MMA
インタビュー

【超RIZIN】ピットブル兄弟と乱闘騒ぎのクレベル・コイケ「不意打ちも逃げてもいない。突き飛ばされて、自分がやり返したことは正しくなかったけど、一人の人間として──」

2023/08/03 12:08
 2023年7月30日、さいたまスーパーアリーナで開催された『超RIZIN.2』で、前RIZINフェザー級王者のクレベル・コイケと、Bellatorのピットブル兄弟の間でトラブルがあったことが、試合後の榊原信行CEOの総括で明かされた。  大会後の当日夜には、ピットブル陣営がインスタライブで、リングサイドでトラブルがあったこと、控え室で乱闘があったことなどを公開。  パトリシオはSNSで、一方的に「クレベル・コイケは汚くて卑怯な負け犬だ。戦いの後、私の敗北を祝い、兄と口論した。それから彼は私たちのロッカールームに侵入し、パトリッキーの背中を蹴って逃げた」と告げ、RIZINに対して「こんなファイターはもうあなたのリングに上がるべきではありません」と警告した。  その言葉を受けてニュースでは「蹴って逃走」と各社が報道するなど、クレベルへの批判が集中するなか、クレベルはここまで沈黙してきたが、8月2日にマネージメントを通し、本誌とブラジルのPVTの取材に応じ、ことの真相を語った(※YouTube版はこちら)。  さいたまスーパーアリーナで何が起きていたのか。因縁の発端はどこにあったのか。動画は何をとらえていたのか。なぜこの騒動は起きたのか。前フェザー級王者は今後をどう考えているのか──渦中のクレベル・コイケに聞いた。 あのKOは本当にサプライズで立ち上がったけど、パトリッキーはリング上から── ──今回ピットブル兄弟との間にトラブルがあったことは確かですが、ピットブル兄弟の言葉だけが先行しているのはフェアではないので、クレベル選手の言葉も聞きたいと思います。まず、当日現地にいたのはサトシ選手のセコンドにつくためでしたか。 「はい。いつもお互い助け合っていますので。サトシと一番練習していますから、当然です」 ──時系列に沿って確認します。まず、当日の会場入り、もしくはファイトウィークに入ってから、ピットブル兄弟と会う機会はあったのでしょうか。 「ホテルで会っています。試合前にはルールミーティングなどでも会っているし、ホテルのなかでも、何回か会いました」 ──その段階では、(YouTubeでピットブル兄弟に触れたことについて)クレームを向こうからつけられたりはしていないのですね? 「その時には何も言われなかったですね、普通に挨拶だけして。試合当日の前半のBellatorパートでサトシの試合が終わった直後も、パトリシオがこちらに来て、『今回は(急なオファーの)試合を受けてくれてありがとう』といった声をかけてくれました。その時もまったく問題は起きてなかったです。サトシが負けて自分は泣いて悲しい気持ちだったときに、挨拶もして。そこに我々の間に何か確執があったなんてとても思えない」 ──後半のRIZINパートで、鈴木千裕選手の試合の時にリングサイドで観戦していたのは、RIZINからの要請だったと聞いています。 「そうです、RIZINから頼まれて朝倉未来vs.ケラモフ戦は次期挑戦者としてリングサイドにいないといけなかった。自分の姿をカメラで映すためですね。そういう時、スポンサーたちもいますから、自分はきちんとスーツを着て正装するようにしています。ピットブル戦のためにいたのではなくメインのために席を用意されていて、千裕選手を応援するとかあるいはピットブル選手を応援するとかではなくて、単純にイベントとして、セミから見るように言われ、そこに座っていました」 ──1カ月前にクレベル選手は鈴木選手に一本勝ちしていて、もちろん試合後にエールを交わしたりもしていたとは思いますが、だから応援していた、ということではないということですよね。そもそもこのパトリシオvs.鈴木戦が発表された時に、クレベル選手はこの対戦に疑問を呈して「???」と投稿していました。 「そうですね。その時点で分かる通り、この対戦はレベル差のある戦いだと思っていました。全然ピットブルのほうが強いと。それだけにKOは自分にとって衝撃的でした」 ──たしかに。衝撃的な1R KOでしたから、場内が一斉に総立ちになっていた状況でしたね。 「そうです。