2025年12月14日(日)東京・後楽園ホール『RISE 194』にて、引退セレモニーを行う第2代RISE QUEENアトム級王者・宮﨑小雪(TRY HARD GYM)のインタビューが主催者を通じて届いた。
宮﨑は小学3年生から空手を学び、アマチュア戦績10戦10勝(3KO)無敗の戦績を引っ提げ、16歳で2019年11月にプロデビュー。新人離れしたテクニックを見せて関係者から高い評価を受け、2021年1月「アトム級NEXT QUEENトーナメント 2021」で優勝。3月にはRISE QUEENアトム級王者・紅絹を破り第2代王座に就くと、伊藤紗弥、小林愛理奈、ペットルークオン、MISAKI、ビョン・ボギョンを連続撃破。
2024年3月にはK-1 WORLD GPアトム級王者・菅原美優に延長Rで判定勝ち、国内最強を証明した。7月には元WBC女子世界ライトフライ級王者のサムサンにTKO勝ち、12月にタン・スアン・ユンをKOして14連勝を飾ると、留学のため王座を返上していた。生涯戦績は16勝(4KO)1敗1分。22歳。
すごく楽しかった格闘家人生
――改めて“引退”という事で、競技生活お疲れ様でした。
「ありがとうございました」
――プロキャリアの6年を振り返ってみていかがですか?
「結構あっという間でしたね。デビューしてからあっという間に時が過ぎていったように感じます」
――デビューしたのが16歳ですよね?
「16歳でデビューしました」
――デビューした時は現役生活6年間18戦も試合をやると思っていましたか?
「思っていましたね。でも順調に格闘技人生が上手くいくとは正直思っていなくて、もっと苦戦するかなと思っていました」
――現役生活を長くやる選手もいる中で、どちらかというと若くしてデビューしてまだ若いうちに引退するという競技生活は考えていましたか?
「デビューした時はもっと長くやるのかなと思っていました。上手くいかない事も沢山あると思っていたので。だからこそ長くやるのかなと考えていました」
――競技生活の中で、色々な葛藤や苦悩がいっぱいあったと思うんですけど、側から見たらすごい駆け抜けたなっていう印象もあります。ご自身で振り返った時に、楽しかった競技生活なのか大変なことが多かった競技生活だったのか、どちらになりますか?
「やっぱりすごく楽しかった競技生活だったなと思います。練習とかはキツイ事や辛い時間の方が長いんですけど、それでも格闘技人生を振り返った時に1番思い浮かぶのはベルトを取った時の嬉しさだったり、自分が勝った時の周りの笑顔だったり、そういうのがパッとすぐ思い浮かぶので、自分にとってはすごく楽しかったなと思える格闘技人生でした」
――少し休んでいる期間からそのまま引退という形になりましたが、今までは幼少期から格闘技の練習をずっと続けている生活を送ってきたと思いますが、休養中を経て生活リズムなどに変化はありましたか?
「小さい頃から体を動かしてきたので、留学先でも体を動かしたくなりました。留学に行っていた期間も寮の中にジムがあったので、ランニングマシンで走ったり筋トレなどはしていました」
――引退発表の会見を行いましたが、周りからの反響はいかがでしたか?
「周りからの反響は、SNSなどでいろんなメッセージをいただいて『辞めてほしくない』とか『もっと試合を見たかった』という声をいただく事が多かったです。でもそうやって言ってもらえる事がすごく幸せなので、ありがたいなという気持ちでいっぱいです」
――改めてになりますが、引退を決めた理由について教えていただけますか?
「フィリピンに留学に行って、色んな国や年齢の方たちと出会って、その国独自の文化を知ったりコミュニケーションを取っていく中で、自分が抱えていた悩みや考えていた事がすごくちっぽけに感じて、“世界はすごく広いな”と感じたんですよね。私はずっと格闘技しかしてこなかったので、格闘技のことだけしか知らなかったけど、フィリピンに行っていろいろなことを経験して、もっと色々なことを知りたいと思って、ワーキングホリデーに興味を持った事がきっかけでした」
――なるほど。フィリピンに行って考え方が変わったという風に仰っていましたが、色々な世界を知りたいと思った時に1番にどんな気持ちが湧いてきたんですか?
