(C)ONE Championship
1月31日(金)にフィリピン・マニラのモールオブアジアアリーナにて「ONE: FIRE & FURY」が開催され、和田竜光がブラジルのイヴァニウド・デルフィーノと対戦する。
2019年8月の前戦でデメトリアス・ジョンソンに判定負けした和田だが、序盤は得意の形に持ち込み、元UFC世界フライ級王者に肉薄する場面を見せた。あの試合を経て、和田は何を思い、今回の試合に向かうのか。1月20日の会見後に聞いた。
――1月31日(金)にフィリピン・マニラでイヴァニウド・デルフィーノと対戦する和田選手ですが、その試合についてうかがう前に、8月2日に同じマニラで戦ったデメトリアス・ジョンソン(DJ)との試合について聞かせてください。和田選手がDJをいかにコントロールするのか、期待して見ていました。そして、1Rはその手応えがあったように感じます。ここにハイライト動画があるので、少しご覧いただますか。
「久しぶりに見ました。やっぱりDJは流れるように動く。打撃とグラウンドが一体化してます。そしてやっぱり早いなっていうのはありましたね」
――このバックテイクは和田選手の得意なパターンにハメていたのではないですか。
「バックを取っても正対された。回られたんですけど、ここに行く前の、僕がやりたかった形ではちゃんと入っていけてなかったんです。DJは多分、ここから先に行ったら、もっとやばい状況になるっていう察知能力があったので。自分がいい形のところまで行けなかったですね」
――「お竜ロック」にはこの先の展開がある。それをDJは動かず回避したと。
「そうです。知らない人は動くからこっちもトップを取ることができる。DJはそこに行ったらヤバいというのが分かるのだと思います」
――なるほど。とはいえ1Rはチョークは防がれたものの、バックから打撃も入れられました。手応えを感じたのは……こちらの勝手な思い込みでしょうか。
「得意な形を1ラウンド目に取ることが出来て、“DJにもかかるもんだな”と思ったんです。じゃあ、2ラウンド目もそれをやってみるかなという感じで入った。ただちょっと仕掛けを急いだところもありました。それにDJが反応してきたから思うように出来なかった。その引き出しの多さを感じました。でも……動きの中でDJに極められることもなかったし、“やりたかった試合”はある程度、出来た感じです」
――“やりたかった試合”というのは?
「僕の得意な技を出せたし、この世界の一番凄いヤツと真剣に戦う──DJと“グルグル”したかったんですよ。こう動いたらこうしてくるなって。追っかけあいっこみたいな。それを、僕が仕掛ける側でスクランブルができればもちろん最高なんですけど、逃げる時のスクランブルも好きで“どーだよ、逃げたぜ”っていうのも楽しかった」
――実際に極めさせなかった。でも結果としては判定負けになる。その差はどこにあると感じましたか。
「例えば、1RのバックはDJが知らなくてパカッとハメることができた。言ったら飛び道具的な一発技の部分はあるんです。でも、それ以外のステイタス(能力値)というか、動きは基本的にDJに負けてる。いい展開は作れて、僕もDJの極めを防げるけど、これ(お竜ロック)を突破されて、あとはずっとDJの方が上回っていた。お竜ロックは狙ってたわけではなく、僕の動きの中で得意だから勝手に出る。したい動きが出来たんですよ。でもそれを跳ね返されちゃったから、しょうがない。バックについて、“お竜ロック”だって言ってますけど、この段階ではただのポジションを取っただけなので、それをディフェンスされて正対されて、テイクダウンされてヒジを当てられカットさせられて負けたので。“ちゃんと負けたな”と感じています」
――2Rも首相撲で互角でサイドを奪われてもダメージというほどではなかった。3Rはコントロールされている。しかし、これを選手は完敗とは感じにくいだろうなと思っていました。
「全然そういう感じじゃないです。“くそ、勝てた試合だったのにな”とは、あんまり思えてなくて。実力を出し合って、実力負けしたなっていう感じです」
――そういう試合を経た上で、次の試合に向かう時に和田選手の中で、何か変えたことなどはあったのでしょうか。
「変えたことは何もないんですよね。僕のこの身体に体験した、DJと戦ったっていう経験値は僕の中に入り込んで記憶にあるし、人生の中で最高の時間だったっていうのはあるんですけど、だからってDJと戦ったから強くなるわけじゃない。経験値として身になっているところはもちろんあると思うんですけど、それで急激に強くなるはずがない。ただ、僕の中でできる練習を、本当に毎日積み重ねてきました。“滑らかに”ですけど、確実に、絶対に強くなってるはずだなって感じられるように」
――今も出来ることが多くなってるような部分があるのでしょうか。
