2025年8月16日(日本時間17日)米国イリノイ州シカゴのユナイテッド・センターで開催の『UFC 319: Du Plessis vs. Chimaev』(U-NEXT配信)にて、UFC2戦目に臨む朝倉海(JAPAN TOP TEAM)が前日計量で126ポンドのリミットちょうどで計量をパス。同じく126ポンドでパスしたティム・エリオットと公開フェイスオフで熱い視線をかわした。
前回のフライ級王座戦の125ポンドから、非王座戦の+1ポンド規定が適用される126ポンド(57.15kg)のジャストでパスした朝倉。現地朝の「本計量」では、アンダーショーツを脱いで、黒カーテンの中で計量し、クリアした。
しかし、このシステムに苦言を呈したのが対戦相手のエリオットだ。
「彼らの計量のやり方が嫌いだ。誰も読めないスケールを使って、そしたらカーテンを持ってくる。デジタルスケールに私たちを乗せて世界に見せればいい。そうすれば疑問の余地はない、彼は体重オーバーだったんじゃないかと推測してる!」とXで難癖をつけた。
黒カーテンの前に置かれた天秤式の体重計は公開されているが、エリオットは「彼らは公式の計量前にデジタルスケールで失敗した場合にのみカーテンを出す。これはプロセスの欠陥であり、海とは関係ない。彼は体重をクリアしたと彼らが言ったからクリアしたのだろう。誰もが見える場所に体重を表示するスクリーンがあれば、みんなが知ることができるのに」と追記した。
地球の自転によって遠心力が働くため、地域によって「重力加速度」が異なり「重さ」も異なる。たとえば、北海道と沖縄を比べると、北海道の方が約0.15%重くなる。天秤式の体重計は、地球の緯度に関わらず正確な「質量」が測定できるため、階級制の競技を世界の各地で行う場合、フェアとされる天秤式が用いられている。
とはいえ、今回のエリオットの投稿は、試合前の神経戦か。
今回は全裸でジャストの126ポンドでパスした朝倉は「やったぜ」と握り拳。その後の観客の前での「公開計量」では、シカゴのファンから大きな歓声を受けて体重をコールされると、両手でガッツポーズを作り、笑顔を見せた。
そしてフェイスオフでは、握手後、エリオットはすぐに両手を胸の前に置いてファイティングポーズ。朝倉はそれをうなずいて見つめてから最後にファイティングポーズを作ると、ポンと肩を叩いて踵を返している。
日本時間昨夜の本計量後、海はSNSに「計量クリア もう7キロ戻ってるから安心して 明日は最高のコンディションで戦える」と記し、すでにバンタム級を越えてフェザー級の体重近くまでリカバリーしていることを明かした。
同大会をライブ配信するU-NEXTのインタビューでは、「注目してほしい動き」を問われ、「打撃の部分でもちょっとスタイルを変えたので、今まで使ってなかった攻撃を出すと思うので、ちょっと楽しみに見てて欲しいです」と答えた朝倉。
「まずは今回の試合に集中して、しっかり勝ってたら、年内にもう一発やれたらいいなと思います。(次に戦いたいのは?)ランキングトップテンの誰か。カイ・カラフランス(6位)がいいかな」と、フライ級上位の11位のエリオットを下し、目標はその先を見据えている。
[nextpage]
朝倉は俺から最高のものを引き出してくれる(エリオット)
(C)Zuffa LLC/UFC
一方、38歳で円熟のエリオットは、前十字靭帯損傷から1年8カ月ぶりの復帰戦に向け、「体重は問題ないが普段より軽い。コンディショニングは少し心配で、以前はできていたこと──ハードにトレーニングして疲れて、その後回復する──それが、歳を取ってきて、トレーニングの仕方を変えなければならなかった。人生で初めて年齢を感じ始めたが、トレーニングの方法とアプローチを調整するだけで済んだ」と、身体と相談しながら、調整してきたと告白する。
負傷についても「前回の試合から650日ほど経ったが、それは怪我のためだ。その期間中に2つの試合の準備をしていたが、怪我をしてしまった。ACL(前十字靭帯損傷)置換手術の金属部品を取り出す必要があり、ACLの金属部品を交換したんだ。それ以外では、対戦相手を見つけて試合に臨むだけだ」と、コンディションを語った。