「周りも留学が終わった後にワーキングホリデーに行くっていう方がすごく多くて、30代の方たちもいらっしゃったんですけど、ワーキングホリデーって年齢制限があるので行きたくても行けない人たちもいたし、ラストチャンスの人とかもいたんですよね。その中で自分はまだ22歳で“今すぐに自分がやりたい事をやらなければ、今後公開するんじゃないかな”という思いが湧いてきました」
――どういう仕事をしたいというよりかは、色々な世界を見てみたいというのが今の思いなんですね。
「そうですね」
[nextpage]
足りないものは歩きながら拾っていく
――ワーキングホリデーに行くところは決まっているんですか?
「12月1日から北海道のニセコに行って、4ヶ月くらいリゾートバイトみたいな感じで接客英語などを学んで過ごして、来年の4月中旬頃からニュージーランドに行こうかなと思っています」
――それは1年くらいですか?
「そうですね。1年行けたらいいなって感じですね」
――現地に行ってからお仕事を決めるんですか?
「現地に行って仕事と家を探してという感じです」
――家もなんですね。
「そうなんですよ」
――それも良い経験になりそうですね。
「一人暮らしもした事がないんですけど、家の契約とかも全部英語でしなければいけないし、自分が何を優先して家を選ばなければいけないのかという部分でも、自分のことを知れるなと思っています」
――海外に興味を持ったきっかけは?
「小さい頃は海外に興味があるタイプではなかったんですけど、海外の選手と戦うようになってからだったり、周りの友達もワーキングホリデーに行っていて、SNSなどを見てすごく楽しそうだなっていう風には思っていました」
――なるほど。周囲の影響もあって思い切ってチャレンジしてみようと思ったんですね。
「そうですね」
――引退会見の時に『20代で得た知見』という本を読んで背中を押されたと仰っていましたけど、具体的にはどういう内容でどんな部分に感銘を受けたんですか?
「その本の1ページに『60代の貴婦人に人生でやり直したいことはありますか? という質問を尋ねました』って書かれていて、その60代の貴婦人さんが仰っていたことが“いつかお金を貯めてから海外に行こう”とか“いつか英語ができるようになってからこういう事をしたい”とか、それ以外にもこういう事をしたいっていう風に思っていたけど、“そのいつかは来ないと知った”“事前完璧主義になるんじゃなくて、足りないものは歩きながら拾っていくしかないからすぐ行動するべき”っていう事を書かれていて、そこに感銘を受けました。
私は結構事前完璧主義になっちゃうタイプなので、事前に100%の準備をしてから行動したいタイプなんですけど、それでは遅いなと思って。英語がもっとできるようになってからワーキングホリデーに行くという選択肢もあったと思うんですけど、自分がいつ死んでしまうか分からない世界で生きていて、明日が来るという保証もないのにこれができるようになってからっていうのは遅いのかなとも思ったし、そういう風に考えていて行動できずにもし自分が事故とかに遭って死んでしまったらすごく後悔するなと思って、その1ページに感銘を受けて行動しようって思いました」
――なるほど。これをご家族に話した時はどういう反応でしたか?
「反対されたりとかは特になくて、留学に行く時も肯定的で、新しい世界を見て色々な経験をしてきなっていう感じで背中を押してくれました。実際に『引退しようと思うんだよね』って話した時も、何かを辞めることは決断力がいることで簡単なことではないし覚悟も必要なことだけど、本当にやりたい事でその覚悟があるんだったらいいと思うよって背中を押してくれました」
――ご家族は背中を押してくれたんですね。
「はい」
[nextpage]
女子選手でも魅せられる選手は多い
――格闘技の話に戻りますが、これまでの戦績は18戦16勝1敗1分ですが、この戦績はご自身ではどう思いますか?
「順調に行った格闘技人生だったなと思います」
――その格闘技人生で印象に残っている試合はありますか?