ピットブルたちはまるで自分が『鈴木千裕がKOしたことをお祝いした』というように言っていましたが、あの場にいた人だったらみんな分かる通り、あの試合は本当にサプライズで、会場中の全員が立ち上がりワー! っとなっていました。自分は1カ月前に千裕選手と試合したばかりです。自分が極めて勝っていたのだから、信じられなかった。自分にとってショックな信じられない出来事だったんです。  その状況については、RIZINの撮影チームが自分を撮影していたこともあってその様子は公開されるのではないかと思っていますが、あの瞬間、自分が“ワーッ”て両手をあげている瞬間は撮影されていました。SNSで自分が『悪態をついた』とか、ピットブルを下げるようなことをしていたように言っている人がいるようですけど、全くそんなことしていません」 ──そうやってクレベル選手が両手を挙げた姿を見つけて、パトリッキー選手が怒って近づいてきたのですか。 「彼はもともとコーナーにいて、会場が盛り上がった時に自分は手を挙げたのが、向こうから見ると(喜んで)盛り上がっていたように見えたのだと思います。彼らは、それからリングに上がって、倒れたパトリシオを介抱していて、僕らはみんなずっと立ったままでした。すると、リングの方から、パトリッキーが、中指を立てて、それから、お尻を指す、ブラジルでも最も屈辱的なポーズをしてきたんです。そしてパトリッキーが『次はお前だ』と。そういうことをされても、自分は取材のカメラがずっと密着していましたし、ノーリアクションを通しました」 ──硬い表情をしていたのは何かあったのかと思いましたが、そういった挑発を受けていたのですね。 「それから自分はカメラマンから質問を受けていたのですが、それから顔を上げた瞬間、パトリッキーを含むピットブル陣営の4、5人が目の前に立っていました。自分達側にはマネージャーのアドと自分しかいなくて、5人くらい向こうのチームが近づいてきていることに気づいていませんでした」 [nextpage] 観客の前で突き飛ばされた。これは間違ってる、と思いました ──それは観客がいる前で、ということですね。 「そうです、みんなの前です。このときに彼が言ったのは、『お前は裏切り者だ。相手の応援をした』と。『パトリシオの試合の前に廊下で会ったときには“グッドラック”と言ったのに、弟が倒れて喜んでいるじゃないか』と。続けざまに『お前はYouTubeで俺たちの悪口を言っていて、そういうことが好きなんだな』と言い放って、いきなり自分を突き飛ばしてきました。  そしてピットブル陣営たちがパトリッキーを引き連れて帰っていきました。動画を見てもらえれば分かりますが、彼の押す力が強過ぎて、もし柵がなければ天井を見上げることになっていました。その時に『いや、俺はね』って説明しようとしたのに、もうまったく一言も喋る暇も与えず、そのままドーンっと突き飛ばされて去っていって、何の反論もできなかった。  それから、自分の席にRIZINのスタッフが来て、何があったのか聞かれました。『自分は何もしていない、ただそこに呼ばれて座っていただけなのに、彼から急に、“相手を祝していた”と言ってきて、突き飛ばされた』」と。『日本だと先に手を出した方が悪いだろう?』と。その時にRIZIN側は『分かった、あとでBellator側と話をするよ』と言って、『えっ、何の抗議もしないの?』と。何というか、流されたように感じました。向こうが先に手を出してきたのに、自分を守ってくれないのか? という気持ちになりました。パトリッキーに突き飛ばされたとき、近いところにBellatorの人たちもいたのですが、彼らはただ横で笑っていただけでした。“こんなことショウでは普通だよ”という感じで映像を撮って」 ──その時のクレベル選手の気持ちとしては、ファンの前でそんなことをされたのが屈辱的だった、ということですか。 「“これは間違ってる”と思いました。RIZINパートでしたから、RIZINは自分のホームです。その中で、外から来た人間が自分を突き飛ばして暴言を吐いたのに、それが罷り通っていいのか? と。ファイターとしてではなく自分の男としての尊厳を傷つけられた気持ちでもありましたし、さらにそこからRIZINに相談しても『分かった、あとでね』とすぐに対処してもらえず流されてしまったことで、自分は傷つけられたのに“誰も守ってくれないんだ”と。そこで怒りの感情が込み上げて、スイッチが入ってしまった感じです。