「バリエーションがすごい増えるっていうわけではないんです。でも、精度は上がっていると信じてやってますね」
――対戦相手のブラジルのデルフィーノですが、「Jungle Fight」でも戦い、8戦無敗なのに動画がほぼ無いに等しい状況でした。いまどき珍しい、すべて削除したのか、ONEはどうやって契約を判断したのかと思いました。一方で和田選手の動画はいくらでも見ることが出来る。和田選手にデルフィーノの動画が与えられないのは、ちょっとフェアじゃないと思いました。
「そうですね……でも、普段から相手の対策をすごく綿密に立てて試合するタイプじゃないんです。いつもだったらだいたいの感じは頭に入れておいて、あまり囚われないように戦っているので。ただ、データがないっていうのは実際はやり辛いですけど、ある程度構えたり雰囲気で察知してやるしかないですね。ただそれは別に苦手じゃないと思っていて、そういうときに対処できる練習もしています」
――どんな対戦相手か分からないときにも戦い方はあると。そうしてこの年末年始も過ごしてきたのですね。ところで、この年末で何か刺激を受けた試合はありましたか。
「技術的にどうこうっていうのは、あまり思わないです。ただ楽しんで見ました。RIZINもすごいなとか」
――和田選手がRIZINで対戦し、カーフキック……長倉キックを効かせたカイ・カラフランスもあの後、UFCで3連勝していましたね。
「はい。この前はブランドン・モレノに負けちゃいましたけどね。でもあの時、RIZINで“和田はワケわかんない外国人選手にショッパイ試合したから、勝っても干されるんだよ”って意見を見て、“カイ、普通に強ェえから”とは思ってます(笑)」
――ちなみに、あの「お竜ロック」はいつ頃から使っているのでしょうか。手足の長い選手が使うイメージがあります。
「5年ぐらい前かな。もともとは名前とかも付けてなかったんですけど、練習で『今のどうやったんですか?』って仲間から聞かれるようになって。“コレ、あまりやってる人いないな。俺のオリジナルかな?”って思って、『お竜ロック』と周りが言い出すようになりました」
――日々、MMAを磨くなかで滑らかに強さを増している、そういう和田選手がONEの中で目指すものは?
「誰と戦ったからではなく、日々成長して強くなっていること、それを結果として出さないとONEにも必要とされない。トップ戦線で戦うことができなければ辞めるときです。だから、もちろん目指してるのはチャンピオンなんですけれど……最近、大沢ケンジさんが作ったランキングもあって、あれで僕の上にいる人たちに全く異論はないんです。でも、1人ずつちゃんとやっつけてチャンピオンになるぐらいじゃないといけない。そんなにチャンスがあるとも思ってないですし、毎回相手も強いのでギリギリの勝負をしていくと思いますが、組まれた試合を一つずつしっかり戦って勝っていきます」
――MMAでプロ12年目を迎えます。MMAへの探求心は枯渇することがないようですね。
「MMAに飽きたなとか、嫌だなと思ったら辞めています。嫌だなと思ったことは、今のところ1回もないですね。負ける時もあります。そもそも、俺スーパースターじゃないから(笑)。でも次やったら勝とうと思いますし、僕は、MMAは“キング・オブ・スポーツ”だと思ってるんです。やることがいっぱいあるから面白い。打撃もやらなきゃいけないし、柔術の世界チャンピオンとグラップリングしたら勝てないけど、MMAだったら一本取ることがあるかもしれない。ロッタンと試合をしても、MMAだったらKOすることがあるかもしれない。やっぱり、この裸で取っ組み合って、何でもありでどっちの方が強いのかって決められる競技って楽しいなって。極められたり極めたり、寝たり起きたりして……これが楽しいんですよね、どういうわけか(笑)」
――これほどタフなのに楽しいと。
「少しずついい方向に変わっていると思います。よく『いろんな人が応援してくれるから頑張る』とか、『みんなのために』って言ってる人がいて、すごいなと思ったんですよ、シンプルに。僕はそうやって思って戦ったことが無いので。誰かにお願いされてやっているんじゃなくて、全部自分のためにというか、やりたいからやってる。僕は僕のために僕のMMAで戦う。ただ、人のために戦うわけではないですけど、自分の試合や動きを見て、何かを感じてくれる人がいたら嬉しいな、と思います」
――マニラでの和田竜光選手のMMAを楽しみにしています。
「またマニラですが、好きな会場なんです。お客さんの盛り上がりがすごいマニラの応援に乗っていい試合をして勝って、また日本に帰ってきます!」
【写真】1月31日のマニラ大会には、佐藤将光(坂口道場)、和田竜光(フリー)、MOMOTARO(OGUNI-GYM)の3人の日本人選手が出場する。