「やっぱり初めてのタイトルマッチで戦わせていただいた紅絹さんとの試合が自分の中で1番印象に残っています」
――それはどういう部分で印象に残っているんですか?
「プロデビューしてからずっとチャンピオンになるっていう目標を掲げてやってきていたので、それを叶えることができたのはすごく嬉しかったですし、あの時の構図として紅絹さんの方がベテランで、経験を積んで修羅場を潜って来た選手vs若手の新人選手みたいな見え方だったと思うんですけど、そこの大きい壁を乗り越える事ができたので、ここでチャンピオンになる事で自信になりました」
――キャリアでいうと、1戦以外は全部RISEで試合をして来ましたが、RISEという団体に対してはどんな思いがありますか?
「デビュー戦からRISEに出させてもらったので、今思うと本当に幸せな事だなと思いますし、RISEという価値のある団体に出場する事ができて、その中でRISEのベルトを巻く事ができて幸せだなという風に思います」
――戦ってきた中でも、戦っていない方でもライバルみたいに意識していた方とかっているんですか?
「3回戦っている小林愛理奈選手とかは、デビューしたのは私の方が早いんですけど活躍していた時期はかぶっているので、そこでのライバル意識とかは常にあったかと思います。K-1とかでいうと、松谷綺選手とかは自分にとってはライバルみたいな存在ではありました」
――常に同世代の選手たちを意識してやってきたんですね。
「そうですね」
――引退を決めてから、まだ具体的に今後の事は分からないかもしれないですが、空手やキックボクシングという部分には今後も携わっていきたいなと思いますか?
「今は格闘技に関わった仕事というよりかは、全く違う仕事をしたいなと思っていて。理由としては格闘技をやってきたからこそ、他の世界を知ってみたいという思いが強いので、もっと英語をできるようになってから英語を使った仕事に就けたら自分の理想ですね」
――今現在もジムで練習をしているそうですが、それは12月のタイトルマッチを控えた平岡選手のサポートみたいな感じですか?
「そうです。基本的に毎日ジムに行っているんですけど、自分の練習というよりかは琴ちゃんのサポートをメインにやっています」
――なるほど。12月1日には北海道の方に行ってしまうんですよね。
「1日に行ってしまうんですけど、14。15日だけこっちに戻ってきて、またすぐ戻ってという感じです」
――ご自身が巻いていたベルトを、同門の一緒に練習してきた平岡選手が巻くところまで来ているという事についてはどうですか?
「嬉しいですね。同じ階級だったのでお互いに言ったりはしていないですけど、遠慮とかは多少あったと思うんです。それを何の遠慮もないまっさらな状態で100%で勝ちにいく事ができるし、琴ちゃんがずっとRISEのベルトを目指してやってきていたのは知っているので、その思いが本当に報われる時が来たなと思います」
――今戦っている女子ファイターたちに言っておきたいこと,アドバイスなどはありますか?
「昔からそうだとは思うんですけど、やっぱり男子選手の方が注目を浴びることが多い競技だと思いますし、迫力も男子選手の方があるのかなとは思うんですけど、女子選手でも魅せられる選手は多いと思うし、今後どんどん若い選手たちも花が咲いてくる時期になってきます。そういう選手たちが1人でも多くの人に“女子格闘技もすごいんだ”っていうことを伝えられるような選手になってほしいという希望があります」
――最後に今まで応援してくれたファンの皆様にメッセージをお願いします。
「今まで本当に沢山の応援をありがとうございました。練習とかでも辛い時が沢山あったんですけど、そういう時に思い浮かぶのは勝利した時の周り周りの方々が喜ぶ姿でした。その姿を想像して頑張ろうと踏ん張る事ができていました。皆さんの応援がなかったら私はくじけていたと思うし、もっと戦績が悪かったりとか、連勝をする事もできていなかったと思うので、本当に沢山の温かい応援に支えられてここまで突っ切る事ができました。ありがとうございました」〇こちらも必読、宮﨑小雪の引退記念インタビュー掲載『ゴング格闘技』No.341・2026年1月号