思っていました」というさくらの言葉は、応援してくれる人たちに向けて、そして、格闘技を続けることを心配する母に、格闘技をすることの喜びを試合を通して感じてもらいたいという気持ちからだ。
「でも誰にも勝ちは譲る気はないです。自分と“戦ってくれる”人に絶対に譲らないです、そこは。執着心というんですか」──今回、出場した「49.0kg」は、RIZINでは黄金の女子スーパーアトム級にあたる。果たして、さくらは“お姉さん”の先輩たちに追いつくことができるか。“泣き虫”女子高生ファイターの挑戦は始まったばかりだ。