いま思えば、彼らも大会中で大変だっただろうし、何らかの形で動いてくれていたのかもしれませんが……」 ──その状態でクレベル選手はメインの試合まで観戦したのですか。 「見ていません」 アド(マネージャー) 5分から10分くらいでしょうか、RIZINと話した後で、クレベルが1人で控室のほうへ走って行ってしまったんです。その頃にはマルキーニョス、鈴木博昭、ヒロ(・ヤマニハ)、エベルトンたちが『クレベルが揉めているぞ』となって近くに来ていたので、みんなで『クレベルを止めないと!』となって後を追いかけました。 ──つまりその勢いでピットブル陣営の控室に向かった、ということですね。 「そうです。1人で控室に行って、バン! って勢いで入ったから、向こうはみんな立ち上がってこちらを見ていました。そしてパトリッキーに面と向かって、『さっき会場で自分を突き飛ばしたよね? その件について解決しよう、今から』と言ったんです。ここは彼らの言い分と食い違ってくるのですが、彼らが話しているような感じじゃなかった。言ってみれば、自分が勢いよく乗り込んだことで、向こうはみんなすぐに臨戦体制になっていたんです。そして面と向かっていて、蹴った」 [nextpage] 背後から不意打ちをして逃げた? ありえない。動画にも残っている ──突き飛ばされたことを「解決しよう」と面と向かった上で、蹴りつけたことは事実なのですね。 「はい。パトリッキーがマッサージ機みたいなものに倒れこみました。それで目の前のパトリシオが殴りかかって来ました」 アド それがきっかけのような感じで、クレベルのところにみんな襲いかかってきました。自分やマルキーニョス達が後ろにいたこともあって、止めに入って乱闘になりました。 ──ピットブル兄弟の最初のインスタライブでは、クレベル選手が、座っていたパトリッキー選手の背中をいきなり蹴った、不意打ちをしたというような主張がありました。 「そんなはずはない。何故そんな嘘をつくのか」 アド それはあり得ないです。パトリッキーがマルキーニョスに『おい、あいつが俺のこと蹴ったぞ、クレベルの靴の後がついてるだろ』と胸に靴の跡がついているのを見せてきたのです。だから無防備なパトリッキーの背中を強襲したなんてことはないですし、蹴るだけ蹴って逃げた、なんてこともない。そのあとに彼らの主張は変わり、パトリッキーの胸を蹴ったクレベルにパトリシオがギロチンをかけたと、そして落としかけたと。さらに、そこにクレベルが大人数のボディガードを用意していて、彼らが間に入ったところをクレベルが逃げたと言っていますが、それも違います。 「ギロチンのような感じではきましたよ、形にもなっていないような。喧嘩でそんなしっかり形に入るとかないでしょう」 アド 細かいことを言うと彼らが言っている「ボディガード」というのも、RIZINのボディガードが1人いただけで、間に入って止めたのは、マルキーニョス先生と、他の控室でこの騒ぎに気づいた、多分あればレフェリーの人たちだと思うのですが、そういう方々です。このときは休憩時間だったので。 ──そしてクレベル選手は逃げたというのではなく、制する人たちがいて、下がらされたということですよね。周囲も大変だったかと思います。ピットブル兄弟の一方的な主張はその日のうちにニュース化され、SNSでも拡散されました。整理しますが、彼らの主張と異なる点としては「不意打ちで背中を蹴ったりしていない」「パトリシオにギロチンで落とされたりはしていない」「仲裁が入ってきたときにクレベル選手が逃げ出したりしていない」ということですね。 「おそらく、彼のチームは日本で自分のイメージを落としたいんです。言うことがコロコロ変わっています。まず最初に言っていたのは、『いきなり背中を蹴って逃げた、クレベルは卑怯者』というものでしたけれど、実際にはその場では乱闘が起きました。動画を撮っている人が何人かいたし目撃者がいます。その後、パトリッキーが最初に突き飛ばした動画がSNSで投稿されたら、話の内容も変わり始めました」 [nextpage] YouTubeはどう伝わったのか ──この騒動のひとつの要因としてピットブル陣営が主張しているのは「YouTubeで悪口を言いながら、会うと普通に接してきていた。それでいざ試合でパトリシオが負けると喜んでいた。だから会場で先にパトリッキーが手を出したからといって被害者のような顔をするな」というものでした。 