また、朝倉について「海の試合はそれほど見ていないけど、彼は非常に才能があり、素晴らしいパワーを持っていることは知っている。多くの良い選手と対戦してきていることも。これは俺が日本の選手と対戦する2度目の機会で、以前、扇久保博正と対戦したから。彼は『ジ・アルティメット・ファイター』で戦った、非常に親しい友人であり、素晴らしい人物だ。その扇久保にも俺と同じように海は勝っている。正直、今回の対戦相手には本当に満足している。ノックアウトパワーを持つ選手と対戦できるのは興奮する」と、待ち切れないとした。
エリオットは、20勝中7つの一本勝ちと3つのKO・TKO勝ちをマークし、10の判定勝ち。KO・TKOによる黒星は、デビューした年に1度のみ。それ以降は、打撃でのフィニッシュは許していない。
組みではギロチン、ダース、アナコンダチョークの首系の極めに加え、下からの三角絞めも得意としており、その強いレスリングを武器に、スタンドでも左右スイッチして間合いを潰してシングルレッグテイクダウンからサブミッションを狙う。勝負所での押さえ込みも強い一方、一本負けを6度記録しており、諦めが早く試合のムラがあるのも特徴だ。 エリオットは、海との相性について「幸運なことに、俺はキャリアを通じて、本当にダメージを受けるような打撃を受けていない。そして、俺を倒す最良の方法はテイクダウンして柔術で仕留めることだと感じているが、この試合ではその心配はない。だから、かなり良い状況だ」と、朝倉がテイクダウンディフェンスが強いものの、極めが無いと指摘。さらに、自身に打撃のダメージの心配もないとした。
朝倉と対戦するグラップラーにとって、試合のキーはいかにテイクダウンするかとなるが、「ただテイクダウンを狙うだけではないように頑張るつもりさ。彼は、相手がテイクダウンを狙うところをとらえるのが非常に上手で得意だ。しかし、俺はこれまで戦ったすべての相手をテイクダウンしてきた。UFCフライ級部門でテイクダウン記録も持っている。デメトリウス・ジョンソンとの試合でも5、6回はテイクダウンした。彼をテイクダウンする自信はあるが、それだけでは終わらない。これはレスリングの試合じゃない。俺が彼をテイクダウンするだけじゃない。試合に勝つ。激しい戦いになるけど、それを楽しみにしている」と、テイクダウンと、スクランブルのなかでの極めにも自信を見せている。
日本の人気選手の朝倉海と対戦することで、日本のファンとも交流することになったが、「正直、日本のファンと交流し、出会うことで、MMAに新たな光が差した。なぜなら、通常、人々は常に何か否定的なことを言う。ファイトスタイルやスタミナ、髪型、見た目、交際相手などについて。でも日本のファンは朝倉海を愛しているが、その対戦相手にも親切さと尊敬しかない。なので、俺は友達を作ったような気がするよ。インターネットで知り合った友達と戦うことで、いつか会いたいと思っている人たちがいる。そのせいで、今日本に行きたいと思っているくらいだ。本当に格闘技が好きな人たちがいて、日本のファンベースはただ格闘技を愛しているんだ」と、対戦相手にも敬意を持つ日本のファンに好意を感じている。
注目の試合に向け、「俺はプレッシャーが好きなんだ。つまり、俺が良い結果を出せない時ほど、俺はその状況に挑む傾向がある。俺は、この朝倉のように高く評価され、才能があり、良い選手で率直な選手と戦うことが好きだ。なぜなら、彼は俺から最高のものを引き出してくれるから。俺にとってペイパービューのメインカード入りすることは、かつてのUFCにいた時と同じような感覚だ。USADA導入前も導入後もUFCにいたからね。海のおかげで俺が得るべき評価を得ている。だから感謝している」と、アンダードッグとして、評価を覆すつもりだ。
「正直、何度も言ってきたけど、通常は3ラウンドの激しい試合を望んでいる。でも、ストライキングを磨いてきたし、レスリングでの過剰な攻撃を控えるように練習してきた。だから、この試合ではスタンドアップの技術を披露したいし、レスリングに依存しないトリッキーな柔術も試したい。テイクダウンを狙って悪いショットを打ったら、海は間違いなくその代償を払わせるだろう。だから、その点について調整をしていくつもりだ」と、朝倉のグラップラー殺しの安易なテイクダウン狙いにはハマらず、立ち合いから、これまであまり見せていない「トリッキーな柔術」の引き出しを開けたいとした。
「ファンの皆さん、こんにちは。ティモシー・エリオットです。皆さんを本当に尊敬しています。愛しています」と語ったエリオット。朝倉はシカゴでUFC初勝利を挙げることができるか、それとも“門番”が新参者を跳ね返すか。