「まず、自分のYouTubeの内容についてピットブル兄弟は『俺たちがまるで娼婦のように(朝倉兄弟から)お金をもらって、日本に来ているかのように言っている』と、まるで自分がピットブル兄弟を揶揄したように捉えていること、そしてそれを聞いた日本人の皆さんは、あのYouTubeを確認せずにそれを鵜呑みにしています。自分はあの動画でピットブルの誹謗中傷はしていませんし、見ていただければそれは分かるはずです。 『(今回朝倉兄弟と練習していて、前回の来日の際にサポートしていた)萩原(京平)は大丈夫?』や『浮気』と言ったことなども、冗談で笑って言っているのは動画を見れば分かると思いますし、すぐに『ピットブルを応援している』と言っています。最後まであの動画を見て、日本人としては誹謗中傷しているとは思わないと思うので、どの部分が誹謗中傷と捉えられているのかが疑問な状態です。ピットブル本人たちは日本語は分かりませんから、冗談のニュアンスを伝えずに翻訳されて伝えられていると思います」 ──確かに、切り取られてしまうと文脈やニュアンスは伝わらず、さらにその言葉尻だけを悪意を持って伝えられたら齟齬や誤解が生じるでしょう。 「僕は20年以上日本に暮らしていて、一応日本語を喋りますが、そんなに流暢じゃない。100%の言葉を覚えていなくて。日本のYouTube文化をまず理解してほしい。試合の予想動画を上げたりするのってすごく一般的ですよね。どっちが勝つかな? 負けるかな? ということを一般的にやる。ピットブルをことさらに悪く言うためにYouTubeをやったわけでもなんでもなく、この時に自分は日本語を使っていて、インターネットのミーム的なものを引用しただけなんです。  それは『朝倉が(旅費等の)お金を出すから、早めに日本で練習して技術交換をしないかと誘い、そのことが、萩原と朝倉はライバルで、ピットブル兄弟と練習していた萩原を振った形になって、乗り換えた? 大丈夫』というものでした。そこで、“XXX”なんて言葉は出していません。萩原が変わらず彼らと仲良くしてることも知ったうえで、自分はインターネットのネタでジョークを言っただけでした」 [nextpage] 自分がやりかえしたのは、間違っていたと思う ──そんな状況下、YouTubeで言ってもいない言葉に変換されたのが発端だったのですね。あの動画に関しては、クレベル選手のユーモアが伝わらなかった場合に、お金について触れたりしていることで誤解されてしまうというのも理解はできます。ただ先ほど言っていた通り、最初にパトリッキーに『悪口を言ってる』と絡まれた時にも、パトリシオの試合に対してのリアクションも含めて、クレベル選手に説明の余地がなかったことは分かりました。その後に、彼らの誤解を解こうとすることよりも、パトリッキーの行動によって尊厳を傷つけられたことに対してのやり返すという気持ちの方が大きくなってしまったのですね。 「もちろん、自分がやりかえしたのは間違っていたと思いますけど、それは自分のホームだったり、スピリット、プライドを守るために仕方のないことでした。それから、自分はあそこで喧嘩して、その場で終わっていたつもりでした。向こうが突き飛ばしてから始まったことで、自分が蹴ってやり返して、そのあとみんなでワーッと喧嘩して。ところがトラブルの後、帰った彼らは大会後に急に、SNSで言い始めたり、ブラジルに発信し始めたりと、自分を悪く言う行動を始めました」 ──クレベル選手としては喧嘩両成敗でこの話は終わったと思っていたのに、彼らがどんどん発信し始めて、事実でないことが拡散されていることに驚いたということですか。 「彼らは自分を馬鹿にしたまま日本から去って、そのあとにインターネットで自分を笑いものにしている、そういう状況です。自分としても、ファイターとしてできるだけポジティブなことを発信したいのですけど、今こうしてネガティブな話をしなくてはいけないことも喜ばしくないですし」 ──なお、控室に乗り込んだのは第5試合後の休憩時間で、第8試合の朝倉未来選手はまだ試合前だったのですね。 「そうです」 アド あとで聞いたのですが、ちょうどその際に朝倉未来選手はトイレに行っていたようで、控室に戻ってきた所で、乱闘が起きている事に気づいて、部屋に入らずに、関係者が別の場所に誘導したとの事でした。 [nextpage] ピットブルがいままでBellatorでどうしてきた? RIZINは自分のホームなのに ──ブラジルのチーム同士のイザコザや、PRIDE時代の控え室での乱闘なども伝説にはなっていて、野球やホッケーなどのスポーツや、格闘技の会見でも乱闘はある。ただ、クレベル選手はプロのファイターですから、先に手を出されたとはいえ、ご自身が反省している通り、仕返しは、やはりするべきではなかったと思います。 「自分達のホームのなかで、男として、ああいうことをされた自分からすれば、じゃあ例えばピットブルがいままでどういうことをしてきたかを考えてほしいのです。Bellatorではマイケル・チャンドラーとトラブルを起こして控室で喧嘩していますし、そのあとにAJ・マッキーともやっています。今回はBellatorだけじゃなくRIZINでそれを始めました。RIZINは自分にとってはホームです。遂に彼らは、RIZINにまで来て、自分は今はチャンピオンではありませんが、フェザー級トップの選手にそれを始めたわけです。  僕は、一家の長であり、そこには自分たちのレガシーがあり、歴史というものがある。自分は、20年日本でレガシーを築いてきた。そこに敬意があってしかるべきであり、なんぴとたりとも、自分にいきなり自分の、顔だろうが胸だろうが、ホームで突き飛ばしていいわけがない。これはディスリスペクトで、敬意に欠けることです。それを、彼は、何か言い合うとかでもなくて、周りに5人くらいの人を引き連れて、一方的に自分を突き飛ばして、去っていった。臆病者だと言うのなら、それは彼の方だと思います。“誰も何もしてやくれない、いいよ、分かった。ならば自分で伝えよう”と」 ──その点では、そういう因縁をリングで、試合で見られたほうがファンが喜ぶと思うのですが、やはり相手に手を出されて黙っていられなかったと。 「……ファイターである前に一人の人間だし、人間であってロボットじゃないんです」 ──その人間味がクレベル選手の魅力でもあると思うので、やり返してしまったことはともかく誤解があった部分は説明したいと思います。ところで、今回のきっかけとなってしまった鈴木千裕vs.パトリシオ戦を、ファイターとしてどう見ていたのでしょうか。 「本当に、みんなが驚いたのと同様に自分もすごく驚きました。何が起こったのか、と」 ──それをクレベル選手はさせずに、自分から打撃の圧力をかけて、シングルレッグからボディロックに切り替えてテイクダウン、S字マウントから腕十字を極めました。 「それはもうピットブルが千裕選手を舐めていたのだと思います。自分の時は、鈴木の強さを理解して、危険を承知していました。ピットブルはそれを信じていなかったのではないでしょうか。自分の動画でも試合前に必ず同じように言っています、つまり『どんな相手といつ試合をしようと、試合は50:50』だと。何が起こるか分からない世界なのです」 ──あの試合のクレベル選手には、YAMAHAもスポンサーがついていますが、試合前には本社を表敬訪問した。きっと出稼ぎ時代の工場勤務のときにYAMAHAの部品も作っていたのではありませんか? そういう会社に支えられていて感慨深いものもあるのではないでしょうか。 「はい……」 ──クレベル選手が言っていることは筋が通っているし、手を出されて蔑ろにされた気持ちも理解できます。一方で誤解を招いたであろうことも想像できます。それでも、サポートしてくれている人たちを悲しませないためにも、やはり控室ではなく、リングで強さを発揮するべきではないでしょうか。 「今回は正直、彼らのやり方にハマったと感じています。向こうの思惑に乗ってしまった。彼らはやりたいことをやって、言いたいことを言ってブラジルに帰って、日本に残された自分は、日本でのマイナスイメージを植えつけられた。謝罪をするのは、起こったことに対してではありません。喧嘩までして、本当に悲しいんです。それで自分がただ『ごめんなさい』と言うのもちょっと違う感じがしていて説明をしたかった。彼らのストーリーのなかに取り込まれてしまったと感じています」 坂本健ブルテリア代表 ちょっと自分からもいいですか? クレベルはピットブルチームのスケープゴート(※ある集団に属する人がその集団の正当性と力を維持するために、特定の人を悪者に仕立てあげて攻撃する現象)にされたと思います。ショッキングな、信じられないことが起き、あの会場の人がみんなびっくりして立ち上がっていた。そんななかピットブル側だけが逆の立場にいたわけです。その状況で、リングサイドに派手な衣装で派手な髪色のクレベルを見つけて怒りの矛先がクレベルに向かったのではと。その前にYouTubeのこともあって全部クレベルのほうに行ったのではないでしょうか。あの時、みんなが「クレベルがピットブルに失礼なこと言った」と言っていますが、クレベルは何もしていません。 クレベル 謝罪があるとしたら、チャンピオンたるものは間違いをしてはいけないが、自分は間違ったことをしてしまったということです。 坂本 みんなイメージだけでクレベルを問題児だと思って、クレベルが悪いと言っていますが、それを言うのであればピットブル側の経歴もしっかりと見てほしいと思います。今までどんな問題を起こしているかを。これはファイター同士の話だから、冷静に中立に見てほしいと願っています。 [nextpage] まずRIZINのベルトを取り返すこと。それで、また対抗戦があるのなら── ──前大会で計量ミスをしたのは、状況的にはUFCでシャーウス・オリヴェイラ選手が王座剥奪されたときと同じです。ただ、そのあと勝ったオリヴェイラ選手は王座決定戦が組まれ、ペナルティも受けたクレベル選手には今回タイトルマッチを組んでもらえず、途中から朝倉未来vs.ヴガール・ケラモフが「王座決定戦」になっていた。元チャンピオンに対してリスペクトが足りないと思いませんでしたか。 「残念だけれどしょうがないです。それぞれの団体のルールに則って判断されることですし、それは気にしていません。後退することになったとして、自分が信じていることはひとつだけです。自分は他の選手とは違うということ。自分が最高の選手だと思っているし、自分が日本のベルトを守っている、そう信じています」 ──榊原CEOはさらに王座戦前に「もう1試合挟む」と。それも受け入れる気持ちでしょうか。 「そうですね、問題ないです、それは」 ──二つとも勝ってベルトを取り戻すことが目標ですね。リングの中で強さを見せるしかない。榊原CEOは大会後、今回の件について「これもうまく次のプラスに変えるようにしたい」とマッチメイクに生かしたいとも語っています。 「自分がまず集中しているのは、RIZINのベルトを取り返すこと。自分はベルトを失ったけど、RIZINに出てからの戦績で負けたのはピットブルだけで、しかもすべて一本勝ちしている。誰よりも一本勝ちしている。自分こそがチャンピオンの器であると思える事実です。だからそれをまずベルトを取り戻したい。それで、また対抗戦でもあって『ピットブルと』ってなるなら、いいじゃないか、やってやる。タイマン勝負だ」 ──朝倉選手とケラモフ選手の試合は? 「見てないです。帰っちゃったからまだ見てない。SNSでチラッと見ただけです」 ──試合内容はさておき、王者となったケラモフ選手に対して、今どう思っていますか。 「何も変わらないです。自分はただ勝つだけです」 ──彼がベルトを持ち続けたら、いつまでに挑戦したいですか。 「可能であれば、年末までに日本でやりたいですね」 ──あらためて今回のことを振り返り、後悔はありませんか。 「後悔はしてないです。だけど誇れることでもない。自分はインフルエンサーだし、ジムの名があり、子供がいて、このスポーツで生計を成り立たせていて、この競技のなかで、自分というものを戦って証明していかなきゃいけない、そうやって、よりよいイメージを持たれなきゃいけない。だからこういうことはスポーツにとっては良くない。だけど、僕は誰かが間違いを犯しても、誰かが気分を悪くするようなことをしてきても、変なことは言わない。その人たちの問題だから。  今回、自分のところにきて、話をすることだってできたはずです。もっといい形で。意見を交換しに来てくれれば、誤解を解いてこれまで通り友好的に接することが出来る。今回間違っていたのは自分じゃなくて明らかに向こうで、もちろん自分にも悪いところもあったけど、とにかく彼らにちゃんとした通訳をつけてほしいんです。ライブ配信をするときとかも訳す人間がおかしなことにしているときもある」 ──最後に、ファンの皆さんにメッセージを。 「自分のやったことは正しくなかったです。そのことはみんなに謝りたいです。自分はファイターやチャンピオンである前に一人の人間で、人間として起こした過ちです。自分は間違っていたかもしれないけど、喧嘩したいとは思っていません。すべての人生は流れに沿っています。そのなかで自分の信じるもののために、これからも精進していきます」
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